第23話 冷めたティーカップを見つめて

 スミレが灯塔を昇り、灯室に現れた。


「交替よ、クリナム。シオンが話があるって」


「話?」


 クリナムは振り返った。

 スミレは、右手の親指を立てると、「早く行け」と右手を灯塔の階段に向かって振った。


 クリナムは、それに従った。


 クリナムは、灯塔の階段を降りながら考えていた。


 私は、シオンを好きになっていた。

 完璧に近い容姿や表情、仕草が、私を惹きつけた。

 多分、私の知らない事ばかりだからかもしれない。

 知らない事は知りたくなる。

 知るともっと知りたくなる。

 相手の事を知りたくなる。

 それは、”愛”ではないのか。


 マスターを失った悲しそうな表情が、私を惹かれたのか。

「私は自由になった」とシオンが言っていた。

 私を好きだとも言ってくれた。

 お互いに好きなら、それでいいのではないかと。




 下に降りると、シオンがキッチンで紅茶を入れていた。

 クリナムに気付くと「座って」とテーブルを指した。

 クリナムは、シオンの傍に行き、後ろから抱こうとしたが、「ダメよ」と断られた。

 クリナムは、何の話だろうと考えながら、ゆっくりとテーブルに着いた。

 すぐに、シオンがやってきて、「どうぞ」とティーカップを差し出した。

 クリナムは、「ありがとう」とそれを受け取った。

「スミレが焼いたの」と言って、動物の形をした可愛らしいクッキーが乗った白い皿を置いた。

 クリナムは、紅茶を一口飲むと、話を切り出した。


「話って、何……」


 シオンは、ティーカップを見つめて下を向いていた。

 深呼吸をすると、クリナムの顔を見てた。


「私、ここを出るわ」

 クリナムは、驚いて目を見開く。

「なぜ……どうして行くの?」

「旅に出たいの……残された時間もないから」


 クリナムは、思い出していた。

 マスターを亡くしたアンドロイドは、三年後にリサイクルされる事と旅行をしようと思っている事を。


「私は……私は、ここに居てもらいたい。

 私は、あなたを愛しているから」


 シオンもクリナムの目を見ながら答えた。

「私も愛しているわ……クリナム。

 でも、私の中には、イーグレットも居るの。

 彼も愛しているの。

 それに……

 私は、アンドロイドなのよ。

 機械なの

 私に残されたのは、三年間なの。

 これ以上、ここに居て、

 もっと、あなたを好きになったら、別れが辛いくなるだけ」

 シオンが、下を向いた。


「私は、あなたと一緒に居たい」クリナムには、他に言う事が無かった。



「クリナム、あなたは、スミレが居るわ。

 あなたは、気付いていないかもしれないけど、スミレを愛しているのよ。

 初めて会った時、あなたは、スミレは車の中に居ますって言ったのよ。

 スタンドAIのアンドロイドを……

 無生物であるアンドロイドなのに……

”ある”ではなく、”居る”と言ったの。

 私はスミレも愛しているのよ。

 スミレが悲しむ顔も見たくないの」


 そう言うと、シオンは自分の部屋に閉じこもってしまった。


 クリナムは、ずーっとそこに居いた。

 冷めたティーカップを見つめて。 

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