1550年 家操17歳 ジオラマ

 1550年 家操17歳


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 正月の挨拶で信秀様が元気そうな姿で家臣へ新年の挨拶を行った。


 信秀様が家臣達に酒を注いでいく時に顔をみたが、本当に似せている人なのだろう。


 雰囲気を含めてそっくりで、俺も多聞丸の情報がなければ信秀様が亡くなっているなんて思えなかった。


 その正月の席で信秀様から小麦姫を俺に降嫁させるという発表がされて、一部の者達……農民上がりというのが気に食わない血筋重視の人々から反対の声が上がるが、信長様が


「親父殿の決定に逆らうのか」


 と怒鳴ると反対していた者達は静かになった。


 逆に柴田勝家様や前々から付き合いのある平手様や林様、オナホールで付き合いがある家臣の方々なんかは賛成の意思を表示してくれた。


 ただ織田家の一門衆に入れるというわけではなくあくまで降嫁で、武家身分でも無かった内葉の家を武家として引き上げるのが目的だ。


 というか小麦様の母君はそもそも津島商人の家系だし……。


 そんな感じで正月の挨拶は終わったが、信長様が俺を呼び出し


「……家操は俺に付いてきてくれるか」


 初めて名前を呼ばれた。


「信長様の部下なのですから信長様に付いていきます。何があろうとも」


「そうか……ありがとうな」


 そう短く言われた。


 信長様は俺をもう子分とかそういうのではなく部下として使わなければならない立場になってしまった。


 その言葉を聞いてああ、やっぱり信秀様は亡くなっているんだと確信するのだった。


 となるとこの後に来るのは織田弾正忠家の家督争いと信秀様が持っていた利権を親族が奪いに来ることだろう。


 織田家はただでさえ数が多く、親族関係も複雑なのでメスが入るだろう。


 というか信長様の天下統一の過程で殆どの織田一門は戦死していくし、自身の息子以外の一門衆への権力譲渡は抑え込まれていたのが史実だ。


 信行の息子も津田性に変えられている……織田家の統一問題が関わってくる。


「まずは平手様に相談か……」


 俺は少しでも信長様が家督争いで勝ちやすい状況作りに奔走することになる。








「平手様」


「家操どうかしたか?」


「信長様の織田弾正忠家継承で朝廷もしくは幕府からお墨付きをいただくことはできないでしょうか」


「うむ、儂もそれは考えていたが……難しいと言わざる得ない」


 平手様から言われた理由はまず織田弾正忠家の後継者認定は上司である守護代である清洲織田家が認定するのが筋であるが、信秀様が守護代の清洲織田家の権力を大幅に制限していた為に嫌がらせの一環で信長様への織田弾正忠家の後継者認定をのらりくらりとかわしてしまっていた。


 じゃあその上司の守護の斯波氏は完全に実権を守護代の清洲織田家ともう一つの守護代である岩倉織田家に奪われており、清洲織田家に幽閉されている状況。


 接触も困難であった。


 となるとその上は幕府で将軍にお伺いを立てるのが筋となるが将軍は細川晴元に連れられて近江坂本に脱出し、しかも将軍は全身に水疱ができる難病に侵され政務不能状態。


 こんな状況下で守護代の家臣である織田家の後継者認定なんかできる状況ではない。


 ならば朝廷という話になるが、確かに信秀様は朝廷に多額の献金を行ったが、幕府を飛び越えて朝廷にお伺いを立てるというのは間に挟んだ全ての上司を蔑ろにする行為であり、全てから逆臣認定されてしまいかねないらしい。


 これが守護の立場かつ実力があれば、幕府を無視しても地力があるので朝廷から官位を貰って官位マウントで周囲を黙らせるという手が使えたが、織田弾正忠家は守護代の家臣である。


 しかもその後継者で官位が貰えるのは大内氏とかの例外以外は無理である。


「だから信長様は暫定後継者という立場以上を固めるのは難しいのだ。しかも信秀様は三河を統治するための役職を幕府に要請している。それが返ってこない以上話を進めることはできん」


「なるほど」


 朝廷工作ができるのであれば五位様を動かすというのもできたが、朝廷工作をすること自体が今だと核地雷みたいなものなのでならば家臣の方の工作にスイッチすることにした。









 まずはご近所の水野氏や佐治氏を織田弾正忠家の問題に関与させないことが大切である。


 味方にできれば援軍を出してくれるかもしれないが、織田弾正忠家の相続争いに巻き込んだ場合領土や利権もしくは大きな借りを作ることになる。


 そうなると家督争いに勝っても家の力は大きく衰退しました……なんてなったら周辺諸国から攻撃をされるし、今は織田家がでかいから従っている国人衆も下剋上を狙って敵対勢力と組んで襲ってくる可能性もある。


 そうならないために彼らは中立を貫いてもらう必要がある。


 正月の挨拶ということでお土産を持って水野さんの城に行き、織田家の家督問題についてお話をすると、水野家長である水野信元は織田信長の能力を高く評価しており


「うつけうつけと周りから呼ばれていますが信秀様の基盤を継承できるのは信長様だけでしょう。信行様は真面目ですが家臣の言う事を聞きすぎる傾向が強く今は柴田勝家様等のまともな家老達に守られていますが、一度奸臣に付け込まれれば三河や尾張全土を今川に飲み込まれる可能性があります……それだけの器が今川義元にはある」


 今川義元を実際に見たことがある水野信元様だから言える言葉だ。


「我々水野衆は信秀様、信長様の織田家に賭けている。お二人ならさらなる飛躍もできると思うから信秀様にも信行様に家督を譲るような事が無いようにくれぐれも……」


「私も信長様に従うのみです。信秀様も正月の席で元気そうにしていましたので信長様が継ぐまでは大丈夫でしょう」


「そうですか! ならよかった」


 水野信元様は戦国時代には似合わないほど良い人だ。


 勿論一族の事は考えているが、国人衆にしては今川優勢だった小豆坂の戦い前でも織田家に忠誠を誓い続けてきた。


 織田家に楯突くことになった松平と関係を解消してまで織田家に尽くすその姿、そして信長様への忠義は本物だ。


 一方佐治衆の佐治為景殿はあくまで利があるから織田家に従っている。


 水軍衆を率いているだけあり、思考も海賊や商人に近い。


 利があるから強い織田家に従う。


 弱体化すれば容赦なく火事場泥棒をするだろう。


 今は良い近所付き合いができているが、織田家が内紛状態になったら史実と同じく静観ではなく、支配地域が織田家に挟まれている状態の為、熱田の利権確保を目指し北進する可能性もある。


 警戒は怠らないようにしなければ……。









 領地を巡り、現代の方法で地図を作成し、地図を元にジオラマを作り家臣達に披露した。


「これは地図よりも各地の地形がわかりますな」


「色を塗った石で川や水を表現するとは……」


「これを使って防衛戦の構想を考える。ただここまで押し込まれれば大草城に籠るしか手は無いがな」


「領民の殆どを収容できる広さの城ですが、蔵を予定通り増設しても半年耐えられれば良いほどの食料備蓄になりますな」


 俺は領地とは別に城のジオラマを出し、完成予定の城を見せる。


「本丸と二の丸の間の斜面には果樹の木を均等に配置することで平時には金を生み出し、戦時には薪として利用する。蔵を地下にも掘ることで備蓄量を増やす。ここには二の丸のここには鉄砲鍛冶の工房を誘致し、戦時には弾の供給を行わせようと思う」


「なるほど、普段は二の丸のここを畑にして芋を育てるのですか」


「そうだ。情勢が不安定な時は芋を、普段は薬草類を育てようと思う」


 ジオラマを囲みながら将来出来上がる城について語るのだった。

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