第6話
「……疑われるって、気分悪いね」
でも、狩り人として日々を歩まれている
「勝手にはぐれた方が悪い」
「はーい……」
初さんは大きく息を吸い込んで、それらの空気を一斉に吐き出した。
悠真様に疑いの眼差しが向けられていることを冷静に受け止めるために、この場にいる誰もが自身のことを制御している。
「……悪いな、こういう言い方しかできなくて」
「大丈夫、悠真くんと喧嘩するほど子どもじゃないよ」
互いに、普段よりも言葉が乱れていることは自覚しているのだと思う。
それでも、その乱れを修正することができないくらいの不安定さをみなさんが抱えているということ。
「
「全員かー……」
面倒くささを体全体で表現する初さんだけど、頭の中では次に何をするべきか計画が進んでいるらしい。
彼は成すべきことを成すために、部屋の出入り口へと体の向きを変える。
「疑いを晴らすためだ」
「はいはーい」
悠真様と
仲間が疑われるってことは、あまり気持ちのいいものではないからなのかもしれない。
悠真様が仲間に疑いの眼差しを向けるだけで、私の心臓は物凄い勢いで活動を始めていく。
「
「はい……」
障子戸の向こうに、影を見た。
私が気配を察することができるということは、悠真様だって初さんだって、その存在に気づいているはず。
(声が、聞こえる……)
障子戸の向こう側にいる生命は、私に言葉を投げかける。
(私は……)
悠真様が指揮を執るように見えても、悠真様も疑いの対象に含まないといけないのかもしれない。
私は
(しっかりしないと)
自分の頬を、ぱちんと叩いて気合いを入れ直してみた。
「……蝶の声が、聞こえたな」
「はい」
私の心臓は、不安に気づかない振りをしている自分を叱咤しているのかもしれない。
自分が不安抱いているなんて知られたら、
(平気な振りを装わなければいけない)
だけど、自分の体はごまかしが効かないということなのかもしれない。
「裏切り者がいると」
蝶からの言葉を、隠し続けることもできた。
でも、私はありのままの言葉を悠真様たちへ伝えた。
「私のことを指すのか、狩り人のことを指すのかはわかりません」
閉じられた部屋で生きてきた私を、ずっと支えてきてくれた
私が言葉を交わす相手は蝶しかいなくて、その蝶と言葉を交わし合った時間は今も大切に想っている。今も忘れることができない、大切な思い出として記憶に刻まれている。
「でも、気をつけろと」
だからこそ、私は
私を北白川の家から救い出してくれた、悠真様のことも信じたい。
どちらも信じると決めた私は、嘘を吐くことを選ぶことができなかった。
「驚くくらい意味深だね~」
「楽しそうな顔をするな」
心が、体が、
血の繋がりのある家族よりも、長い時間を共にした蝶たちの言葉が未来に繋がると信じたい。
「結葵様」
どんなときも人を勇気づけるような明るさを忘れないと思われていた初さんの声が、急に落ち着いたものへと変わる。
「裏切り者は、狩り人全員だよ」
物事が大きく動くような発言をされた初さんだけど、
何も楽しいことは起きていないのに、生きているのが楽しくて仕方ないような柔らかな笑みを
「凄いね、悠真くん。本当に強大な力を手に入れちゃったね」
この場を仕切っていたように見えた悠真様は口を閉ざして、
「これから
息を吸い込むのも難しくなるような殺伐とした空気が空間を覆っているけれど、独壇場を手に入れた初さんを嫌いになることができないのはどうしてなのか。
「なんでも話すよ。結葵様に隠し事はできないってことが判明しちゃったわけだから……」
「
一歩だけ歩を進めて、
「お一人で、すべてを背負わないでください」
悠真様が私に与えてくれた優しさを持って、
そんな気持ちはあるものの、自分が理想の優しい声を出せているのかすら分からない。
「一人だけ悪者になろうとするなんて、狡いですよ」
悠真様が出かけられている間、
寂しさを抱えている私を気遣ってくれて、私を悠真様の元へと連れて行ってくれた。
「悠真様を守るために、自分だけが犠牲になろうとしないでください」
裏では
私と接してくれた
「俺、狩り人は全員が裏切り者だと言いましたよね? それなのに、俺を良い人に仕立て上げるのはやめて……」
「
この声を聴きたいと、身体がずっと望んでいた。
「降参しろ」
こんなにも優しい人たちに、重苦しい空気も世界も与えたくない。
「結葵に協力してもらうからには、隠しごとはできない」
悠真様に名を呼ばれて、身体が泣きたくなるくらいの幸福に包まれる。
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