【第二章連載中】eスポーツって遊びですか? 競技ですか? それとも青春ですか?

鳥海 はじめ

【第一部】インターハイ予選編

1.出会い

 春は出会いの季節。私立由比ヶ浜 ゆいがはま女子高等学校に入学した私は、とある部屋の前に来ていた。


 入学式や新入生オリエンテーションといった行事も終わり、学内は一週間の体験入部期間に入っている。


 放課後はどの部活動も新入部員を迎え入れるために奔走していて、学校全体がとてもにぎやかな雰囲気に包まれていた。


「こ、ここがeイースポーツの……」


 eスポーツ。エレクトロニック・スポーツの略で、いわゆるゲームを使った競技を示す言葉。


 日本では2010年代から普及し始め、当初は「たかがゲームなのに」と揶揄やゆされることもあったが、それはもう昔の話。


 今ではプロゲーマーを生業とする人も多く、学校の部活動でもeスポーツ活動が盛んに行われている。


「し、失礼しまーす……」


 私は恐る恐る扉を開けた。コの字型の狭い部屋の中には三つの壁にパソコンが二台ずつ並べられている。そして中央には一人の女子生徒が立っていた。


――うわっ。長身美人……。


 170センチはありそうなすらっとした長身。

 快活な性格であることが一目でイメージできるポニーテール。

 モデル活動をしていますと言われても納得してしまいそうな整った小顔。

 チアリーダーやバレーボール選手が似合いそうな美しい人だった。


「あ、あの、私っ。1年C組の新堂 しんどうあかりです。 よろしくお願いしましゅ!」


 対して私は身長148センチのオカッパ陰キャチンパンジー。陽のオーラに当てられて母国語すらまともに話すことのできない悲しきモンスターだ。


 ここから挽回することってできますか?

 ああ、もう一度挨拶をやり直したい……。


「一年生?」


 こくりと頷く私を見て、モデル体型のチアリーダー様は優しく微笑みながら歩み寄ってくる。一歩一歩と近寄ってくるたびに陽のオーラで目が眩みそうだ。


 そして、私はがばぁっ!と抱きつかれた。


 混乱する頭。バクバクと高鳴る心臓。私は気が気でなかったが、ザ・女の子という感じのふわりとした甘い香りに思わず身を委ねてしまう。何かに目覚めてしまいそうだ。


「私もー! よろしくねー!」


――……あれ? 私も?


「せ、先輩じゃないんですか?」

「そだよー。ほら、同じ青のリボン!」


 長身チアリーダー様は私を開放すると、両手で自分の首元を指差した。

 何そのポーズ可愛い。私の目線に合わせるために少し膝を折って、首を少し傾げながら微笑む姿はベリーキュート。


 って見とれてぼーっとしている場合じゃない。変な人だって思われてしまう。


――青のリボンってことは同じ一年生だ……。


 彼女の首元には私と同じ青色のリボンが付いている。私立由比ヶ浜女子高等学校は学年によってリボンの色が違う。今年は三年生が緑色、二年生が赤色、一年生が青色だ。つまり目の前にいる女子生徒は私と同じ一年生ということになる。


「私、宮本 みやもと あゆみ! 一年A組だよ。よろしくね!」

「よ、よろしくお願いします。C組の新堂あかりです……」


 あまりの一年生格差に愕然 がくぜんとしながらも、私は改めて挨拶をする。

 宮本歩さん。別クラスの方のようだ。

 同じ学年なのに敬語になってしまうのは生物として格の違いを感じ取ってしまったからだろうか。


「てか、あかちゃんさぁ」

「あかちゃん⁉」

「え? あかりだからあかちゃん。可愛くない?」

「か、可愛いと思います……」


 宮本さん……というか真の陽キャの思考はよく分からない。

 けど仲良くしようとしてくれていることは伝わるのでとやかく言わない。

 流されるままに生きていこう。


「なんか机にこんな紙が置いてあるんだけど、これなにか分かる?」

「……QRコードですね。ええと、

『新入部員の方はQRコードからBiscordビスコードにアクセスして、『入部希望』のチャットに名前・学年・クラスを記載してください』

ってありますね……」

「びすこーど?」


 Biscordはゲーム中に快適なコミュニケーションを取ることを目的として開発されたアプリだ。


 通話に遅延がほぼないので、0.1秒を争うネットゲームでは必須のコミュニケーションツールとされている。


 さらにチャット機能や掲示板としての機能も充実しており、企業が社内のコミュニケーションツールとして活用している例もある。


「はい。ゲームしながら通話したり画面共有とかもできるアプリなんですけれど……。あ、『由比ヶ浜女子eスポーツ部』ってサーバーにアクセスできました」

「そうなんだ! よく分からないけどよろしく~」


 スマホでQRコードを読み込むと『由比ヶ浜女子eスポーツ部』のサーバーに入室することができた。


 サーバーには『雑談』『部内ルール』『大会予定』『課題』『ロードマップ』などなどeスポーツコミュニティにありがちなチャットルームが散見され、その中に『入部希望』という部屋がある。


 私はそこに「入部希望の一年C組新堂あかりです。もう一人、一年A組の宮本さんもいます」というメッセージを書き込んだ。


「あ、返事がきました」


 そこに「雑談VCに入って!」というメッセージがリアルタイムで書き込まれた。書き込んだのは『ココ すけ』という名前のアカウントだ。ハムスターのアイコンが可愛らしい。おそらく先輩の一人だろう。


 雑談という名前のボイスチャットルームには既にココ助さんが入っていて、私が雑談VCをタップすれば通話がすぐ繋がる状態になっている。先輩を待たせるわけにはいかない。私はすぐに雑談VCへ入室した。


『こんにちは〜。ごめんね、誰も部屋にいなかったでしょう?』


 入室すると、スマホからおっとりとした耳心地の良いきれいな声が聞こえてきた。

 声だけで分かる。この人は絶対に美人さんだ。


「うわっ、きれいな声ですねぇ!」

『ありがとー。アカウントと同じでココ助って呼んでいいからね』

「じゃあココ助先輩だ! 宮本歩です! よろしくおねがいします!」


 宮本さんは私が思っていたことを既に口に出していて、先輩との距離をゴリゴリ詰めている。このスピード感が陽と陰の違いだろう。


 私もワンテンポ遅れて「わ、私は新堂あかりです。よろしくお願いします」と慌てて挨拶するが、出遅れた感が半端ない。


『よろしくね。それじゃあ今日は体験ってことで一緒にゲームしましょうか。さっき他の人も呼んだからもう少ししたら――』

「おーい、ココ助?」


 ガラガラと部屋の扉を開けてきたのは、胸元まである鮮やかな茶髪のロングヘアが特徴的な女子生徒だった。赤色のリボンを首元につけているので二年生の先輩だ。


 身長は宮本さんと私の中間ぐらいなので160センチちょっとぐらいだろうか。サイドパートに分けられた長め前髪の毛先は耳元でふわりと外に巻かれていて、美意識の高い人であることが伺えた。


「ギャルだ!」

「背ぇ高いな! バレー部かバスケ部入ったほうがいいんじゃない?」

真知子 まちこちゃんおひさ~』


 私以外の三人が思い思いに話し出す。陰キャの私がこの空気に立ち向かえるわけもなく、私は早くから自分のコミュニケーション能力の低さを痛感させられた。




――――――――――――


第一話、お読みいただきありがとうございます!


大好きなeスポーツを題材にスポ根風味で作品に仕上げてみました。


10万字ちょっとの作品なのでサクッとお読みいただけると思います。


ぜひ最後まで楽しんでいただければ幸いです。

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