2.ちょうどいい人たち
「あのっ! 新堂さんも同じ一年生ですよね? 私、兎之山咲っていいます! よろしくお願いします!」
私と同じぐらい小柄なロングツインテールの少女は、兎之山咲。
プロチームも注目している新進気鋭の一年生だ。
「よ、よろしくお願いします……」
「よかったー。知らない人ばかりだし、同じ学年の人がいると安心するね。一年は私たちだけみたいだし、仲良くやっていこうねっ」
にこにこと笑いながらあどけない表情を見せる兎之山さん。
え、何この子。素直そうでめっちゃかわいい。
「はーい、注目!」
足利監督がみんなの視線を集めるために手を叩く。青と黒を基調とした日本代表ユニフォームを身に纏っているが、その顔には不機嫌という文字が張り付いていた。
「えー、本日は招集に応じて集まっていただきありがとうございます。本来ならこういう挨拶は全員が集まってから行いたいところですが、運営側のミスでサブメンバーの到着が明日になりそうだったり、キャプテンを任せる予定だったバカが寝坊で遅刻していたりと散々な状況です」
言葉にすると本当に散々な状況だ。足利監督もやぶれかぶれの棒読みで、用意されたセリフを読み上げるように話している。言わされてる感がすごい。
「そんなわけで、時間通り到着した皆さんにコーチングスタッフの紹介をしたいと思います。……つっても雪城、神原、山田の三人は去年も一緒にやったけどな」
「ほら、代表監督なんだから言葉を崩さないの」
そう言って横から入ってきたのは、私の見覚えのある人だった。
「
私がHoneyBeeGamingアカデミー部門に所属していたとき、そこでコーチを務めていたのが瀧本伊織さんだ。だいぶお世話になった人で、この人がコーチにいるから今回の招集に応じようと思った。
瀧本さんは黒髪ストレートに紫の毛先カラーを入れた落ち着いた雰囲気の女性で、目元のセクシーぼくろも相まってミステリアスな感じのする人だった。
「で、私が監督の足利祭です。よろしくー」
「もっとしゃんとした挨拶しなさいな。兎之山さんと新堂さんは初めましてでしょう?」
「えー。もういいじゃんかー」
足利祭と瀧本伊織。共に日本代表選手として日の丸を背負った二人だ。
代表ユニフォームを着た二人が並んでいるのを見ると、まるで当時の光景が蘇ってきたかのような錯覚を覚える。
「それで今日のことについてだけど、みんなも察しているように今この場にいるメンバーしか今日はいません。練習相手を探してる段階なのでしばらく待機なんだけど、ほんとどうすっかなぁ」
足利監督は大きなため息をつく。
「私もさっき知り合いのいる高校に連絡してみたのだけど、今日は金曜の祝日だしいきなり集めるのは厳しいみたいで……」
「今すぐ来れて今日だけ。しかも数時間だけ手伝ってほしいなんて虫のいい話だからなぁ。そんなちょうどいい人たちすぐ見つからないか」
日本代表選考会のレベルに合わせられて、今からすぐ集まれる人たち。
しかもたったの一日。それも数時間だけ。
そんなちょうどいい人たちなんて……。
――あれ? そういえば……。
私の頭の中に、ふと一つのアイデアが降りてきた。
「あ、あの……。もし良ければなんですけど……」
◆
「で、ちょうど辺りを観光してた私たちが駆り出されたってわけね」
30分後、選考会会場に姿を現したのは、私服姿の琴崎先輩、南先輩、宮本さんの三人だ。三連休と私の招集にかこつけて東京お泊り観光に来ている真っ最中だった。
ちなみにココ助先輩は仕事&顔出しNGなのでパスだ。
「す、すみません。観光中だったのに……」
「いやいや。むしろ私たちで良かったの? って感じだけどね」
南先輩は周囲を見渡すように選考会に集まった面々へと視線を送る。
元日本代表の足利監督と瀧本コーチ。
昨年のU-18 日本代表として世界第三位に輝いた雪城さん、レジーナさん、神原さん。
そして、次世代最強と噂される兎之山さん。
「あ、あの! 私、足利選手の大ファンで! マウスとかキーボードも足利選手が使ってた系統のモデルで揃えてて……」
上ずった声を上げているのは琴崎先輩だ。
「もし良かったらこれにサインとか……」
「えー、選手辞めて結構経つのにまだファンでいてくれてるなんて嬉しいねー。この新品のマウスに書いちゃっていいの?」
「はい! お願いします!」
どうやら足利監督のファンだったらしい琴崎先輩は、幸せいっぱいの様子でサインしてもらったマウスを胸に抱いている。「やったっやったっ」という小声が漏れていてなんか可愛い。
「すごい! 去年の日本代表だぁ!」
「ハロー! ベリートールマンねーアナタ」
「レジーナ、それだと背の高い男って意味になってるよ~」
宮本さんも憧れの日本代表に大興奮で、既にレジーナさん雪城さんの二人と意気投合している。陽キャ同士は惹かれ合うのだろうか。
「新堂さん」
私に声を掛けてきたのは瀧本コーチだ。
コーチは騒がしくしている由比ヶ浜女子の面々を眺めながら目を細めた。
「良き仲間は見つかったみたいね」
「……はい!」
私は自信を持って答えられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます