第18話
「………………」
「はわ……はわ……」
「………………」
「はわ……」
テーブルから誰もいなくなって数分、テーブルに向かい合って座る俺と明日花の間に会話は全くなかった。
俺はなんかいつもと格好も様子も違う明日花になんて声をかければいいかわからないし、明日花は明日花でまたポンコツ化してはわはわ言っている。
が、まあせっかく友理奈さんにコンカフェに招待してもらって、ただ黙ってドリンクと食事を頂くのも失礼な話だ。せっかく来たのだから楽しんでいる姿を友理奈さんに見せたい。
ということで。
「そういえば明日花はコンカフェに来たことがないのか?」
「な、ない……」
「なんだか普通の喫茶店と違って面白いスタッフさんばかりで楽しいな」
「そ、そうだな」
「明日花がこんな格好しているのを見るのは初めてだし新鮮だな」
「はわわっ……><」
だめだこりゃ……全然会話のキャッチボールができやしねえ。
その後も適当に会話のキャッチボールを明日花と試みてみようとするが「そうだな」か「はわわ」以外の返事がかえってこない。
どうしたものやら……と頭を悩ませていると厨房の方からお盆を持った友理奈さんがこちらへと歩いてくる。
そしてお盆の上に乗っていた大きなドリンクを見た俺は我が目を疑った。
「おまちどおさま~」
なんてテーブルにグラスを置く友理奈さんだったが、妙にそのグラスがデカい。
ビールのジョッキみたいな形をしているが、その大きさは三倍近くありそこからはストローが二本飛び出している。
「ゆ、友理奈さん……これ……」
「祐太郎くんが頼んだ『ドロドロエンゲージスムージー』だよ」
「なんかデカくないですか?」
「特別サイズにしてみた」
「いや、してみたじゃなくてですね……それになんかストローが二本飛び出てるんですけど……」
「なんかってそれが『ドロドロエンゲージスムージー』のチャームポイントじゃん」
「いや、じゃんって言われても……」
ここに来るの初めてだし……。
と、そこで友理奈さんは俺の隣に腰を下ろす。
「祐太郎くん『ドロドロエンゲージスムージー』はこのドロドロの美味しいスムージーをキャストとゲストで共有してドロドロした永遠のエンゲージをするってドリンクだよ」
「それはとんでもないモノを勧めてくれましたね」
「明日花ちゃん、今日はキャストなんだから病んだ心で祐太郎くんとドロドロした永遠の愛の契約を交わしてね」
「はわわっ……><」
なんて言って立ち上がると友理奈さんは「あ、祐太郎くん、ちょっとだけ明日花ちゃんを借りるね」と言って彼女の手を引くと厨房へと戻っていった……のだが。
「明日花ちゃん、もっと主体性を持たないとあのバカはいつまで経っても気づかないわよっ!!」
「はわわっ……ごめんなさいっ!!」
「あんまりうかうかしてたらとりかえしの付かないことになるわよっ!!」
「ごめんなさいっ!! はわわっ……」
となにやらわけのわからん会話がわずかに漏れてくるのを聞きながら椅子に座っていると、厨房から今にも泣き出しそうな明日花がこちらへと戻ってきた。
「だ、大丈夫だったか?」
「だ、大丈夫だ……」
全然大丈夫そうじゃないけれど……。
「そ、それよりも祐太郎、今日の私はキャストだ」
「え? あぁ……なんか一日店員みたいなことを友理奈さんが言ってたな」
「もっとヤンデレにならなきゃダメだって怒られたぞ……」
「いや、別にそこはそこまでつきつめなくても大丈夫だろ……」
と、そこで明日花は立ち上がると俺の隣の席に腰を下ろす。
「ゆ、祐太郎……この『ドロドロエンゲージスムージー』を一緒に飲んでとわの愛を……」
「はあっ!?」
いや、急にどうしたの……明日花ちゃん……。
「言っただろ……ヤンデレ頑張るぞ」
どうやら本気でヤンデレを頑張るようだ。幼馴染みがヤンデレを頑張ると言うのであれば俺も応援するしかない。
「なんというか明日花……頑張れよ」
「がんばる……」
と言って俺の座る二人がけの長椅子に腰を下ろしていた明日花が、わずかに腰を浮かせて俺の方に体を寄せてきた。
「祐太郎……私だけを見てくれなきゃいやだぞ……」
「お、おう……」
「他の女の子のことは見ないで欲しいぞ……」
「それはもちろん……」
「じゃ、じゃあ……吉田さんよりも私のことを見て欲しいぞ……」
「いや、なんで吉田の名前がここで出てくるんだよ……」
「や、ヤンデレだから……」
ということらしい。唐突に出てきたクラスメイトの名前に少々困惑したが、彼女がここまでヤンデレを頑張っている以上、俺も応えるしかない。
「わ、わかったよ。吉田よりも明日花の方を見るから……」
「だ、だめだ。私だけを見てほしい」
「じゃ、じゃあ明日花だけを見る」
「じゃあ一緒に『ドロドロエンゲージスムージー』を飲むぞ」
ということで明日花が一足先にストローに口を付ける。彼女は髪を耳にかけながら俺がストローを咥えるのを待っていた。
やるしかないか……。
ということで少し恥ずかしいが、俺もまたストローを咥えると二人してチューチューとスムージーを喉の奥に流し込んだ……のだが。
あ、甘い……甘すぎる……。
いったいなんのスムージーなのかはわからないが、スムージーはどろっとしている上に凄まじい甘さで大量に飲むのはなかなかにキツい。
こ、これがヤンデレの味なのだろうか……。
どうやら明日花も同様に思っているようで頬を真っ赤にしてぎゅっと瞳を閉じながら必死にスムージーを飲んでいた。
結局、俺と明日花はそれから一時間ほどかけてなんとかゆっくりとスムージーを飲み干したのだが、お腹がパンパンで他のメニューを注文する元気は持ち合わせていなかった。
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