第7話

<< お疲れ様です。オペ中失礼致します、――です。来週の『オールS』よろしくお願い致します。>>





メール。


はじめましての前触れ。


5日後には運命だったと顔を綻ばせるような出来事の始まりなんて、こんなもんなのかもしれない。



だからひとはそれを運命と名付けて大切にするのかも。




そう。この時は、何も。何もなかった。顔すら知らなかった。でも先輩だから、恐々。慣れない気を遣って先の仕事のメールをした。


当たりまえ。


何も変わったことなんてしてない。


けれどきっと、この先はこのメールを目にする度思う。後ろから、保護の施されていない順に消えていくまで、何度も気が付く。


これが入社して配属されて、初めて貰った社用ケータイで人に送ったメールだったこと。


70文字が限度のショートメールじゃ、新人の初めての挨拶には足りなくて、どうしようって隣にいた同期に相談した結果二通に分けて送ることにして、何だか変だけど、そうやって話を続けたこと。




<< 明後日19日の出社時間なのですが、定時でよろしいでしょうか? >>





この返信が、割とすぐ返ってきてどきりとしたこと。




そういうこと、ぜんぶ。思い出しそう。






>> 宜しくお願いします。定時で大丈夫です。

電話できます? >>







「……!」



飲みの席でのことだった。


ここまでのイキサツを話すには色々足りないため、とりあえず先へ進む。



しぜんと眉間に皺をよせた私は他の先輩がいる手前、そのメールの差出人の名を小さく呟き、迷ったまま正座を崩して座敷からふらりふらりと立ち上がる。



「すみません、電話を」


「先輩?」



同期に見上げられ頷く。座布団を踏む爪先は、それほど痺れていない。




「ッ〝日向咲さん”」





ただ社用ケータイへ掛けられた指の先が、少しだけ痺れていた。

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