第2話

「ま、どうせ今日も何もないだろ」


 コドが回転椅子に座り、ぐるりと回った。俺も近くにあった椅子に座り、辺りを見渡す。

 コドから聞いた話によると、俺たちはエンジニアらしい。今いる場所は宇宙船のようで、その管理や監視を任されているようだ。

 「宇宙船か……」。俺はひとりごちた。宇宙船なんて、夢とはいえ乗るとは思ってもいなかった。飛行機ですら、今までで三回程度しか乗ったことがないのに。

 ふと、この世界でルイがどうやって死ぬのか想像した。突っ込んでくる車もなければ、火事に巻き込まれる心配もない。あるとしたら、船内の中である人間関係の縺れで起こる殺人ぐらいだろうか────。


「そういえば、この船にちょうどぶつかるって予想されてる隕石のことだけどさぁ……」

「死亡フラグ、立っちゃったァ……!」

「え? 何が立つって?」


 隕石。もうほぼ確実に死亡フラグだ。隕石がぶつかり、船は真っ二つ。宇宙に漂うのは残骸のみ。想像するだけで体が冷えた。頭を抱える俺を見て、コドが皮肉っぽく笑う。


「心配すんなって。みんながどう計算しても、隕石は当たらないって計算が出てる」


 もうフラグがビンビンなんだよ! 俺は叫びそうになりグッと堪えた。


「……この船はどこに向かっているとかあるのか?」

「あぁ、人間が生存できる惑星まで、自動で向かってる。って……お前だって知ってるだろ? 俺たちは宇宙船生まれ、宇宙船育ちだぞ? 地球育ちのジジババみたいな質問するなよ!」


 ガハハと笑う彼につられて、目だけを弧にする。地球にいたときも世代間でのジェネレーションギャップとやらが存在したが、こういう空間にも存在するらしい。そして俺はどうやら地球生まれではなく、宇宙船生まれらしい。宇宙で生まれたのか。住所とかどうなるんだろう、と変なことを考えていた。


「隕石との衝突を避けるために速度を出すとか、できないのか?」

「無理だな。この船は、最初からその惑星へ向かうだけの箱でしかない。自動で動いているし、俺たちはそのシステムに誤作動が出ないか監視するだけの暇人なのさ」


 「何度も上官から説明があっただろ」。コドが呆れながら欠伸をした。「そうだったな」と俺は知ったかぶりをして頷く。

 つまり、次の死亡原因は隕石による衝突……。果たして、俺はルイを助けることが出来るのだろうか。

 俺の気持ちなど知りもしないコドは笑いながら回転椅子を回す。ギィギィと軋む音が、妙に耳にこびりついた。「あ、そういえば」。足を踏ん張らせ、ピタリと止まった彼が、思い出したようにひとりごちる。


「後でルイの部屋に行かなきゃな……」

「る、ルイの!?」


 声を張り上げた俺に、コドが体を揺らせた。「急に大声を出すなよ」と唇を尖らせた彼が続ける。


「あぁ。俺が借りてた本を読みたいって言ってたから、貸しに行くんだ」 

「頼む! それ、俺に託してくれないか!」


 顔色を変えて頼み込む俺に、コドが頬を引き攣らせた。「頼む、頼む、一生のお願いだ。靴を舐めてもいい!」と粘る俺を、まるでこの世には存在しないであろう不気味な虫を見るような眼差しで見つめ、眉を歪めた。


「……お前、疲れてんのか?」

「疲れてない! 俺は至って真面目だ! 頼むから、俺をパシリに使ってくれ!」


 懇願する俺にコドは一言「今日はもう帰って寝るか?」と肩を撫でる。「いいから、お前は俺の申し出に頷いてくれるだけでいいんだ!」と叫んだ声が部屋に響いた。

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