6.老いは悲しくてもむしろ受け入れた方が前に進めることもある。

「すっちゃかちゃんちゃんちゃんちゃんちゅわああああああん。っっっということでええええ、きっましたよおおおおおおっとおおおおおおおおぎいいいいいいぐうううううぼおおおおあああーあああああーーーーーーーんあんあん。」

「社長ぉ、喘がないでくださいよぉみっともなぁい。」

「つら、この二人と同種に見られるの。」


東京、荻窪。

妖顕天貫邸の門の前に、三人。

訪問の理由は一つ、ぶち殺しジャスティス

サイトで値段を見た途端に、


「いいじゃあああん、いこういこういこういこういこうず、ずううううううええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「行きましょう行きましょう今行きましょおおおおおおおお!!!!」


くらいのノリで来た。どや。


巨人が通るのかと思うほどの鉄門。門から屋敷の玄関まで距離があり、そこまで庭が広がっている。


「でっかい家ですねぇ。一人でこんな広さ、持て余しません?仕事場兼用にしてもぉ、だいたい2DKあれば十分じゃないですかぁ?」

「それは僕も思う。必要十分な狭さの方が落ち着くし。まぁ金が余ってるんだよ。」

「芸術家って稼げるんですか?ピンキリ感プンプンしますけど。」

「そのピンの方なんでしょ。芸術のことなんて分かんないけど。」

「ゲージツってなああ奥深くってよおおお。俺ちゃあんも前えええ、作品ちゃあ作ってえええ、コンテストオなりいに応募しようとしたあああことがあああんのよさああ。」

「へぇ、珍しい。」

「どんな作品ですかぁ?」

「俺ちゃあんもお若かったからああよおおおお、紙粘土おでええ、ああっっったかああい家族五人のおおお、おっおっおにんぎょおーーーーーおうをおおお、あ作ったああのおおおよおお。」

「おぉ、サカにしては珍しくまとも。」

「それで、コンテストはどうだったんですかぁ?」

「いっっっやああああああ???提出期限過ぎちまったからあああああああ、腹いっせにいいいいいい、コンテスト当日ううう、他の奴らのさっくひいいいいいんん、ぜええええんぶう壊してやったあああ、あ記憶憶があ、ああ、あんなあああああ???」

「うーわ、最低の権化。」

「でも社長らしくて安心しますぅ。何歳の時の話です?」

「二十四だあよ。」

「成人してその癇癪はやっぱり流石だね。」

「全くですぅ。それで芸術家の道は途絶えたと。良かったですねぇ。」

「まあああああーーーーったくう、世知がれいぜえええい。」


まだ日は高いが、屋敷にはどこか陰鬱で怪しい雰囲気が漂う。


「広さの割に人気が無い。警備員もいないし、おかしいね。」

「呑気な人ですねぇ、あっさり終わっちゃいますかね?」

「無いよ。自分の首に一億五千万かかってて、知らない、何もしないなんてこと、ある?」

「まーああああ、十中十、罠アリだわなあああああああ。」

「どう行くのがいいのかなぁ。」


ジー

ジジジ…


監視カメラの映像。


「なぁにぃ?どぉんな豪傑が来るかと思えばぁ、ただの可愛い子ちゃん二人じゃなぁい。」

「あとドローンも飛んでて、誰かと話してるみたいですよ。」

「この子たちが悪魔なのぉ?拍子抜けだわぁ。これじゃあ何の刺激にもならない、濡れ損だわぁ。」

「まぁ見た目によらずとは言いますし。それにこれ以外に来る人もいるかもしれませんから、一応警戒しておきましょうよ。」

「んんんぬぅぅぅぁぁぁああああああにぃぃいいいいいいいっっっっっちゅぅぅぅぁぁぁぁああああああっっっっってぇぇぇええええんんんぬぅぅぅぉぉぉぉおおおおおお????あのトラップ群をぉ、抜けて来られるはずがぁ、あ、ないっでっしょぉぉぉおおおおおおお???」


屋敷の中には感圧式トラップの数々。バルカン砲、四方八方から襲い掛かる槍、王水ぶっかけ、落とし穴マグマ…


「それに落ちてくる天井にぃ、迫りくるピアノ線、毒ガス、高圧レーザー、通路いっぱいに転がってくる玉エトセトラ…アクションやコメディで思いつくようなトラップはぜぇんぶ取り付けてやったわよぉ。あと門にも庭にも色々ねぇ。これらを抜けないとここには来れないのよぉ?無理に決まってるじゃなぁい。」

「た、確かにそうですが…」

「もっちのろん、カメラも各所につけたわよぉ。どれで死ぬか見れないともったいないしぃ。可愛い子ちゃあん、せめて死ぬときは、面白く、ねぇ…♡」


「じゃあいいかげえええんにい、お邪魔すっかあああ。」


サカが門に手をかける。


「今だっっっわぁぁぁぁ!!!十万ボルトォォォォ!!!!放っっっ流ぅぅぅぅぅううううううう!!!!」


ピッ

バチィィィィ!!!

バチバチバチバチバチ


「ああ、ああああ…」

「とりあえずの挨拶だわよぉ。まずは一人、真っ黒焦げねぇ。」

「あああ…」

「まぁー、もう一人も家に入るまでにおっ死ぬでしょうけどぉ。本当の悪魔が来るまでの暇潰しよねぇ。」

「あああ、あ、あのぉ、カメラを…」

「んんんんっっっっっっさぁぁぁぁあああああああああああああいぃぃぃぃいいいいいいいいえええええええええあああああ!!!!!んんぬぅぅぅぁぁぁあああああああにぃぃぃいいいいいいよぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!まぁぁぁあああああたぁぁぁああああああひっっっとぉぉぉぉおおおおをおおお、ぶっっっこるるるぅぅぅぉぉぉおおおおおおおおおすぃぃぃいいいいいいいいとぅぅぅぁぁぁあああああああああぐぅぅぅっっっるるるぁぁぁぁぁああああああああああいいいいいいいいいいいどぅぅぅぅぇぇぇぇぇええええええええええあああああ!!!!!!」

「ひぃぃぃいいいい!!!」

「とぉにぃかぁくぅ、死体は適当に処理しといてよねぇ。ご近所迷惑になっちゃうからぁ。」

「いや、その、それがですね…」

「だっから何よぉぉぉおおおお???!!!はっきりしなさぁぁぁあああああああいぃ!!!!!」

「カッ、カメラァァァアアアア!!!見てっ、くだっ、さぁぁぁああああああい!!!」

「はぁーん?何よぉ、今更見たって…」


スッ

ドガァッシャアアアアン


門がすっ飛んだ。

一蹴りで。


「ちょっと社長ぉ、いくら普段ストレスが溜まってるからって、人の家の門を壊すなんてダメですよぉ。」

「はああああああああーーーーーああああんん???!!!溜まってねええええええしい!!!!ちょっとピリッとなったあ、だけだしいいいいいいいい!!!!それでイラついてえ、蹴破ったあわけじゃあ、ないっっっしいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

「静電気が溜まってただけじゃん。八つ当たりで家壊されるの、同情しちゃうよ。」


そのまま門を越えて歩いていく。


「………?は?」


七色の髪がしおれる。


「はぁ、効いてない、みたいです、よ?」

「…フン、ま、まぁ突貫工事だったし、故障で電気が弱くなったんでしょ。運のいいこと。気にしない気にしない。芸術に失敗はつきものなの!分かるぅぅぅううううう???!!!」

「わ、分かりますぅ!」

「次、次よぉ!庭には、人肉を与えて育成したドーベルマンを三十匹、用意したんだからぁ!!!しかも去勢してなぁぁぁあああい!!!さらにさらにぃ、昨日からご飯抜きぃ!!!!その凶暴さ、驚天動地ぃ!!!!どうよぉ、可愛い子ちゅわあん、玄関に辿り着く前にぃ、縮れた餌になっちゃう気分はぁぁぁあああ???!!!」


三人が庭の中ほどに踏み入る。


「いぃっっっけぇぇぇええええええええええ!!!!!飢えた狼ぃ、解放ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああ!!!!!!」

「狼ではないですけど。」


ガシャガシャガシャ

ガッシャコン

庭からいくつもの檻がせり出す。


「ひぇっ?!」

「ん?」

「あああ?」


バカバカバッカァァァン

檻が開き、勢いよくドーベルマンが飛び出した。


グワッグワッ、グワァァァァアアアアアア!

三人を捕捉し、襲い掛かってくる。


「ワンちゃんだぁぁぁああああああ!!!!でも可愛くなぁぁぁああああああい!!!!私柴犬

派ですからぁぁぁああああああ!!!」

「僕は犬NG無理無理ムリ蕁麻疹レベルで無理ぃぃぃいいいいいいいいい!!!!」

「俺は何でもイケるけどよおおお。しいいいーてえ言うならああああ、ポッメラニアアアン、かあああ???!!!」


シュキィン

ズッドオオオオオオン!

バットの先が地面にめり込み、亀裂を作る。


?!グウゥッ、グワァアゥッ?!

衝撃で、ドーベルマンの動きが止まる。


ズッ

ズオオオオオオオオオオオオオオオ

サカからオーラが滲み出る。そのまま、ゆっくりとドーベルマンを見つめる。


ウゥ…ワゥ…

後ずさりするドーベルマン。

サカはただ見つめるだけ。


オオオオオオオオオオオオオオオ


ウ…

クゥンクゥーン


バッ

ゴロゴロゴロ

三十匹、寝転がってお腹を見せてきた。


「よしよしよおおおーーーしい、ええー子らじゃあねえのお。やっぱにゃあ、下手な人間よりよおっぽど賢くて素直でええええええぜい。」


わしゃわしゃわしゃ

そこたら中の腹を撫でてやる。


キャンキャンキャアン


「おぉ、こうなると可愛いですねぇ。私もお腹撫でちゃおう、わしゃわしゃわしゃあーーー!」

「もういいから早く行こうよ時間無いよ治安が来ちゃうよてめぇらさっさと行くぞぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

「わあーーーたってええええ、いつもいっつうもお急かしやがってからにい。」

「はぁーい。じゃあねぇワンちゃん!」


ワフゥン!

尻尾をぶんぶん振ってて可愛かった。


「そんな癒しの時間いらねぇぇぇええええんだよぉぉぉおおおおおおおお!!!!あぁぁぁああああああんだああああああああああこんのぉぉぉぉおおおおおおクッッッッソォォォオオオオオオイィィィッッッッッヌゥゥゥゥゥウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!わったしぃが近寄ろうとしたらぁ、吠えて噛んでくるくっせにぃぃぃいいいいいいいい!!!!!後でぜええええったぁぁああいぃ、絶対ゼッタイ☆ZETTAI、殺処分にしてやっっっるるるぅぅぅぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「落ち着いてください先生ぇ!!!モニター壊れちゃいますよぉ!!!」


ぜい、ぜい

「それにしても、さっきの蹴りといい、バット?の振りといい、人間とは思えない力です…これ、もしかして、本当に…?」

「んんん、まぁ、いいわぁ。相手が何だろうとぉ、本番はこれから、家に入ってからよぉ。扉を開けたが最後ぉ。永遠に抜け出せないトラップのぉ、ォォォオオオオンンンッッップゥゥゥァァァレェェェエエエエエイイイイイイドゥゥゥォォォォオオオオーーーーーーーオオオオオオオオオ!!!!!今度こそ、こんっどこそぉ、こいつらまとめてぇ、地獄にぃ、送ったっるぅぅぅぁぁぁぁああああああああああがああああああああ!!!!!!!!!!」


「さーてえ、この家のどっかあに芸術家のバンババンがいらっしゃるとおおお。」


ズゥーーーーーン

玄関の扉から怪しさも怪しさがどうしよもなく匂ってくる。


「扉開けたらバーンって何かでてきそうだね。」

「それにいちいちどこにいるか探すのも時間かかりそうですねぇ。はぁー、残業ですかぁぁぁああああ?!」

「俺ちゃあんも残業はあいやだあよい。まあ、こーいうのはなあ、一回なあ、雑に扱うに、限るなあああああああああ???!!!」


ミシッ

ミシミシミシミシ


大きくスタンスを取り、身体を倒してバットを寝かせ、横スイングの構え。


「え、え、何する気?」


「何でさっさと入らないのよぉ?!あったしゃあの一秒一秒はダイヤのごとくきっっっちょうなのよぉぉぉおおおおおお???!!!」

「何か変なポーズ、してるみたいですけど…」

「知っっっっっるぅぅぅっっっっっきぃぃいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!おおおぉぉぉんんんむぅぅぅぇぇぇぇええええええええるるるぅぅぅぁぁぁぁあああああああああああみぃぃぃいいいいいいっっっっっっとぅぅぅぅぇぇぇええええええええええんんぬぅぅぅぁぁぁぁぁあああああああああああああッッッッゴォォォオオオオオオオオオオオミィィィイイイイイイイイイイイイイぅぅぅはぁぁぁぁぁぁあああああっっっはぁぁぁあああっっっはぁあああああああああああああ、すぅぅぅぅぁぁぁぁぁあああああああっっっっっすぅぅぅぁぁぁぁああああああああっっっっっとぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおお死んんっっっどぅぅぅううううーーーぅぅぅううううううううえええええええええええっっっっ、あああああっっっっったぁっっっっっしぃぃぃやぁぁぁああああああーーーーあああああーーーああああのぉぉぉぉぉおおおおおおっっっおおおおおおおお、すぅぅぅぁぁぁぁぁあああああああっっっっっくぅぅぅぅぅぅうううううううううひぃぃぃぃいいいいいいいいいいっんんんんのぉぉぉぉおおおおお、きゃぁぁぁああああああっっっっっっとぅぅぅぇぇぇえええええええにぃぃぃいいいいいいいいっ、ぬぅぅぅぅうううううあああああああれぇぇぇぇえええええええぶぅぅぅぁぁああああああああああ、いいいいいぃぃぃっっっっっぬぅぅぅううううのおおおおおおおおおおおおおよおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「ぎぃぃぃぃぃぇぇぇぇえええええええええええええええええあああああああああああああああ!!!!!」


シュッキィィィイイイイイイン

ズッドォッ、ッッッバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


バット一閃薙ぎ払い。

屋敷を丸ごと切り裂き、浮いた。


「へ?」

「…?」

ポカン、な妖顕天貫と高橋の姿が見える。


「お、そこかあ。分かったあぜえい。」


ズッ、ズゥゥゥウウウウウウウウウウウウウン

屋敷上部、着地。ちょっとズレてる。


「………?高橋ぃ?」

「………はぇ?」

「今ぁ、家がぁ、浮かなかったぁ?」

「はは、なぁにを言うんですかぁ。家がぁ、浮くわけぇ、ないでっしょおー?」

「そうだけどぉ、ほら、何かヒビが入ってぇ、ズレてるじゃ、なぁぁぁい???」


辺りを一周する亀裂。そこを境目にズレる上下。


「これは、ほら、アレですよ。経年劣化ですよぉ。この家建ててから結構経ってるでしょお?それに、昨日今日と無理して工事したじゃないですかぁ。だからですよぉ。」

「あ、そっかぁ。いやーだぁ、もう。びっくりしちゃったわぁ。ちょっと無茶だったのねぇ、やっぱりぃ。」

「そうですよぉ、もーう。」

「誰かの顔が見えてぇ、声掛けられた気もするけどぉ、気のせいよねぇ?」

「そうです気のせいですよぉ。歳は取りたくないもんですねぇ。」

「殺しちゃうわよ?バキューンってぇ。」

「ありゃりゃ、こりゃやられちゃった。」


うっふっふ

あっはっは


シュッキィィイイイイン

ズッゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオン!


再びの轟音。二人がいる部屋の壁に大穴が空いた。


「…高橋ぃ?」

「はいすみません現実でしたごめんなさい。」


パラパラパラ

カッツカッツカッツ


穴から足音がする。


「高橋高橋高橋、たっっくぅぅぅぁぁぁああああふぅぅぅぁぁあああああすぃぃぃ、ぃぃぃいいいいいーーーーいいいい???!!!」


ギリリリリリ

怒髪天で胸倉をとんでもなく掴む。


「僕のせいじゃあああああああーーーーーりましぇぇぇぇえええええんん!!!!悪魔ですぅぅぅううううう!!!!あっっっくむぅぅぅぁぁぁああああがぁぁぁ、きったんですっっってぇぇぇぇええええええええええええ!!!!!むぅぅぅぉぉぉおおおおーーーーうぅ、んどぉーーーーーーーっっっするぅこともぉ、でぇっっっきぃぃぃいいいいいむぅぅぅぁぁぁあああああっっっっすぇぇぇぇえええええええええーーーーーんん!!!!」


カッツカッツ

ドッスン


「ほいほいほおおおおおおーーーーーーい、呼ばれてもねえ、飛び出てもねえけどお、この俺ちゃあん、参☆上☆だっ、ぜええええええええええええいい???」

「けっほけっほ、破片、吸っちゃいましたぁぁぁああああ!!!喉いったぁぁぁぁあああああいぃ!!!」

「バットの威力が上がったおかげかな?もっともっと無茶なやり方できるようになっちゃって。まぁ今回はこれでいいよね。」


「さてさてさあああああーーーーてええええええ???芸術家のバッバアアアアアアはあ、どっっっこかあにゃああああーーーーあああああ???」


ブッチィ


「んんんどぅぅぅぅぁぁぁぁあああああああーーーーーーーっっっっっっれえええええええええええええええぐっぅぅぅうううううわあああああああああああああああああああああああああああああっ、ブァッ、ブァァァァッ、ブァァァアアアアアアアアアアアアアアアアでぇぇぇぇっっっすぅぅぅうううううううううううっっっっとぅぅぅぇぇぇぇぇええええええええええええええええええあああああああああああああああ???????!!!!!!!ああああああっっっったぁぁぁあああああっっっっしぃぃやぁぁぁあああああああっ、うっっっっるるるるぁぁぁあああああぅぅぅわぁぁぁぁぁあああああああああああっっっくぅぅぅぁぁあああああああああああーーーーあああああきぃぃぃいいいいいいいいいい、びぃっっっっっむぅぅぅぁぁぁあああああああああああああああああああじじじぃぃぃぃいいいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぬぅぅぅぅぁぁぁぁああああああああああああああああああんんんぬぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっよぉぉぉぉおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


「美魔女ですってぇ。確かに見た目には若そうですけど…」

「肌のたるみとか皺とかには限界があるよねやっぱり。歳相応だよ。」

「ぐぅ…」

「ぐぅの音は出るんですね。」

「そうだぜえええ?にんげえん、勝手に老いてえいくものよおおお。まあ俺ちゃあんはあ?老いとかあ?かんけええねええけんどおおおなああ。」


トゥルリン

サカの卵肌。いつ見てもスベスベ。


「確かに社長、肌綺麗ですよね。最初十代かと思いましたもん。」

「人間辞めてる代償じゃない?老いが無いの。」

「まああああーーーーーーあああ、そんっっっなあああ与太話いーいいいは置いといてえええ、」


ザッ、ザッ

一歩二歩、妖顕天貫に近づく。


「あんたあが一億五千万だろお???おっとなしゅうお縄についてくれんけえのお???そっしたらおいちゃあんも楽なあんだがのーーーうおうおう。」


「くっ…くぅっ…」

「せ、先生ぇ…?」


妖顕天貫は俯いたまま震えている。


「どしたあああん?やっぱしい、俺ちゃあああんのご尊があああんにい、畏れをなしちゃったああああかあああああ???」

「違うよ。こんなのに人生終わらせられる不甲斐無さに泣いてるんだよ。」

「え、じゃあじゃあ私は、生理がつらいんだと思いまぁぁぁぁぁあああああすぅ!!!」

「いや、先生は閉経が近いからそんなにつらいなんてことは…」

「うぅっ…うっ…」


妖顕天貫は怒ることなく俯いたまま、呻き声を上げる。


「あれぇ、やっぱ泣いてません?」

「ほぉら、僕の言った通りじゃん。」

「めえっっってくよお。女の涙は華になるがあ、ファンキーババアの涙は萎えるぜえあ。ほらあ、泣くなあってばさ。」


「うぅっ…うぅ~~~~~~うぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~」

「先生、まさかっ…?!」

「ん、何?」


「ぅぅぅうううううううううううええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんんんん!!!!!!びぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんん!!!!!!!!!!!!!!!」


怒号のような泣き声。鼻水を垂らし豪快に涙を流す。


「おおおーう。これはまたすんげえこと。」

「うるっさぁ。いくら死の間際だからってそんなに泣く?」

「なんだか惨めですぅ。」


「先生、落ち着いてください。ほら、飴ちゃんあげますからぁ。」

「うぅぅ……ぇぇぇぇええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んん!!!!」


飴を咥えながらも泣き続ける。


「この人、いつもこんなに泣くんですかぁ?」

「えぇ、普段はしゃんとしてるんですが、時折タガが外れたように泣くんです。ほら先生、どうしたんです?何か、嫌なことがありましたか?」


ひっく、ひっく

うぐうぐ


「ぅぅぅううううう~~~~~だっで、だっでぇ、うっ、んん。あいづら、あいづらぁ~~~~~~~~~」


三人を指差す。


「えぇー?私たちですかぁ?何か、やっちゃいました?」

「なあんにもやってえないよなあ?」

「自覚とは。」

「はいはい、あの人たちが、どうしたんです?」


ぐす、ぐす


「あいっづらっ、ひぐっ、あいづら、ぁぁぁあああああ~~~~~~~、ドラッ、ドラァッ、ブゥゥゥ~~~、ぜんぶぅ、ぜぇぇぇんぶぅ、ぜぇ、ぜぇぇぇええええんぶぅぅぅうううううううううううううううううううああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」


「あん?ドラブー?」

「ドラえもんの新種ですかぁ?」

「いえ違います。多分『トラップ』かと。それで?トラップが、全部、何です?」

「ぜぇぇぇええええんぶぅぅぅうううう!!!!!ぜぇ、んん、ぶぅ、ぶぅぅううううううううううううう!!!!んくっ、ぐぅ、むじぃ、むじじてぎだっ、ぎっだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「あーあーあー、そういうことですか。なるほど確かに、つらかったですねぇ。」


よしよし

ぐっ、うっ

頭を撫でられて少し落ち着いたようだ。


「え?『トラップ全部無視』?どういうこと?」

「あのですね、この妖顕天貫、皆さんが来るのを楽しみにしてたんです。」

「?えぇ?」

「楽しみぃ?」

「なんだそらあ。」

「まぁ楽しみというと語弊がありますけど、受けて立つと意気込んで、家中にトラップを仕掛けたんです。徹夜で。」

「あぁー、庭の犬たちはそういうことだったんだ。」

「その前にも門に電気流したんですけどね…とにかく、たくさん準備したんです。それで殺し屋を返り討ちにしてやるってワクワクしてたんです。それが…」

「あぁ、それをぜーんぶ無視して家に大穴開けて乗り込んできたから、悲しくなっちゃったんですねぇ、可哀そうにぃ、せっかく準備したのにねぇ。」

「ぐすっ、うん、ぐすぐすっ。」

「なんだああああああ???俺ちゃあんが悪いみたああああな空気になってえねえかあああああ???」

「いや社長ぉ、ちょっとは責任感じてくださいよぉ。一生懸命頑張ったのに、それを全部ふいにしちゃったんですからぁ。」

「ううううん、まあ、そうかあ。悪いこと、したんかもなあ。」

「いや全く?僕たちはあのおばさん殺しに来たの。で、あのおばさんは僕たちのこと殺そうとしたの。それを避けただけ。なぁんにも悪くない。分かる?分かるよね?」


高橋は幼子をあやすように優しく妖顕天貫を包み込む。


「えぇ、でも仕方無い、こういうこともありますから。さ、先生、もう大丈夫ですか?」

「いぃ~~~~~~やぁぁぁああああああ~~~~~~~~~せっかくぅ、頑張ったのにぃぃぃいいいいいいいいいいい~~~~~~~~~~~~!!!!!」

「でもしょうがないですから、ね、いい子ですから、諦めて、ね。」

「いやぁぁぁぁああああああああ~~~~~~~~~!いぃぃぃいいいいいいいやぁぁぁあああああああああ~~~~~~~~~!!!!」

「困りましたね、なかなか泣き止みませんよぉ。」

「しょうがないなぁ…皆さん、特にあなた、お願いがあります。」


高橋がサカを見る。


「あああん?あんだお?」

「全部とは言いません、さらっとでいいですから、屋敷の中を一周して、トラップにかかってくださいませんか?」

「んっっっはああああああああああああん???何でよお。そっしたらこうやってえ来た意味があねえくねえっちまうだろおがあよお。」


開けた穴をぐーるぐる指差す。


「もちろん無茶は承知の上です。ですが、あなたなら頑丈そうですし、トラップにかかっても何とかなるかも。何とか妖顕天貫のために、この無茶、聞き入れてくださいませんか?」

「ええええーーーーーえええ???面倒くちゃあああああい。」

「社長ぉ、この人が可哀そうですよぉ。ちょっとくらい、やってあげてもいいんじゃないですかぁ?でも私たちは非力ですからぁ、社長一人でお願いしまぁす。」

「うううううーーーーん???」


サカが考え込む。


「いや、何検討してんの?しないよ?このまま殺っちゃって終わりだよ?ねぇ?」

「社長ぉ。」

「お願いします。」


ぶっはぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ

極大の溜息を一つ。


「そう言われちゃあ?俺ちゃあんも?鬼じゃあないしい?やってやってもお?あ、いいけんどお?」


パァッ

高橋の顔が明るくなる。


「ありがとうございます!」

「こっから玄関戻ってぐるっと一周してくっからあああ。それでいいなああああ?!」


サカが穴に足をかける。


「はい、それでいいです。ほら先生、トラップ、かかってくれますよ。カメラで見ていましょうね。」

「えぇ…?トラップにぃ…?ホントォ…?」

「さっすが社長、漢ですねぇ。」

「ねぇ僕の声届いてる?姿見えてる?あれ、マイクオフだっけ…?いやオンになってるわ。つまりは僕を無視ってこと…っっっおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!クソ馬鹿どもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!んなぁぁぁぁぁあああああああにぃやってんだぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「じゃあなあ、行ってくるぜええええい。」

「行ってらっしゃぁーい。」


ひょい

カッツカッツ…

サカが姿を消した。


「じゃあ皆さんも、彼の様子をこちらで見ていきましょう。どうぞ、ここに座ってください。」

「じゃあ遠慮無くぅ。うわぁ、モニターに細かい画面がびっしり!壮観だなぁ、スパイ映画かなんかみたい!!!」

「僕疲れたから。ウーバー食べるから。後は勝手にやって。」


マイクオフ、スリープモード。


「ほらここ、ちょうど入り口を開けて入ってくるとこですよ。」

「あ、ホントだ!社長ってカメラ映りそんなに良くないんですね!」


「俺ちゃあんもお人好しいだぜえい。ま、そんなとこがテャアムポインツなんだがなーう。」


スタスタスタ

廊下を適当に歩いていく。


「まずは何があるんですかぁ?」

「基本は目立たない感圧板やセンサーを置いておいて、通過して反応するとトラップが起動する仕組みです。このルートですと、まずは天井が落ちてきますね。」


スタスタ

ピッ

ゴォォォオオオオッ

天井が落ちてくる。


「んお?」


パッゴォォォオオオオン

落ちた。が、そのままサカの頭が天井を貫き、無事。


「あああーーーーあああ、あんなあああるほおおおどおおねえええ。こおおおんな感じねええええ。はいはいはあーーーーい、承知の助えええ。」


そのまま天井を跨いで先に進む。


「な、何事も無かったように…どんな頭してるんだ…」

「社長ぉ、頭の中身は残念ですけど外殻だけは頑丈ですからねぇ。次は何ですかぁ?」


楽しくなってきちゃったヒナ。


「えぇと、次はピアノ線ですね。前後に出てきてだんだん迫ってきて、挟まれて身体がサイコロステーキになります。」

「あぁ!映画でもよく見る!社長、どうするんだろ…?」


スタスタスタ

ピッ

ジャキジャキィン

格子状のピアノ線がサカの前後を挟む。


ガアアアアアア

サカにピアノ線が迫る。


「ほーん、これねえ。ちょうどなあ、爪、伸びてきてんだよなあ。」


スポスポッ

グローブを外し、黒く塗られた指の爪が露になる。


ギニッ

両を猫の手にして、


ギシャシャシャシャシャシャシャァァァァアアアアアアアン!

乱れ引っ掻き炸裂。


バラバラバラァァァン

ピアノ線が崩れ落ちていく。


「いっちちちちち、ちょいと深爪したったあああぜえい。」

ちょうどよく削った爪を擦りながら、グローブをはめる。


「ほ、本当に何なんだ、この人は…」

「ね、おかしいんですよぉ。固定観念とっぱらわないとぉ。ぽーんとぉ。」

「びぇぇぇええええ~~~~~~んん!!!!ドラッブぎがなぁぁぁああああ~~~~~~~いいいい!!!!ごのびどぉぉぉぉ、じななぁぁぁぁあああああ~~~~~~~~~~いいいいい!!!!!」

「おぉ、よしよし。トラップはまだまだありますからね。ほら、次が来ますよ。」


ピッ

ガラアアアアアアアアア

ガシャガシャアアアアアアアン

サカを挟むように分厚いシャッターが下りる。


ジャカッ

プッシュゥゥゥゥウウウウウウ

突如これ見よがしに緑黒い気体が噴出された。


「おぉっ、これは?」

「即効性の毒ガスですね。一度でも吸い込んでしまうと、そのまま呼吸器官を腐らせ、即死です。」


シュウウウウウウウ

瞬く間にシャッター内部が気体で満たされ、サカの姿が見えなくなる。


「これは…?」

「脱出した様子も無い、間違いなくこの中にいますね。」


トラップ、大成功!

キャッキャッ

妖顕天貫に無邪気な笑顔が戻る。


「ほぉら良かったねぇ。毒ガス、上手くいったねぇ。」

「んん、今更社長が心配になってきましたぁ。まだ給料日じゃないのに…」


五分後。


「もういいですかね。噴出止めて、換気しましょうか。様子を見ましょう。」


ピッ

シュゥゥゥ…

噴出が止まる。それと同時に、


シュゴォォォォォォォ

換気口からみるみる気体が吸い込まれていき、視界がクリアになる。


「社長ぉ…?」


次第に見えるサカの姿。

サカは、倒れていた。ピクリとも動かない。


「死んだ♪死んだ♪死んだぁ~~~~♪」

「パワーは異次元ですが、呼吸はどうしようもなかったようですね。いやぁ良かった良かった。」


ヒナが口元を押さえる。


「嘘…?社長ぉ…?未払い…?」


すると、

むっくり


「「?!」」


サカが起き上がる。


「しゃ、社長ぉ~~~!!!」


スタスタ

そのままシャッターに近づき、下に手をかけ、


「うんしょっとお。」


ズッガアアアアアン

思い切り持ち上げた。シャッターは天井にめり込んでしまった。


「良かったぁ~~~~!給料出るぅ~~~!!!」


妖顕天貫の目にまた涙が浮かぶ。


「うぅ、うぅぅぅぇぇぇええええええええ~~~~~~ん!!!!!」

「な、な…」


ピッ

高橋がカメラマイクのスイッチをつける。


「な、な、何なんですか、あなたぁぁぁぁああああああ???!!!」

「おおおっと、いっきなり話しかけてくんじゃあねえよお。びっくらこいちゃうだろおがあい。」

「いや、何で生きてるんですかぁ?!あんな毒ガスの中で五分間も、一度でも吸ったら死んでしまうのに…?!」

「吸ってねえよお。」

「へ?」

「だっかあらあ、吸ってねえんだってえええ。息止めてたんだよおおお、フッツウウウになああ。俺ちゃあん、十分はあ止めてられるからよおおおお。ガスひくまで暇だから寝てたんだなあああ。やるなら十五分とかだったなあああ???まあでも限界きっそおおおだったらあ、さっさと破って出てたがなあああ。」

「えぇ…?」

「分かります、引いちゃいますよね。慣れてきたけど、私だって未だにこの理不尽さに引くことありますもん。」

「びぇぇぇぇええええええ~~~~~~ん!!!!!!」

「あぁもう、だったら次、次ぃぃぃいいいいい!!!パパッといきましょおおおお!!!!」


「迫りくる高圧レーザーの数々!」


ビィーーーーーー


「バットで逆に反射させて発射口壊しゃあいいわあ。」


ビィンビィンビィン

バッシュゥゥゥウウウウ

ジジッジジジ…

発射口、沈黙。


「え~~~ん!!!」

「次!」


「転がってくる巨大な玉!通路いっぱいで避けよう無し!」

「じゃあ壊せばいいじゃんなあ。」


デコッピン

ドッォォォオオオオオン!


「どんだけデカかろうが中がスカスカならおしめえよお。」

「ぐぅぅぅ、鉄ではダメなのかぁ…!」

「えぇ~~~ん!!!」

「次!」


「正面からバルカン砲の乱射!」


ヒィィィイイイイイイイイ

ガガガガガガガガガガガガガガガ

キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキ

全部バットで弾く。


「角度とかタイミングとかでメリハリつけねえとなあああ。」


ガガガガガッ、ヒュンヒュンヒュン…

弾切れ。

ドッガァン

バットで一撃、破壊。


「うぇぇぇ~~~ん!!!」

「次!」


「四方八方槍!」

「穴が見えてるじゃあああん、これじゃあ当ったるわきゃあねええわなあああ。それにい、」


ボキッボキッボキッ


「先の尖りと材質があめえよおおお。さっきのレーザーならあともかっくう、こおんなじゃあああ俺ちゃあんの筋肉はあああ貫けねえええぜえええ???」

「うぅぅぅぇぇぇ~~~ん!!!」

「次!」


「王水ぶっかけ!」


天井からバッシャァァァァ


すぅっ

ブッッッッッッフォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

最大の吐息を上に噴射。サカを避けるように王水が逸れ、床に零れていく。


「おいおいおおおおおおおい!革ジャアンにかかるところだったじゃあねえかああああ!!!こっりゃああああ、たっっっっけええええええええええええええええんだっっっぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「あれ高いんだ。アメ横で安売りしてたのを改造したとかじゃないんだぁ。へぇー。」

「びぃぃぃぇぇぇ~~~ん!!!」

「次!」


「落とし穴!からのマグマ!」


バコッ


「お?」


廊下一面底が抜け、そのままマグマの海へ。


「どうだぁ!足場も壁も何も無い!マグマ直行だぁぁぁあああ!!!」

「だぁぁぁぁあああああ!」


キャッキャッ


サンダルの先が、マグマに触れようとした、そのとき、


「んんんんんぬうううううううああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


ダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバダバ

超速で足を回転させ、右足がマグマに触れる前に右足を上げ、また左足が触れる前に左足を上げる。その繰り返しで、マグマの海を渡っていく。


「…えぇーーーーー???」


高橋の肩ががっくし落ちる。


「だって、あれ、もう、浮いちゃってる、飛んじゃってる…???」


ポン

ヒナが高橋の肩に手をやる。


「考えるのよしましょう、無駄です。」

「ぎぃぃぃいいいいいいぇぇぇぇええええええええええ~~~~~~んん!!!!!!」


それからもそれからも、数あるトラップを超人的な身体で回避してしまい、三十分後。


「なっっっげええええええーーーーーーーよおおおおおおおお!!!!!こんの部屋あああああああ、はっっっしもおおおおおお端じゃああああああねええええええかあああああああああ!!!!!」


サカ、五体満足でのお帰り。


「あぁー、社長ぉ、やあっと来たんですかぁ?もう後半は同じような展開で飽きちゃったから、もう寝そうでしたよ、ふあああーーーーああ。」


スリープモード解除。


「うんうん、サカいるね。時間管理完璧。流石僕。」

「っっったああああああっっっくうううよおおおおおおおお。めんどおくせええええことをおおおこの上なかったあああああぜえええええええ。アッレだなあああああああ、プウールに入る前のおおお冷水シャワーをおおおずうっっっとおおおお浴びてるようなあ感じいいいいい、そおんくらあいのだあるさだったあああぜえええ。」

「でしょ?今度からこんな面倒臭いことせず、やるべきことだけ一直線にやろうね?」

「わああああったああああーああよお、はあああーあああああ。」


サカが妖顕天貫と高橋に歩み寄る。


「んでえ?この俺ちゃあんにこっこまでえさせったんだあ。」


見下ろす赤い瞳が暗くなる。


「覚悟、いい、なあ?」


ズオオオオッ

ブルッ

ヒナの背筋が震える。時折、サカのことが心底怖くなる。


「…」

「…もぉ、いいわぁ。」


のっそりと、妖顕天貫が立ち上がる。


「先生…?」

「もぉ、何も頼れない、結局最後に信じられるのはぁ、自分だけねぇ。」


ゴソゴソ

シュバッ

何やら小瓶を取り出した。


『超力滅力克力爆力魔興淫剤EX』


「それは…あの方からの…」

「お黙りぃ、これしか、ないのよぅ。」


キュポン

ゴッキュ、ゴッキュ


ぷっはぁぁぁぁぁあああああ

パリィィン

一息に飲み干し、瓶を割り捨てる。


「何だか怪しい予感がしますぅ、隠れましょうか。」

「危険察知能力が育ってきたね、嬉しいよ。そうしよう。」


グッ

ババァァァアアアン


服を脱ぎ捨て、下着一丁になる…いや?


「わわ、下着にしてはゴテゴテしてますねぇ、大きくて重くて痒そうですぅ。」

「いや、あれって、まさか噂に聞く、貞操帯ってやつ…?」


乳房の大事なところと陰核の大事なところを存分に覆い隠すそれは、黒の合金で厳重に固められていた。


「おおいおいおい、無理してそんなあああんつけんなああああよおおおおお。性の束縛はああああ身体だけじゃなくううううう、心おおおも痛めつけるぜえええええ???」


「ふ、ふ、ふ…これは、ただの、貞操帯じゃあ、ないのよぅ…」


ふら、ふら、と、妖顕天貫の足付きが覚束なくなる。様子が、おかしい。


「これはぁ、あったしゃあの性感帯をしっかり拘束してんのさぁ、膨張も収縮もできないようにねぇ。そこにぃ、あの特性媚薬を飲んだらぁ、どうなるかぁ…?」


ビグッ

ビグビグビグビグビグビグゥッッッ!


妖顕天貫の身体が跳ねる。


「がああああっ、があああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!]


ビギッ、ビギビギビギビギビギビギビギッッッ!

妖顕天貫の皮が、骨が、筋肉が、みるみる盛り上がっていく。


「うわわわっ、すごい、どんどん大きくなっていきますよぉ???!!!」

「何じゃこりゃ…どんな原理…?」

「これはねぇぇぇえええええ???!!!まっずぅぅぅううううう!!!!媚薬でぇぇぇぇええええええ!!!!!超常的なエネルギーーーがぁぁぁああああ!!!!!性感帯に供給されるのぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」


ビギビギビギビギビギビギビギィ


「だっげどねぇぇぇえええええええ????!!!!膨張するはずのぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!性感帯がぁぁぁあああああああ!!!!!ギッッッチギチにぃ、固定されてるっかっらああああああああ!!!!膨らまずにぃぃぃいいいいいいい!!!!!エッネルギィーーーをおおおおおおおお!!!!!跳ねっっっ返すのさぁぁぁあああああああああ!!!!!!そしてそのぉぉぉおおお!!!エッッッネルギィィィイイイイイイはぁぁぁあああああ!!!!!!全っ身をおおおおおおおおおお!!!!!!!かけっっっめぐぅぅぅっっっとぅぅぅぇぇぇぇぇええええええええええええええええあああああああ!!!!!!!!!そっっっれっっっでぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!!!皮が骨が筋肉がぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!人智を越えてぇぇぇぇえええええ!!!!!フッッッルゥゥゥウウウウウウプゥゥゥァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッッッップゥゥゥウウウウウウウウウウウウするっっっっのおおおええええええああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


バギバギバギバギバギバギ

バッッッギィィィイイイイイイイイイン


「先生、ついに…」


フッシュゥゥゥウウウウウウウウウウ

全身に蒸気をまとう妖顕天貫。身長は三メートルはあろうかというほど。骨が異常に飛び出ており、筋肉はまるで鋼のようで、血管がビクビク蠢いている。目は血走り、口は裂け、歯がギンギラギン。横幅はボブサップの倍はある。

かつての妖顕天貫はもうそこにはいない。

真・妖顕天貫、ここに参上。


「ほおおおーーーんん、覚悟はあ、あったあみてえだなあい。」


ズシン、ズシン

妖顕天貫が動く度、地面が揺れる。


【あなたがぁ、悪魔ぁ、なのよねぇぇぇぇええええ?】


ドスの利いたダミ声。


「悪魔、ねえええ。そっりゃああああおんめええええらあああみてええええのかりゃあ見ればあああ、そう見えっかもおなあああああ。」


ふしゅ、ふしゅうううう


【確かにぃぃぃ、さっきまではぁ、あなたがぁぁぁあああ、すっごくぅ強大でぇぇぇえええ、恐れすら感じたわぁぁぁああああああああ。】


「そうかえええ、そいっつあああああどうもおおお。」


【でもぉぉぉぉおおおおおお???!!!今っはぁぁぁああああああ????!!!!ちっっっっっぎぃぃゅゅゅぅぅぅうううううわああああああああああああああああああああああああああああああああああうううううううううううううう!!!!!!!!!】


ギャアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


「きゃああああ!!!もう、人の声に聴こえませぇん、獣の呻り声ですぅぅぅうううう!!!」

「すんごいねぇ、ただのババアが、ここまでなっちゃうなんて。」


【あっっったしゃぁぁぁああああああああはぁぁぁぁああああああ、おおおおおおおおきっくぅぅぅうううううううううううう、つよっくぅぅぅうううううううううううう、なったのよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!もぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!だぁぁぁっっっるぅぅぅぇぇぇぇええええええにぃぃぃいいいいいいもおおおおおおおおおおお、まぁぁぁぁあああああっっっっっけぇぇぇぇええええええええええええええええええなあああああああああああああああああああああいいいいいい!!!!!!!】


ギャアアアアオオオオオオオオオオオン!!!!!


【なぁぁぁああああんんでもぉぉぉおおおおおおできるぅぅぅうううううううう気がぁぁぁぁあああああああ、すっっっっっるぅぅぅぅうううううううううううううううううううううう!!!!!!あんったぁぁぁあああああもぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!あの人ぉぉぉ、あいっつぁぁぁぁあああああああもおおおおおおおおおおおお!!!!!!みんなみぃぃぃいいいいいいんんなぁぁぁぁああああああああああああああああああ踏みぃぃぃっっっ越えっっってぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!世界っでぇぇぇえええええ、いぃぃぃいいいいいっっっっっちぃぃぃいいいいいいいぶぅぅぅぁぁぁぁあああああああああんんのぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!げげげっ、げぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええじゅっっっつっっっっっくぅぅぅぅわぁぁぁぁあああああああああああああああにぃぃぃぃいいいいいいいいい、んんんぬぅぅぅぁぁぁぁああああああああああああああっっっっとぅぅぅぅぇぇぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!魅ぃぃぃぃっっっっすぅぅぅぇぇぇぇぇええええええええええええええええええるるるるぅぅぅううううううううううううううううううううううううううっっっっっっっぅぅぅぅわぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああがあああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!】


フンギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!!!!

パリン、パリィン

声の振動でガラスが割れた。


「…素晴らしいぃっ…!」


部屋の隅で高橋が感涙している。


きぃっひっひっひっ


【はぁ、はぁ…ああああ?何がぁ、おかしいのぉ???】


「べっっっつにいいいいいい???ただあ、どおおおおおーーーもおおお、可愛いもんだなあああと思ってええよおおおおお。」


【えっ…♡私が、可愛い…?】

トクン


~素敵なBGMが流れる~


「きぃぃぃいいいいいい!!!何よ社長ぉぉぉおおおおお!!!前は私に愛を誓っておいてぇぇぇぇええええええええ!!!!あんな女にぃぃぃぃいいいいいいいい可愛いいいいなんってぇぇぇぇえええええええ!!!!わったしにぃは一度も言ってくれないのにぃぃぃいいいいいいい!!!!」

「えぇ…?女ってこわ。こんな自分勝手な主観、どっから持ってくるんだか。」

「もう知らない!!!!フン!!!!!」


ヒナは部屋の隅に引きこもった。


【か、可愛いって、ど、どこが…?】


テレテレ


「んぬううううあああああーーーあああにい、俺ちゃあああんを超えよおおおうっていうううう、そんっのおおおノオーーータリンでええええファンシイーなオッツムがああああああ、いっじらしいいいいいいいってええええ言ってえええんのおおおよおおおおおう。」


ピキッ

真・妖顕天貫の表情が一転、曇っていく。


「超えええるだああああなああああんてえええそんなああああ畏れ多いことをおおおよおおおーーーーーおおおくうううするもおおおおんだぜええええい。いいかあ?俺ちゃあああんはあ、異次元なのおおお。この世の物差しじゃあああああトウテエーーー測れないよおおおーーーなあ、奥深くってえええ、味わあい深ああああああいいい存在なあああああのおおおおおよおおおおおおう。悪魔でもありい、天使でもありい、神でもありい、死神でもありい、逆に人間でもあるう、とんでもなああああああいそおおおおんざあああいなああああのおおお。分っかるうううう???分っかぁぁあああるぅぅぅぁぁぁああああんくぅぅぅぁぁぁあああああああ、そんっなあああオッツムツムでああああああああ???」


ピキピキ


「そっっっれええなのにいいいい、おめえええええときったるああああああ、『あたしはこんなとこで終わる人間じゃない!もっとできる、もっと世間に認めてもらえるもん!』ってえええ、年甲斐もなっくううううう、やれ裸あああスップオオオンプオオオンになってえええええ、何かああああああの力に頼ってええええええええ、それでええええ、てめえええがあああ後戻りもでっきねええええバッッッケエモンンにいいいいなったってえええんだよおなああああ????そっれでえええ、どおーーーーにかあなるうホッショーーーもねえええのにいいいなああああああ???」


ビキビキビキ


「『過ぎたるは及ばざるが如し』ってなあああ、俺ちゃあああん以外の皆んな様あああああはああああああ、身の丈以上をおおおもっとめんじゃあああないのさああああ。年もお美貌もお名声もおおお、ほどほどがああああいいいんだよおおおおおおおお。俺ちゃあんはおめえええええみてえええな背伸び欲しがり承認欲求自己顕示欲卍MAXなああああバンババアアアアよりよおおおおお、今ある自分を認めてえええ、ちっちゃあああな幸せ嚙みしめてえええるしわっくっちゃあああのババアアアアのほーーーがあああああ、抱いてえやれるぜえええええい。」

「嘘…?社長、熟女専?」


ガーン

ヒナショック。


「そういうことじゃないと思うけど、聞こえてないだろうしどうでもいいや。」


「ほおおおらどしたああああ???かかってええこんかああああいい???あ、あああーーーーあああーああ、あれかあああ?負けちゃうううのが怖いんかあああ???トラップぜえええんぶ壊されてえええ、悲ちい悲ちーいちてたのにいいいい、せっかくうおっきくなったのにいいい、まああああた俺ちゃああああんに負けちゃうううもんなああああ????怖いなああああ????自分じゃあああ手も足も乳もでねええええ存在があああ、目の前にい、いるんじゃあああなあああ????おうおうおおーうう、よちよちよちい、かわいちょかわいちょ、なじえなじえこの世に生まれてきちゃのおおおううう????」


ビキビキィ、ブシュッ

真・妖顕天貫、ブチ切れの舞。


【っっっrrrrrrrrrrrるるるるるっっっっすぅぅぅぅぇぇぇえええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!ぅぅぅぁぁぁぁあああああっっっったぁぁぁぁああああああっっっしゃぁぁああああああああああぅぅぅはぁぁぁぁあああああああああああっ、っっっすぅぅぅぅぁぁぁぁぁああああああああああいいいいいきゅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぬぅぅぅぅうううううううううううああああああああああああああああああああああんんんぬぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!ああああああんっっっっっっとぅぅぅぁぁぁあああああああああああぬぅぅぅぅぁぁぁぁああああああああああんんくぅぅぅぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ、んんあアアアアアアんんっっっっどぅぅぅアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああぬぅぅぅぅああああああああああああああああああああんぐぅぅぅうううううあああああああわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!ぶぶぶっっっっっっっっくぅぅぅぅううううううううううおおおおおおおおおおるるるるるるるるぅぅぅぅぉぉぉおおおおおおおおおおおしぃぃぃいいいいいいいいいいいっっっっっっとぅぅぅぅぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええああああああああああああああやァァァああああああアアアアアアッッッッッッッッるるるぅぅぅぅァァァァアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!】


きひっ


次回、サカVS真・妖顕天貫とその他、切ない戦いへ、続く。

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