第21話

互いに息を呑む。


そ、と上にある表情を見上げれば、真っ直ぐに落とされた視線の先に出会う。




差し出されて、震えて。



ふれて、震えて。




通じる気持ちが、そこに姿を移す。







「…だいじょうぶ、」




今一番伝えたい言葉は、それだった。





彼が問うた『大丈夫か』の答えであったけど、彼にどうか怖がらないでほしいと、伝える答えでもある『だいじょうぶ』だった。



どうか、恐がらないで。





彼は、こくんと頷いた。震えを逃して、噛み締めるように。




それから握った私の手を高く持ち上げ、





傷の滲む左手にくちづけした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る