第10話 アイドルと言ってもいろいろあるけど、異能(アーク)を持ってるアイドルは特に人気が高いんだ。

 さきほど出会った少女姫宮が跳ねる勢いで腕を上げている。胡桃色の髪を小さく揺らしながら彼女は元気いっぱいだ。


「どんな人でも、私でも、夢は諦めなければ叶うんだって。そう思うこといけないことだなんて思えないから。ね!?」


 姫宮の明るい眼差しは信也の心も明るくしてくれた。


「ありがとう、姫宮」

「ううん、私はなんにもしてないよ」


 彼女の笑顔に信也も小さな笑みで応えた後視線をみなへと向ける。


「他のみんなはどうだ? ランクなんて関係ない。自分を信じることは誰だって出来るはずだ!」


 姫宮からの後押しを受けて信也の声が飛ぶ。思いを込めて呼び掛ける。


「黙れよ……」

「え」


 けれど、そんな信也をこころよく思わない人もいた。


「お前みたいなランクAの人間に、僕たちの気持ちなんて分かるはずないだろう!」


 それはさきほどまでいじめられていた少年だった。まさか助けたはずの少年から言われるとは思っていなかった信也は言葉を失う。


「…………」


 改めてクラスを見渡してみる。さきほどのグループのように変わり者のイレギュラーとしてにやにや笑っている者。今みたいに高ランクの信也を妬む者。


 さまざまな暗い感情が信也を見つめている。


 信也は視線を落とし、背を向けた。


「信也君!」


 姫宮の声が聞こえるが信也はそのまま教室から出て行った。


「はあ~、難しいなぁ……」


 屋上から見上げる空は青い。ゆっくりと流れる雲は白い。けれど心にかかる雲は黒い。


 教室を後にした信也は屋上のフェンスにもたれながら空を見上げていた。信也以外誰もいない屋上に風が吹く。


 ため息が自然に吐かれる。人間の可能性。それを信じて行動したものの結果はこのザマだ。憧れには程遠い。


 ――あの男は、周りからどれだけ否定されようと、一度も落ち込まなかったというのに。


「俺なんかとは違う、か」


 弱々しい声が風に消える。情けない自分に嫌気がさす。


「信也くーん!」

「姫宮?」


 屋上の扉が開く音。同時に青天にまで届くほどの大声が響いた。


「姫宮、どうしてこんなとろこに」


 突然現れた姫宮になぜと思うが、それよりも姫宮は信也を見つけるなり猛ダッシュで近づいてきたのだ!


「うおおおお!」

「え、なに!?」


 闘牛のような勢いで姫宮が近づく。そして、


「落ち込んだ心を打ち抜け必殺姫宮パーンチ!」

「ぐはぁあ!」


 左胸を思いっきり殴られた!


「な、なにするんだよいきなり!?」


 痛い。かなり痛い。ズキズキする左胸を両手で押さえるが姫宮は反省していない。


「それはこっちの台詞だよ! 私信也君呼び止めたのに、どうして出て行っちゃうのさ」

「それは……」


 姫宮はプンプンだ。しかしそう言われても困る。


「別にいいだろ、俺のことなんてほっといてくれよ」

「ほっとかないよ!」

「どうして?」

「だって」


 背けた顔から横目で姫宮を見てみる。彼女は信也をまっすぐ見つめていた。


「信也君は、私の友達だもん!」


 その言葉に胸が震えた。


(友達)


 クラスではみんなから笑われ、妬まれ、嫌われてしまった。思い返しても髪の色を揶揄されるだけで友達なんてほとんど出来たことがない。そんな自分を目の前の女の子は友達だと言う。当たり前のように。


 それが、嬉しかった。


「あれ!? 私ヘンなこと言ったかな!?」


 姫宮が慌て出す。あわわわとよく分からない動きをしている。


 そんな姫宮に信也はほっとした表情を浮かべた。


「いや、ううん。ありがと。姫宮はアークアカデミアで出会った初めての友達だよ」

「ん? えへへ~」


 そんな信也を見つめて彼女も笑った。

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