第106話

陽を受ければグレーブロンドへと変化る髪は短く、

反射する湖、水面のように透き通る瞳は彼女を、そして「相良 貴章」を好く者全てを逃れられなくした。




20:17



「あれ、相良が眼鏡してる」



「ん。たまには? その呼び方やめろ」



「少し髪伸びた?」


「髪?そ?」



一蹴してから現在進行形で“隠している”ものを口に咥える。



「あれ、……煙草?」



ウン、と短く応えようとしてカウンターの向こう側へと視線を上げる。あれ、此処って禁煙だったっけと思ったが目の前の男が丸みを帯びる眸を瞬かせたのはそれが理由ではないと気が付いて身体の力を抜いた。




「なー」



「はいはい」


「また、聞いてくれる」



「“俺の好きなコの話”?」


「うん」



少し笑んで頷けば「久しぶりだね」と返ってきて続けられた。


「相良それ酔いたい時のクセだって気付いてる?」



酔えないくせにね。


黒髪と対照して瞳へ映える銀色のバングルが揺れたから頬杖をつく。




「今日は――特別」



「上手くいってないの」


「……」



「その瞳で視るの、禁止。このお店では」



「流石」


「?」


「オニイチャン」



「は?お前、兄貴いたっけ?」



頬杖をついて見上げていた視線を更に上へと煽れば、何を勘違いしたんだか見当違いな返事が返ってきて。




「秘密」




ひみつ、とだけ笑って呟いた。




『会社にはひみつの恋』、ねぇ。

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