第26話
ついにこの時がきてしまった。ショルカは自室で立ち尽くし、目を閉じた。沈み始めた夕日が、部屋をオレンジ色に染めている。
物資を贈るべく馬車でレラ国の城へ向かっていた従者たちが、遠くで進軍しているレラ国の歩兵軍に気づき、すぐに引き返して報告した。いくつもの大砲を引いている多勢の歩兵軍は、確かにコーグ国へ向かっていた。まだ国境よりはるか先にいるが、このままでは夜が明ける前に我が国にたどり着き、攻め込むだろう。
引き返してきた従者のうちの一人が、息をきらしながら王の前に立っている。彼は、アムアが物資を運んだ際に同行した者だった。
「・・・我々も、兵をあげるときが来たようです」
従者の言葉が、王の心を刺した。
「・・・そのようだな」
双眸を開き、震える声で同意した。
届かなかった。私のやり方では、何も守れず、救えなかった。
その敵意に気づいていたのに、隣国を肥やし、一番の側近を死なせた。そして今、この国は戦火に包まれようとしている。
私はなんと、愚かな王か。そう思う。
「わが軍の先頭には、私が立つ。私の前で誰も死なせない」
そう言うショルカに、従者が叫ぶような声で言う。
「陛下がいなくなったら、誰が指揮をとるのです!」
ショルカは窓の外の夕日を見つめた。普段気にも留めなかったが、綺麗な景色だと、ふと思う。
「お前たちが指揮を執るんだ。城の別邸に、先王の后と齢三歳の王子がいるだろう。彼が即位できる年齢になるまで、お前たちがこの国を支えてくれ」
従者の中でも一握りのものしか場所を知らない、要塞のように厳重に守られた別邸で、先王の后と王子はずっと暮らしている。先王の下命で、正当な後継者である王子が成長するまで、二人は城にいるよりも安全なその場所で、暮らすことになっているのだ。
「先王が認めた正当な後継者は、彼だけだ。私は何者でもない」
そうだ、何者でもない。ショルカは頭の中で繰り返す。
ただのショルカで構わない。何者でなく死んでいくとしても、私はもう孤独ではないからだ。
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