第13話 メスブタファイルその3:片瀬比奈

 片瀬比奈かたせひな

 我が富が丘高校における美少女四天王の一角を担う学内ヒエラルキートップオブメスブタ。

 そして、彼女は天地を揺るがすほど乳がでかい、乳メスブタでもある。


 プラチナピンクに染められた長い髪。緩く巻かれたツインテールは黒いリボンで留められていて腰まで伸びている。丁寧にお手入れされた眉。猫っけのある吊り目。ほうと見惚れてしまう桜色の瞳。最新のコスメを駆使して彩られた相貌にはこれでもかと言わんばかりに「かわいい」がたくさん詰め込まれていた。くっきりと際立ったアイラインは目力を強め、頬を彩るチークは血色を豊かにし、色付きリップが透き通り潤う唇を作る。

 自身の持ち味を最大限に活かして何段階も上のステージに持っていくメイク術。

 現代美容の恩恵を最大限活かす手腕を持つ彼女は女子からの人気も絶大だった。

 友達百人できるかな、なんて歌があるが、この乳メスブタに言わせれば「そんなのよゆーじゃない?」である。鼻くそをほじりながら嘲ることだろう。そんなイメージが簡単に頭に浮かぶくらい、片瀬比奈はみんなの人気者だった。


 正直に申し上げると、片瀬比奈はめちゃかわ四天王にて最弱の評を受ける悲しきメスブタである。

 そのオパーイはワールドクラスだし、太ももはむっちりリプリプリしている。少年誌に水着グラビアを出せば、連載作品に興味がなかったとしても思わず手に取って買ってしまうだろう。それほど素晴らしい肉感的ボディをお持ちである。それでもなお、四天王における三大巨頭には届かない。メイクによるブースト、女の子らしいファッション、その乙女力おとめぢからに磨きをかけてなお、三大巨頭の背は見えない。それほどまでに彼女たちは突出していた。

 それでも、富が丘高校の四天王にこのメスブタが名を連ねたのは、やはり人望によるところだろう。


 愛嬌がある。愛想がいい。いつも明るく、いつも元気。それでいて押し付けがましいわけじゃない。乳メスブタは対面する人に合わせてテンションを変化させ、その人が心地良いと感じる会話のリズムを作っていた。お喋りが好きじゃない子に無理に話させることはしない。お喋りが大好きな子だと聞き手に徹して上手い相槌をうつ。

 乳メスブタはコミュニケーション界のトップランカーなのである。


 東に体調崩した女子あれば、乳を揺らして保健室まで連れて行き。

 西に盛れない女子あれば、乳を揺らしてメイクを指導して。

 南にオタクが固まれば、乳を揺らしてオタ話に花を咲かせ。

 北に喧嘩や揉め事があれば、乳を揺らして「よくないよ!」と言い。

 暑い日は「まじやばーい」と汗を流し。

 冷える日は「まじやばーい」と鼻をすする。

 みんなに「明るくて可愛くてマジサイコー」と言われ。

 褒められまくり。

 愛されまくり。

 そういうメスブタが、片瀬比奈なのである。


 誰しもに公平に分け隔てなく優しく、等しく平等に友達のように振る舞う。

 まさしく、みんなの友達。

 男子たちは生意気にも「片瀬は友達って感じだから付き合うイメージ湧かないわ」とか言ったりする。そのわりにファンクラブを秘密裏に作っていたりして、互いを監視し合い、牽制し合っているらしい。女子たちは愛らしくて、どこか抜けている彼女を「ピニャって一人にすると心配になるよ」と言って愛犬のように可愛がる。彼女の周囲はいつも笑顔で彩られていて、じっと見ていると俺のような人種は目が潰れてしまいかねない。


 実のところ、一年生のとき、乳メスブタはこんな俺にも話しかけてくれたことがあった。けど、その時の俺は友達なんていらないと心の底から思っていたので、関係が発展することはなかった。交友を持ちたくない人を前にすると、彼女はしっかりと引いていく。みんなからの人気がほしいから、無理やり友人関係を広めているわけじゃない。人懐っこい性格が自然と交友を広げていき、結果として人気者になっているのだ。


 ただ、人気者ゆえに乳メスブタは特定のグループに属するという高校生活における鉄則の場外で生きていた。そこは非常にアンバランスな盤上に成り立つ断崖絶壁の危険地帯である。たしかに彼女は友達が多い。しかし、親友と呼べる存在はいない。あらゆるグループから引っ張りだこだ。けれど、片瀬比奈がいなくともそのグループは澱みなく回る。もし致命的な一手を、間違った選択をしてしまったら、乳メスブタは奈落に落ちていくのかもしれない。


 そんなことを知ってか、知らずか。

 それでも片瀬比奈は学校一の嫌われ者、手塚悠馬に好意を寄せる。女友達に「手塚くんはやめときなよ」と言われても、男友達に「良い噂聞かないぜ」と脅されても、乳メスブタはまっすぐに進んでいく。

 俺からしてみれば綱渡のように思える愚かな行為だ。

 けど、好きという感情ほど、自分で制御できないものはない。いや、そもそも、制御する気なんて最初からなさそうだ。


 さらなる深淵を覗くべく、メスブタの身辺調査に乗り出そうとしたのだが、『比奈ちゃん親衛隊』の文字踊る鉢巻をした謎の富が丘校生たちに捕縛されそうになって以来、心臓のタップダンスが佳境に入ってしまったもんで調査を中断せざるを得なくなった。

 というわけで、メスブタファイルその3:片瀬比奈の情報は以上とする。

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