第17話 ランク説明2

「ランクA。定義は次元への干渉、もしくは超越です。次元とは三次元である空間、四次元である時間、五次元である並行世界に分けることが出来ます。そのいずれかを操作したり無視し ての行動がとれればランクAとなります」


 次元への干渉、または超越。それがランクAの定義。


 それは空間転移。それは時間跳躍。それは次元移動。すべてが強力だ。すべてが特別だ。どれであろうとも腐ることはない。それだけにランクAは別格なのだから。


 たとえばランクBの死者蘇生の能力があったとしよう。便利かつ強力だが死者がいなければ宝の持ち腐れだ。使える範囲が限定されている。


 しかしランクAはどうだ。戦闘でも日常生活でも使える機会などいくらでもある。その汎用性は他のランクの非ではない。特定の分野において他のランクに劣っていてもその汎用性は絶対だ。


 それがランクA。まさに勝者にふさわしい選ばれし能力だ。


「ランクの説明はこんなものでしょうか。加えて言うのでしたら現在の異能研究ではランクアップは不可能。加えて異能(アーク)は一人一つが限界。マルチアークは不可能です。それで話を戻しますが、犯人は姿を消すのと攻撃、二つ以上の能力を見せています。これほどの能力を発揮するにはランクB、Cでは不可能です。物理を超えたなにかしらか、次元を操作しなければ実現出来ません」

「そうなるか」


 もしランクBなら自分が見えないよう相手の人体を操る能力、そして相手の体を吹き飛ばす二つの能力が必要になるがマルチアークは否定されている。ランクCなら一つの物理操作だけで二つの現象を起こさなければならない。そのためランクB以上と判断したようだ。


「加えてアークホルダーのデータはすべてアークアカデミアで記録されていますが、ランクB以上のアークホルダーには全員アリバイがあります。そのため現在では複数犯である可能性が高いと踏んでいますがこれを可能とする組み合わせも現在確認できていません」


 信也は頭を抱えそうになる。


「それで神崎さん、あなたをお呼びしたのは他でもありません。あなたのランクはA、十分狙われる可能性があります」

「可能性!?」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでないです……」


 可能性という言葉にはつい反応してしまう。


「では続けます。あなたは今後狙われるかもしれません。十分警戒してください。またこのことは口外無用です。理由はお分かりですね?」

「分かってる。それに口を滑らせたら首が飛びそうだ」

「賢明です」


 それで牧野先生からの説明は終わった。


 ハイランカーを狙った連続襲撃事件、審判者(ジャッジメント)の出現。


 その重大さに空気は重くなり沈黙が下りた。


 しばらくして、信也はひっかかっていた疑問を聞いてみた。


「なあ、犯人はランクB以上だって言うけどさ、他は考えられないのかな?」


 それは、自分の中にある信念だったから。


「と言うと?」


 信也の質問に牧野先生の目が動く。


「もっと、他のランクの人間の仕業だったら?」

「あり得ません。理由はさきほど説明した通りです」

「でもさ!」


 先生からの冷たい否定。けれど信也は退かなかった。声を大きくして自分の思いを主張する。


「人間には無限の可能性があるんだぜ!? もしかしたらランクの低い人間でも異能(アーク)の工夫次第では――」

「あり得ません」


 それを、牧野先生は否定の刃で一蹴する。


「ランクアップは不可能です。また、工夫でどうにかなるものでもありません。神崎さん、あなたのそれは妄言です。根拠に欠けています」

「でも」

「もしそれを証明したいのでしたら証拠を。話はそれからです」


 それで話は終了してしまった。


 信也は俯いた。両手は拳を作り悔しさに耐える。


『お前の言ってる可能性なんて、しょせん口先じゃねえか』


 言い返せなかった。前回も。今回も。けっきょく自分の言っていることはただの理想で、餅に描いた絵だ。


『現実に理想が入り込む余地などない。夢でも妄想でもない、今こそ現実を直視しろ』


 生徒会長の言葉が浮かぶ。思い出される言葉の数々が信也の夢を崩そうと圧し掛かってくる。

 否定を叫ぶ現実に、なにも言えなかった。


「話は以上です。長い間留めてしまい申し訳ありません。どうぞお帰りを」

「……ああ、さよなら先生」


 信也は振り返り扉に向かう。置き忘れた信念があるはずなのに。言い忘れている思いがあるはずなのに。信也は負け犬のような背中を晒して学園長室を後にした。


「神崎君」


 その直前、信也に言葉が掛けられた。


「君はランクAであるにも関わらず、ランクが人を定義する絶対的な要因ではないと考えているようだね」

「そうだけど……」


 足を止め振り返る。机に目を向ければそこに座る賢条が信也を見つめていた。


 眼鏡の向こう側では、まっすぐな瞳が信也を映している。


「今でもそう思っているかい?」


 学園長が問うのは覚悟の重さ。その言葉は信念を測る天秤のようだった。


 問われている、信也が抱く理想、人間の可能性。諦めなければ道は開けると、そう信じて疑わない思いを。


 ハッとする。信也は表情を引き締めた。そして、まっすぐな目で答える。


「思ってるさ」


 二年前から燃えている想いを、信也は今だって感じているから。


「俺は知ってるんだ、人間の可能性をこの目で見た。だから諦めない」


 断言できる。確信持てる。自分の信念、人間の可能性に限界などないことを。


「いい目だ」


 信也の答えを聞いて、賢条は言う。


「貫いてみるがいい、君の可能性を」


 賢条のするどい視線が少しだけ優しくなった気がした。それを感じて信也の表情も緩む。


「言われるまでもないさ」


 信也は今度こそ学園長室を後にした。その背中には取り戻した自信が輝いていた。

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