私に美少女の隣は無理だってば!
第5話 友達とのキスなんて普通に決まってる
「ひな、どしたん? めっちゃ干からびとるやん。水要る?」
翌日の放課後。授業を終え、うつぶせで後のことを考えながら
見上げれば友達の
「いるぅー」
舞奈から受け取った水を一口いただく。冷たい水が不安を中和していく感じがする。
ぷはっと飲み終わってからペットボトルをお返しした。
「私の飲みかけ……まあええか」
「あ、ごめん、ダメだった?」
「別にええよ。半分冗談やったけど、おかげでひなも多少元気になったみたいだし」
ペットボトルを受け取った舞奈は、気さくな笑顔を私に向けてくれる。
まぶしい笑顔に自然と私もつられる。
関西弁が特徴的な快活な女の子で、高校に上がってから一番仲よくしてもらっている。
そんな彼女はクラスメイトからの受けもよくて、クラスのムードメーカー的な役割もしている。
ほんと私にはもったいないくらいできた友達だと思う。スポーツ万能、嫌味のない明るい性格、元気をもらえる明るい笑顔。こんないい子の隣に私が居ていいんだろうかと今でも一瞬悩みかけることすらある。
二か月前の入学式の日に隣の席にならなかったら、一生関わりを持つことなんてなかったんじゃなかろうか。
ちなみに本人曰く関西弁はエセらしい。生まれも育ちも三河の私には、区別なんてつかないけれど。
「そいで、なんで干からびてたん? いつも元気なひながそないなるなんて珍しいし、今日ずっと元気ないやん」
「うーん。まあ、いろいろとねー」
いつも元気、という部分は素直には頷けないけれど今日、元気がないのは確かだ。
理由は昨日の風呂上り。
リビングにて妹から頂戴した嫌味をさらっと聞き流した後、スマホの通知が来てるなーと思ってロック画面を見ると、そこには神無月さんからの放課後デートのお誘い。
しかも、日時は明日、つまり今日を提案してきていた。
今さっき会ったばかりなのに行動が素早すぎる。と、昨日の私は苦笑いするしかなかった。
だってデート、デートのお誘いだよ。
ああいう関係になって次の日のお誘い、早すぎじゃない?
まあ神無月さんからしたら私を惚れさせるためだからほとぼり冷めぬうちって感じなんだろうけどさぁ……。
いろいろ考えたけれど私としてはうれしさはありつつも、心の整理の時間が欲しいというのが本音だった。
けれど自分から提案した手前、無下には出来ず、うーんうーんと、小一時間うなった末に誘いは受けることにした。
でも、デートか……デート。またキスを強制されでもするんだろうか。神無月さんは私のSっけ、みたいなものに惚れたみたいだし、やっぱりそういう要求はしてくるのかもしれない。
そんな想像してあごに手を添える。
ずっと考えていたけれど、キスって友達同士でもやるんだろうか。
自分の中ではやると強引に決めつけたけれど冷静に考えるとどうなんだろうとなってしまう……まあ、その先も進んじゃってるからそもそも論点おかしい気もするけど。
はたから見たら、もうキスしちゃったんだし今更友達同士でやるのかどうかなんて、どうでもいいじゃんって感じかもだけれど、私にとっては割と大事な話だったりする。
なんせ昨日のキス、神無月さんの初めてを奪ったのはそうだけれど、自分にとってもファーストキスだったのだ。どうにかこうにかあれをノーカンにできる可能性を探していきたい。
「……舞奈、友達同士のキスってどう思う?」
「え、急にどないした?」
「うーん、なんか気になった……みたいな?」
なんの計画性もなく質問したせいで、きつい言い訳を並べる。
けれど舞奈はさりげなくスルーしてくれる。
「それってマウストゥーマウス?」
「うん」
「……ん———まあ、別にええんとちゃう? 友達同士のキスぐらい。うちの中学ではふざけてようやとった気ぃするし……」
「だよね!」
「おお、どないした急に元気になって」
「あ、いや、なんでもない……」
自分の頭の中をぐるぐる回っていたものに味方ができて、思わず身を乗り出してしまった。
冷静にならないと。
そうだ、友達同士のキスはまったくもって普通なのだ。だからそう、共感をえられたところで普通のことを聞いて、普通に共感を得られただけ。うん、特に何にも興奮することはない。
「……いや、やっぱあかん。ひなは絶対女の子とキスしたらあかん」
「え、さっき良いって……」
「ちゃうねん、うちは関西風のノリでそないなことやっとったから、最後は冗談にできるけど。あかん、あかんあかん。ひながやったら相手の女の子、ガチやと思ってまう!」
「いやいやないって、舞奈はともかく私は……」
……嘘です、ごめんなさい。前科ありです。
舞奈の言う通り、私、一人惚れさせてしまいました。しかも学年一の美少女を。
「……ちなみに、そないなこというってことは……もう、やってもうたってことか!」
「え、や。別にそんなことはないと、思うよ?」
「なして疑問形っ」
舞奈の快活な笑顔が咲く。
「ん、まあ。半分冗談みたいなものやし、あんま気にせんでもええよ。なるようになれや、惚れさせてもうたなら腹くくればええんよ」
「や、それが困るから相談したんだけど……」
「ははっ」
「笑い事じゃないってば!」
というか、キスしたとは一言も……ああ、でもこれじゃあ、もうしたから相談しましたって言ってるみたいなものか……。
「せやけど、ひなが元気になってくれてよかったわ。今日ずっと沈んどったからどないしよ思ってたんよ」
「え、まさか元気づけようとしてくれてたの?」
「どっちやろなぁ、うちは普通に話してただけやし。まあどっちでもええやん?」
舞奈はよしよしと私の頭をなでてくれる。笑顔と優しさが身に染みる。
いつの間にか、私まで自然と笑顔になっていた。
「どういう状況なのか、なんやようわからんけど応援したるわ」
何? この優しさと気づかいの
告白されてたのが神無月さんじゃなくて舞奈だったら一ころだったかもしれない。危なかった。
…………今からでもダメかな、舞奈に告白して恋人になってもらって神無月さんにごめんなさいするっていう。そうできればすべて解決じゃないかと私は思うわけです。
裸の写真で脅してくる怖い女の子とも一緒にならないし、私は精神を守れる。一石二鳥! 私って天才!
——とはならん、普通にクズ過ぎる。
舞奈に失礼だし、神無月さんにはもっと失礼。それに私の恋愛対象は女の子じゃない。よってこの案は無し。
と、冗談はさておき、舞奈は良い子だ。ほんと私にはもったいないくらい。
なんの気なく視線を向けると屈託のない笑みを浮かべてくれる。あぁ、この笑顔からしか得られない成分がある。
……よし、今日から舞奈から得られるこのエネルギーをマイネルギーと名付けよう。
マイネルギー充填一杯。これなら不安だらけのデートも何とかなる気がする。
「よしっ! じゃあ行ってくる。舞奈も部活頑張ってね」
「ん、行ってらー。ほい、飴ちゃん」
「ありがとっ」
舞奈のくれたチュッパチャプスを口にほおばり、マイネルギーもいっぱい、元気いっぱい無敵になった私は教室を後にした。
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