第16話
レラ国へ旅立ったアムア達を見送り、自室に戻ったショルカ。部屋で待っていたフィレーヒアは、帰ってきた王を睨むとそっぽを向いた。頭を抱えながら、ショルカは深いため息をつく。
「・・・不機嫌な理由くらい、そろそろ教えてくれてもよくないか?」
美しい魔法使いはベッドに腰かけ、あからさまに口をとがらせている。王は彼に歩み寄り、傍らに腰かけた。ベッドがかすかにきしむと、耳にかけていた輝く金髪がはらりと落ち、白い頬にかかる。フィレーヒアは、うっとおしそうに首を振った。
「一体、私が何をしたんだよ・・・」
今日何度目かわからない自問自答を、ショルカは口にする。何もわかっていない様子の彼の方へ、フィレーヒアは視線を向けた。無言で睨み、またそっぽを向く。朝食の時から、ずっとこの調子だ。
一言も口をきけないまま、時刻はもうすぐ昼になろうとしていた。優しいノックの音がして、王は侍女が昼食の用意をしに来たのだと気づく。まさか昼食の間も、はたまた夕食が運ばれてくる時間になっても、このままなんじゃないだろうな。沸きあがる嫌な予感に、顔を引きつらせるショルカ。そして哀れなことに、それは的中したのだった。
フィレーヒアは一日中ショルカの部屋で、睨んだりそっぽを向いたりを繰り返していた。夕食を終えても、強情なことに無言を貫いた。侍女に入浴を促され、流石に部屋を後にする細い背中を見送った後、王は疲れてソファに座ったまま目を閉じた。
そのまま、どれだけ眠ってしまったのだろう。意識を取り戻したショルカは薄目を開け、壁時計の方へ顔を向ける。まだぼやけてはっきりしない視界をクリアにするべく、目をこすった。
景色が鮮明になると、目の前に立っている者がいるのに気づく。あまりにも驚いて、思わず情けない声を上げてしまった。
何とか気を取り直し、姿勢を正す。冷たい視線を感じながら、口を開いた。
「フィレーヒア・・・いつからそこにいたんだ」
寝起きのかすれた声で、呆れながら言うショルカ。フィレーヒアは答えず、ただその顔を見下ろしている。
ああ、一体どうしたらいいのか。王は俯き、頭を抱える。落とした視線の先には、フィレーヒアの裸足の足元が映る。寝間着姿でやって来た彼の露わな足首が、長いガウンの裾から覗いている。
男のものとは思えない、華奢な足だ。ぼんやりとそう思った矢先、その足元にガウンが落ちた。予想外の出来事に、王は固まる。
ちょっと、落ち着こう。足より上を視界に入れる勇気は、すぐには出ない。ショルカは息を吐き、一度目を閉じた。そしてゆっくりと開け、恐る恐る顔を上げた。
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