第32話 すげえな、五次元能力か。おもしれえ。見せてみろ、お前の力を
錬司はジャッジメントだ。ここでランクAだと明かせば、もしかしたら戦いになるかもしれない。
信也は覚悟を決めて、そっと聞いてみた。
「錬司、どうしてこんなことをしてるんだ?」
「…………」
錬司は答えない。笑みはなくなり真剣な表情で信也を見ている。
「どうしてハイランカーを襲うようなことを? そのせいでアークアカデミアはお前を狙ってる。こんなことはもう止めるんだ。そもそも、何故錬司が――」
「そんなに俺と戦いたくないか?」
「なっ!?」
錬司の言葉に信也は凍りついた。
「分かるさ。光を屈折させた俺が分かったんだ、そして今の変身。ランクB以上は確定だ」
錬司は両手を上げるとスッと下ろした。
「錬司……俺は!」
戦いたくない。錬司は信也にとって憧れの人だ。こんな風になりたいと、人間の可能性を教えてくれた人だった。何度も助けてくれた人だった。
しかし。
「なら話は早い」
「!?」
錬司は右腕を上げ、信也に向けたのだ。
「狩らせてもらうぜ、ハイランカー」
「どうして……」
明確な宣戦布告。
信也の意識が昏い闇に引きずり込まれていく。目の前の現実に心が砕けそうだ。
しかし錬司は止まらない。錬司の周囲で地震のような揺れが起こると床が砕け始めた。床に披裂が入ると今度はいくつもの破片が浮上し始める。
「なんだ!?」
錬司は光や音を操るだけでなく物体も操っている。しかしこんなことはあり得ない。
ランクアップと共に不可能だと言われているもの。それが複数の異能、マルチアークの獲得だ。
しかし現に錬司は複数の異能を発動している。そして、信也を襲おうとしている。
「止めてくれ錬司! 俺はお前と戦う気なんてない!」
「俺にはある」
「どうして!?」
「お前がハイランクだからさ」
いくら叫んでも変わらない。錬司は信也を攻撃する気だ。このままでは危険だ。
信也は、仕方がなく発動した。
「俺はランクAアーク『並行世界・自己投影(パラレル・フュージョン)』発動!」
「へえ、ランクAだったか」
「パラレル・フュージョンの効果! 並行世界にいるもう一人の自分の技能と姿をコピーする。俺はパラレルワールドにパスゲートをセッティング! こい、ソードマスター!」
信也の姿が変わる。赤の甲冑風のパワードスーツ。腰に剣を携え最高の騎士は現れた。
「すげえな、五次元能力か。おもしれえ。見せてみろ、お前の力を」
錬司の周囲で浮遊していた破片が動き出す。すべてが信也に向かい迫ってきた。
「させるかッ」
それらを叩き切る。超速の剣技は十以上もの残像を空間に刻む。その技巧、人の域を超えている。肉体になにかしらの異能が施されている証拠だ。
「いいね。接近戦はまずいな」
錬司が指を弾く、瞬間、信也は完全な暗闇に包まれていた。これでは接近できない。
「こい、エレメント・ロード!」
しかし信也はエレメント・ロードに切り替え光と音を操った。直後視界が晴れ渡り錬司の姿を確認する。
「やってくれるな」
だが、そこにいる錬司は未だに余裕の表情だった。
「止めてくれ錬司! 俺は本当にお前とは戦いたくないんだよ!」
「なら力づくで止めてみな」
錬司は止まらない。変わらない。それを悔しく思いながらも信也はどこか納得していた。この男は決めたことはやり通す。そういう男だからこそ信也は彼に憧れたのだ。
「こい、ガンスリンガー!」
信也は青いジャケット姿へと姿を変える。その手にはサブマシンガンを二つ握っており錬司に向ける。しかし撃たない。撃てない。相手は憧れの錬司だ。撃つのを躊躇う。
それでも覚悟して信也は発砲した。銃声が鳴り響く。急所を外し、いくつもの猛威が錬司へと叩き込まれる。
「なに!?」
だが、すべての弾丸が錬司の前で軌道を変えていた。真っ直ぐ飛んでいた弾丸は床や天井に着弾し錬司に当たったものは一つもない。
「この程度か信也? ランクAってのはこんなもんなのかよ」
錬司から突風が吹き荒れた。その猛威は台風さながらで信也から体の自由を奪う。もし樹が植えてあれば根本から引き抜かれていただろう、気を緩めた直後吹き飛ばされそうだ。
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