第5話 謎の獣
「キュ! キュキュ! キュ!」
引きこもり空間に入ってきた白いモンスター? がドラゴンに向けて吠え始めた。
「ギャーーーーー!」
そしてドラゴンはそれに応えるかのように咆哮を発した。
「うっ!? か、会話できてんのか?」
この獣とドラゴンは意思疎通ができているかのようにお互いに吠え続けている。
とはいえ、俺には確認する術もない。しばらくやり取りを見守っていると突然、獣が俺の方へと近寄ってきた。
獣が近寄ってきたと同時にドラゴンが猛スピードでこちらに突っ込んできた。
「うぉ、ぉぉぉぉ!!」
俺は咄嗟に体を守る体制に入り目を瞑るが衝撃が来ない。
そして目を開けるとそこには大きなドラゴンの口があった。
「ギャ?」
「キュ?」
「え?」
ドラゴンも獣も驚いていた。そして勿論俺も。
だが俺はすぐに理解した。スキル〈引きこもり〉がドラゴンの攻撃をも防いだのだと。
ドラゴンは翼を広げて舞い上がり一度距離を取った。
「す、すげぇ……俺のスキル超有能じゃん……」
自分のスキルに感動しているとズボンが引っ張られた感触があった。
下を向くと白い獣が俺のズボンを噛んで引っ張っていた。
「キュ! キュ!」
俺が気づいたことに気がつくと獣は俺に向けてお腹を見せてくねくねと体を捩らせ始めた。
お腹には謎の紋章の様なものと真っ白でふわふわの胸毛が生えていた。
「なんだ? 感謝してるのか?」
屈んでお腹を触ろうとすると離れていたドラゴンが突然ブレスを吐いてきた。
「うおっ!?」
だが、ブレスは引きこもり空間の前に敗れた。見えない壁を貫くができなかったのだ。
「こんなかに入れば怖いものなしじゃん。そーれ、可愛いなお前は……っ熱!?」
ドラゴンの脅威は無くなったと思い、目の前の獣のお腹を右手で堪能していると突然右手の甲が熱くなった。
「て、手がぁ! こいつモンスターだったのか!?」
右手が焼ける様な痛みに襲われ、のたうち回っていると、ドラゴンが天に向けて咆哮してどこかに飛び去っていった。
だが、今の俺にそんなことを気にする余裕はない。感じたこのない痛みに今にも失神しそうだ。
「はぁ、はぁ……」
それから地獄の様な数分間が過ぎると手の痛みが治ってきた。
「人間といのは情けない生き物でしゅね。あれぐらいの痛みで叫び回るなんて、ミーだったら恥ずかしくて生きていないでしゅ」
ようやく一息つけたと思ったら、子供の声の様な高い声が聞こえてきた。それもかなり人を馬鹿にした様な声色だ。
「滅茶苦茶痛かったんだぞ! お前が……って、あれ?」
文句を言うために起き上がったものの、人っ子1人いない。ましてや子供なんて居るはずもない。
「ミーも同じ痛みを体験したけど、声一つ上げなかったでしゅよ〜。人間って弱いんでしゅね〜」
な、なんだこのムカつく声は、人をおちょくってるのか? それにしても人はいないのに誰が話しているんだ?
「そのアホズラはなんでしゅか? 元々おかしな顔がもっとおかしくなってるでしゅよ〜」
声が聞こえた下を向くとさっきの白い獣がいた。
「ま、まさかこの可愛い生き物が言ってるわけじゃないだろうし、一体誰が?」
少しの間見つめあった後、この生き物じゃないと判断した俺は周りを見渡す。
それにこの獣が日本語を喋れるとも思わない。さっきまでキュキュ! と可愛い声を出していたんだぞ。
「どこ見てるんでしゅか? 人間は頭もヨワヨワなんでしゅね〜」
「は? 嘘だろ?」
「嘘じゃいでしゅ、図が高いでしゅよ。頭を垂れるでしゅ」
今度はこの白い獣が喋っているのを間違いなく見てしまった。
「はー!?!?」
過去1の叫び声が出てしまった。
だってモンスター? とりあえず人間ではない何かが人の言葉を話し始めたのだ。驚かない方が無理だ。
「うるさいでしゅね」
うんざりした様な表情で後ろ足で顎を掻く獣。
「お、お前なんで喋れて!? てか口悪すぎだろ! 見た目とマッチしてねぇよ! 大体なんなんだお前!? モンスターなのか!? モンスターじゃないのか!?」
「多い、多いでしゅね。そうでしゅね。まずミーとお前が話せているのは契約したからでしゅよ。さっき痛がったところを見てみるでしゅ」
「ん? なんだこれ……」
右手の甲を見ると先程白い獣のもお腹にあった紋章と同じ物があった。
「それはミーと契約した証でしゅ」
「契約? 証?」
左手で右手の甲を擦ってみるが紋章は消える気配がない。タトゥーの様な物なのか?
よく見ると獣のお腹にあった紋章がなくなっている。
「そうでしゅ。ミーは聖獣メリクリウスでしゅ。いくら人間と言ってもメリクリウスの名前くらいは聞いたことあるでしゅよね?」
「いや、知らんのだが……」
聞いたことすらない。てか聖獣とかって自分で言っちゃうのか。
「えっ!? 知らないんでしゅか!? ミー達の世界でメリクリウスといえば、富と名声、幸せの象徴なんでしゅよ! さっきのドラゴンだってミーのお世話係で……」
おかしいぞ? 謎を解くために質問したら何一つ解決しないまま謎が増えたぞ。
こいつらの世界に、さっきのドラゴンがお世話係? 明らかに邪竜でラスボスの雰囲気出てだろ。
ダメだ、こいつに抽象的な質問をしたら疑問が増えて返ってくる。的確に聞きたいことだけを聞かなくては……
「OK、話がこんがらがる前に整理しよう。まずお前の名前は?」
「お前って言うなでしゅ! ミーの名前はメルルでしゅ! メルル様でもメルル殿でも好きに呼べでしゅ! お前の名前はなんでしゅか?」
お前はお前って言ってもいいのかよ。しかも様付けを強要って……ツッコミどころが多過ぎる。
「分かった、メルル。俺の名前は安村翔だ。安村が名字で翔が名前な」
「カケル、ミーを呼び捨てで呼ぶなでしゅ! もっと敬うでしゅ!」
「……メルル、喋れる様になったのは契約したからって言ってたけど、契約ってのはどういうものなんだ。この紋章が手に刻まれるだけなのか?」
面倒くさいのでメルルの意見を無視して話を進める。
「本当に何も知らないんでしゅね。そんなカケルにミーが教えてあげるでしゅ。一回しか言わないからちゃんということを聞くんでしゅよ」
この獣……一度悪口を挟まないと話せないのか……
「分かった、頼む」
とはいえこのままだと話が進まないので怒りを抑えて続きを促す。
「契約とはミー達メリクリウスに伝わる秘技なのでしゅ。メリクリウスは一生に1人だけ契約者を選ぶのでしゅ。そして選ばれた生き物はこの世の全てを手に入れることができる……」
この世の全てという言葉を聞いて生唾を飲む。
「と言い伝えられているでしゅ。ミーも契約自体は初めてなのでぜ〜んぜんわからんでしゅ」
「なんじゃそりゃ。じゃあ喋れてる理由については?」
思わず転けそうになってしまう。
「全くわからんでしゅ。でも多分きっと契約したからでしゅよ!」
可愛らしい胸毛を前にして誇らしげなメルル。にしてもこいつも大概適当だな。
「そうか……じゃあそっちの世界ってのとさっきのドラゴンについては?」
「こっちの世界についてはそののまでしゅ。このダンジョンの最果てにあるミー達の世界でしゅ。あのドラゴンはミーのことを逃さまいとドラゴン族の長がつけたお世話のヴァルスでしゅ」
ダンジョンの最果て!? ドラゴン族の長!? ……考えるだけで頭が痛くなってきた。
ドラゴン族なんて本当にいるか疑問だが、あのドラゴンを見ては嘘だともいえない。
それにドラゴンがメルルを逃さない様にしたってことは、こいつの言ってる聖獣って言うのも本当のことかもしれない。
「ダンジョンの最果てって……このダンジョンには終わりがあるか?」
「そうでしゅよ。このダンジョン……というよりも異次元空間は100個の層が重なってできてるでしゅ。そしてその先にお前達の世界とミーの世界があるでしゅ」
……このダンジョンって100層もあるのか。確か今は38層目までは攻略が進んでいるらしいが……
もしかして俺は今とんでもない事を聞いているんじゃないのだろうか。
とはいえこの話を誰かにしたとて信じてもらえると思えない。
それにメルルの話がどこまで本当かもわからない。話半分で聞く方が良さそうだ。
「そういえば人間は、ダンジョンに入ると特別な力が覚醒すると聞いたでしゅ。ヴァルスの攻撃を防いだのはカケルの力でしゅか?」
「あ、ああ……それは……」
俺はメルルに職業とスキルの説明をするのだった。
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