第5話

「いやもーめっっちゃ感動しちゃって。だめすかねー。あ、なんなら一週間お試し期間つきとかでもありっすから」


 なんだそれ。

 

 ていうかあなたとは番組で少し一緒になったことがあるくらいでそれも別コーナーとかでほぼ話したことないわよね。


 完全にその場のノリ。

 それだけでこんなことを口にするなんて。

 だから男はきらい。


「冗談言わないで」


 すげなく突っぱねると、彼はくくっと笑った。



「まぁ、そう早まらないでいただけますか。後悔はさせませんので」



 え? 

 なんか一瞬前と別人のような低く落ち着いた口調と声がきこえたような。


 今声を発したの、ほんとにこいつ?

 愚蒙伊吹なのか――。


「じゃ、一考よろしくっす!」


 スチャっと二本指をあげると、伊吹はその背にギターを背負っているにもかかわらずスキップでもはじめそうなほど軽い足取りで、へらへらと姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る