第6話帰宅
「ただいま~」
『カオリ手を洗ってね。』
「はーい。わっ」
誰もいないと思っていたのに、台所からエミリオが現れてカオリを抱き上げる。
「おかえり、二人とも。」
カオリを床に下ろすと、カオリは洗面所へと向かう。
エミリオは私を軽く抱きしめ額に口づけを落とす。
「リナ、お疲れ様」
『おかえりなさいエミリオ。早かったのね。』
「あぁ、今日はかおりの誕生日だし早めに仕事を終わらせたんだ。カオリのケーキは買えた?」
「うん。冷やしておかないと。」
私はケーキを冷蔵庫に仕舞う為に台所へ向かった。
「お父さん、ケーキ買ってもらったし、食べたの」
カオリが手を洗い戻ってきたようだ。ケーキをゆっくりと仕舞いながら、エミリオとカオリの会話に耳をすます。
「うん?もう食べたの?」
「違うの。お店でね、食べたの。」
「ハハ。そっかぁ。カオリはケーキが大好きだもんな。お母さんと食べたのかぁ。良かったなぁ」
「うん。お母さんと、おじさんと食べたの」
カオリは無邪気に今日の出来事を話しだす。エミリオは嬉しそうにカオリの話しを聞いていた。私は、背中に妙な汗がつたうのを感じていた。
「おじさん?」
「うん、えっとね、ルークお兄さんって言ってた。お母さんの知り合いだって」
「そっかぁ。お母さんの知り合いかぁ。ちゃんとご挨拶できたかな?」
「うん。」
「そっかぁ、カオリも大きくなったなぁ」
エミリオに褒められて頭を撫でられ喜ぶカオリ。
夕飯の支度をする為にエプロンをつけようと振り返ると、ちょうどエミリオと視線が合った。
私は何か尋ねられるのかと身構えていた。
「こっちにも知り合いがいたんだ?」
「え、あ、偶然学園の同級生にあったの」
名前以外に嘘はついていないけれど、私は普段通りに話せているかしら。
「そっかぁ。それは懐かしいなぁ」
エミリオとは学園が違うし、私があまり過去の話しをしないので、交友関係は知らない。過去の話をすると、必然的にルーカスのことに触れることになるので、どうしてもお互いに避けてしまう。
エミリオはまたカオリと話しを始めていた。
結局それ以上昼間のことについて触れられることはなかった。エミリオにルーカスの事を話したくはない。ルーカスの事は冷静に話せる自信がない。感情のコントロールができなくて、泣いてしまうかもしれない。
泣いていたらきっと、誤解すると思うから。
エミリオには感謝している。
カオリという宝物まで授けてくれた。
ルーカスへの想いとエミリオへの気持ちは同じようで同じじゃない。
どちらへの想いが強いとかではなくて、二人共、私にとっては大切な存在だから。
夕食後に三人でケーキを囲み、カオリの誕生日を祝った。
カオリは昼間はチョコレートケーキを食べていたので、フルーツが載せてある生クリームケーキを持ち帰った。
家族で一緒に味わうケーキは、いつもより甘い気がした。
きっと、何でもないこういうひと時が、幸せなのだろう。
私はとても恵まれている。
ルーカスは…
一緒に誕生日を祝ってくれる人がいるだろうか。
あの人は、ルーカスを大事にしてくれているだろうか。
私が考えてもどうしようもないのに…
昼間見た少し痩せたルーカスの顔が浮かび、気になって仕方なかった。
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