普通の女の子が美少女の初体験を奪っちゃう話。私はタチでもネコでもないってば!というか百合でもない!
モコモコcafe
私はタチでも百合でもないってば!
第1話 学年一の美少女に自分の裸の写真で脅されるわけないじゃん!
狭い室内、埃っぽい空気、少し汗ばむ室温に頭がくらくらする。
私の目の前にはクラスで一番の美少女が居て、その子の表情はどこか
思わずごくりと唾をのんだ。
少しずつその顔に近づいていく。
お互いの鼻がくっつくかくっつかないかのところで、ピンク色のきれいな唇にめがけて自分の唇を重ねた。私のファーストキスと美少女のファーストキスが散らされた瞬間だった。
ファーストキスは甘いなんてよく言うけれど、私のファーストキスは味なんて感じる余裕はなかった。
*
私、
ここでいうところのストレートとは、女性なら男性を、男性ならば女性が恋愛対象であるという意味。大多数の人が多分私と同じなんじゃないかと思う。
私が人生で一回だけ好きになった子も男子だったし、女子の恋バナにだってちゃんと入っていけてる。
それに修学旅行で温泉に入るときだって、クラスの子の裸を見て顔を赤くするなんてことはなかった。そしてこれからもそれは変わらないはず……。
……違う違う、はずじゃない! 今もこの先も決して私の恋愛対象が女性になることはない。私はぜったい百合じゃない!
なのに……なのに……
私は、女の子の初めてを奪ってしまった。
いやいやいや、奪ってしまったという言葉にはさすがに語弊がある。けどそれが事実だからそういうしかないってだけで……。
——あ、でもでも、女の子なら友達同士で遊び感覚のキスなんてするじゃん。だから奪うっていう御幣を生むような言葉を抜いて、キスをしたっていう事実だけにフォーカスすればきっと問題ない。
仲いい女の子同士でちょっとドキドキしながら危ない橋を渡っていく感じ、あるじゃん? で、最後はお互いに馬鹿なことやったなーなんて思いながら笑いあう見たいな。……経験ないけれど。
それにそれに、今回の件は私に責任はない。私の故意じゃない。
それはさかのぼること十数分前。
朝の教室でこれから始まる授業のことを頭の片隅に追いやりつつ雑談をする声がそこかしこで聞こえる中、私は突然学年一の美少女、
意識外からの出来事に私は間抜けな顔と声をさらしていた。
私の心境を表すのなら、とにかく怖かった、という一言に尽きる。
目立たずひっそりと生きる小市民の私が学校で噂の有名人に声をかけられる、この状況でこの後よからぬことをされる言われる以外の想像が誰にできようか。
そんなわけで私の背中は冷や汗でだらっだらだった。
そんな私に悲劇は続く。
たじたじの私に神無月さんは一言、ついてきてというと私を引っ張って音楽準備室に連れてくる。そして響くはカチャリと何かが閉められる音、絵になる
神無月さんは私を脅してきたのだ。
それも裸の、私の裸の写真で!
家でシャワーに入っていた時に取られたであろう写真で、取られているなどみじんも思っていない過去の私がそこに映っていた。のんきにマイクを構えるポーズで鼻歌でも歌ってるんですかね、このやろ。気づけよ過去の私……。
素面の私がそんな写真を見せられたのなら、いったいどうやって撮ったんだとかいろいろ追求したに違いないだろうけれど、そんな余裕その時の私にはございませんでした。
今まで関わり合いのない美少女に突然連れていかれたかと思えば、彼女はなぜか自分の裸の写真を持っていて、しかもそれで脅される。そんな状況にパニクった私の頭は、どうやったらその写真を消してもらえるのか、それを聞くことしかできなかった。
ほんと、自分でも面白いほどに顔面蒼白状態だったと思う。……まったく笑えないけど。
そしたら出された交換条件があって、それが私が神無月さんのファーストキスを奪うことだった。
ほらね、私はただの被害者。だから顔を赤くしているのだってちょっとびっくりしたからで……
「狐崎さんって……やっぱり女の子が好きなのね」
「っ⁉」
ちがうっ!
何を勘違いしたのか、ほのかに顔を朱に染めた神無月さんは突拍子もないことを口に出す。私はそれを聞いて言葉にならない声を上げた。
混乱する私を置いて、神無月さんはみるみるうちに顔全体を朱に染めていく。
なんでそっちが恥ずかしがってるんだよ。要求したのはそっちじゃん!
でも神無月さんはそんな道理など知らないようで、さらなる何かを要求するように上目遣いで私を見ている。
思わずごくりと唾をのんだ。
やめてぇ、やめてよぉ。そんな顔をされたらほんとにそういう感じになるじゃん!
朱の射した肌、薄暗い室内、二人だけしかいない密室空間、
普通何か間違いが起こらない限り、こんな美少女の顔なんて近くでじっくり眺める機会なんてない。そう、今みたいなわけわかんない状況にならない限りは……。
たとえ私が同性であるとしても、心臓を高鳴らせるなというほうが無理だ。
それに加えて、ほんの数十秒前に初めて味わった目の前のピンク色の感触……それをまだ私の唇は覚えているわけで。
こんなの誰だって変な気分にもなる。
一度冷静になるために目をつぶる。
やばい、ダメだ。いち早くこの場を立ち去らねば。場の空気に流されて二回目三回目、果てやその先に行ってしまいかねない。
ゆっくりと密室からの脱出をはかろうとする。が、神無月さんの長い四肢によって阻まれる。
「逃げるの? それなら私、容赦なくSNSに写真をばらまくけれど?」
「……」
終わりだ、もう終わりだ。私はここで死ぬ運命らしい、社会的に。
私を脅している神無月さんという女の子、遠目から見ていた私の言葉でしかないけれどこの子は私とは違って自分の意志がしっかりとあるタイプの女の子だ。
そんな子がばらまくと言っているのだからそういうことなのだろう。
彼女のこの行動力に、クラスのみんなも私も含めて入学から二か月間助けられてきたから、神無月さんはクラスメイトから絶大な信頼を置かれている。それに性格もいいし、顔もいいし……。
もちろん私も、例に漏れず純粋に尊敬してた。
けれどそれが牙をむいてから思う。優秀な身内ほど敵にしたら怖いんだなと。
ありがとう神無月さん、私は一つ貴重な見聞を得られました。人生詰みかけだけど。
そんなわけで絶賛人生ジ・エンドまっしぐらな私。神無月さんのほうはというとさらなる対価を欲しているようで……恐る恐るお伺いを立てる。
「次は何をご所望で……」
「——ベロキス」
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