第2話
「なぁ、ルイのあの首元のやつだけど……」
「え? お前、清泉のこと呼び捨てだったっけ?」
「あ、いや、その……」
久しく清泉呼びを耳にして、逆に居心地が悪くなる。いろんな世界を経験してきたが、彼を苗字で呼ぶことはほとんどなかった。現実世界では苗字呼びだっただけに、どこかむずむずとした懐かしさが芽生える。
「清泉の、あの、首に巻いてるやつ、何? ファッションか何か?」
「あぁ、あれ?」
疑問に思っていたことが口から漏れる。ここへ来るまでに同じような首輪をしている人々を見かけた。少々、趣味が悪いそれは、この世界線の流行りだろうか。
猪戸がルイへ視線を投げる。彼は「なに言ってんだ、こいつ」と言いたげに肩を竦めた。
「オメガだから、自衛のために首輪してんだよ」
「……オメガって?」
「え、なにお前、急にIQ落ちたの?」
猪戸が目を見開き、心底呆れていた。俺は何も返せないまま黙り込む。この世界において「オメガ」とは重要な事柄らしい。知らなければこんな反応をされるような、そんな。
「ごめん、ちょっと寝ぼけてた」とすっとぼけながら、スマホを手に取る。猪戸から見えない場所で「オメガ」という単語を検索してみた。
────第二の性?
出てきた単語に、目を剥く。この世界には男女という区分とは別に、アルファ、ベータ、オメガという三種類の性があるそうな。どうやらアルファという区分が最も地位が高いらしく、二番目にベータ、そして下位がオメガらしい。
────つまり、ルイは社会的に低い地位の存在ってことか?
その不穏な説明を見つめ、言い表せない不安に押しつぶされそうになった。生まれながらに低い地位を授かるだなんて。なんだかとても理不尽である。
────……じゃあなんでオメガは首輪なんかしているんだ?
読み進めているうちにあることに気がついた。
────オメガ性の人間は妊娠する……?
「に、妊娠!?」
俺は勢いよく立ち上がる。妊娠? 妊娠だと? 男が!?俺は口をパクパクと開閉させながら、行き場のない手を蠢かせた。猪戸が眉毛を歪め、怪訝そうな顔で俺を見ている。
「ど、どうした? 急に……」
講義室にいる人間の視線を浴びながら、「ごめん、ニシンが食べたくて」と言い返し、もう一度スマホの画面に集中する。
どうやらオメガに振り分けられた人間は男女問わず妊娠するらしい。なんとまぁ、とんでもない世界だ。俺は興味深いその情報を目で追いながら、息を漏らした。
アルファとオメガは「つがい」という関係性になれるらしい。簡単に言えば、婚姻を結ぶ行為に似ているそうだ。アルファがオメガのうなじに噛み付くことで「つがい」の関係が成立するらしい。
────だから、自衛のために首輪を……。
変なアルファに噛まれたら最後、好きでもない相手と無理やり結婚しなければいけないのか。
俺はその理不尽さに眉を歪める。
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