第22話

気付き、立ち止まった時にはもう遅かった。



咄嗟に引き返す間もなく目の前のドアは内側から音を立てて開けられ、後ろで百目鬼さんの小さな声が聞こえた気がしたが気にならなかった。



百目鬼さんに男の人を連れ込んでいると思われたら面倒だ。


当人さえ理解できてない事情を説明するのも明日会社で言われて五十子くん辺りに根掘り葉掘り問い質されるのも面倒だ。



なのにどうしてだろう、私は



脅威ようかいに怒られるような気がして——それを一番、恐れていた。




脅威は既に呼んでいた。どうしてか知っていた私の名を。




そうして顔を上げたことにより自分の目で見る男の表情。



私を通り越し背後に立つ百目鬼さんと視線を交わしているようだった。




三人の中、始めに声を発したのは百目鬼さんだ。



「あれ」




けど。


肩を跳ねさせた私が感じたのは小さな違和感だった。




“ あれ? ”


って。




予想しないワードだった。




「……」




妖怪は何も返さない。



変わらず傷ひとつない綺麗な顔。二人に挟まれる形になっている私は身動きが取れずにいた。




「か「どうめきさん」









え?





妖怪の遮る大声は廊下中に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る