第25話 小さなお店
目的地に向かう途中、曲がり角を曲がった所で、後ろから車が走ってきたので脇に避ける。この走ってきたのは後ろが荷台になっている、確か「軽トラ」とか言ったはず。車は里にないので、このスピードにはいまいち慣れない。代わりに牛でよける練習はしてきたが、やっぱり本物は違うな。
キキキキキーーーー
「げっ」
カーブを曲がった勢いで、荷台に積んであったダンボールが飛び出した。
そして、偶然頭上でふたが開いて、中から無数のキラキラした物が降ってくる。
「これ、針か!?」
俺はシンカに体当たりしながら肩に担いで、反対の道に滑り込んだ。
と、そこへ反対側からバイクに乗ったお姉さんが。
マジかよ。
「受身とれよ!!」
俺はシンカを脇に投げ飛ばし、自分は寸でのところで転がってバイクを避けた。
はぁぁぁ。
流石に怪我するかと思った。
シンカの方を見ると、しっかり受身を取れたみたいで、怪我もないようだ。
よかったよかった。
「おぉおーーーー!!」
一呼吸置いてから、周りから歓声が湧いた。
くっそ、目立っちまった。
でもまぁ周りの人も無事だったからいいか。
これ以上目立ちたくないので、シンカを引っ張ってさっさと立ち去ることにした。
「この辺まで来れば大丈夫か」
「……て」
「は?」
「手! いい加減離してよ!!」
ん?
そういや腕掴んだままだった。
「緊急事態だろ。そんな怒ることか?」
「あれくらい自分で避けれるし、今だって自分で走れたわよ!」
「あぁそうですか。ただな、そういうセリフは俺より先に動いてから言え」
「それは……でも、口で言ったっていいじゃない」
「あのな。それでもし、足がすくんだとか、聞こえてなかったとかあったらどうすんだ」
「……」
俯き、唇を噛んでいる。
俺に助けられたことがよっぽど悔しいらしい。
負けず嫌いなのは相変わらずだ。
「いいか。俺はここが里ならお前を助けてない。俺がどうこうしなくても、お前は避けるなり蹴散らすなりするだろ。
でも、初めての旅で、試験とは違っていつ不運があるかわからない状況だ。そんな中で最初から十分に実力が出せる奴なんていないんだよ。
だから、俺がいるんだ」
「……余計なお世話」
まだ言うかこの野郎。
強がりだなぁ。
「余計だろうが、これが俺の仕事だ。仕事の邪魔すんな」
俺は軽くデコピンをして、先に歩き出す。
もうちょっと割り切って頼って欲しいんだけどな。
シンカはおでこをさすりつつ、ついてくる。
「暴力反対」
「何度も俺に平手打ちしてきた奴が言うことか?」
まったく。
面倒くさいやつ。
「あ! ちょっと、ちょっと!!」
先ほどとは打って変わって、高い声。
「今度は何?」
「ここ! このお店入るわよ!」
シンカの指す方向を見ると、ボロっちい――よく言うとアンティークな雰囲気のお店があった。
先に飯を食っておきたかったが、そこから動く気配がないので、しかたなく店に入ることにした。
カランカラン
「こんにちはー」
声をかけてみるものの、店員も他の客もいない。
ドアベルが鳴ったが、奥から出てくる気配も無い。
店内は薄暗く、並んでいる商品も少なかった。
ここ、本当にやってるのか?
ぐるりと一周見渡すと、レジの近くに30cmくらいのクマのぬいぐるみが座っていることに気づいた。
アレは売り物じゃないのかな?
シンカを見ると、周りのことはお構いなしで、熱心に商品を見ていた。
棚に並んでいるものは、布で作られた小物入れや、パッチワーク、ぬいぐるみなど。
俺はその中でも、一番歪な形の小さなクマのぬいぐるみを手に取った。
きれいな作品の中で、一つだけ浮いている。
つぎはぎだらけの布で、愛嬌があるといえばあるが、お世辞にも売り物には見えない。
何というか……
「子どもが作ったようなぬいぐるみね」
いつの間にかシンカが横に来ていた。
「それだ。何かコレだけ不器用な感じ」
「でも、私一番コレが好きかも。愛情込めて一所懸命作った感じがするもの」
「へー。確かに一所懸命さは感じるかな」
「それ、よかったら貰ってください」
ん?
今声がしたけど……。
キョロキョロと見回す。
やっぱり誰もいないよな。
シンカも首をひねる。
空耳ってわけじゃなさそうだ。
「あれ?」
何かさっきと違うような……必死に先ほど見た記憶をよみがえらせ、照らし合わせる。
「あ!!」
「何よ? 大声出して」
「クマ! クマが立ってる!」
そう。
先ほどレジの横で座っていたクマのぬいぐるみが立っていたのだ。
一瞬背中がゾワッとする。
いやしかし待てよ。
さっきのアルピとかいうのも動いて喋ってたし、ここはぬいぐるみがそういう仕様なのかも。
そう自分を納得させて、レジに近づく。
「喋ったの、お前?」
クマは礼儀正しくぴょこんとお辞儀した。
「はじめまして。このお店の代理店主です」
「あら、ご丁寧にどうも」
シンカもお辞儀を返す。
何だこの光景。
「で、さっきの『貰って』ってのは?」
「その人形、気に入ったなら貰ってください」
「売り物じゃないの?」
何とかして断らないと。
こんな思い入れが強そうなの貰っても、燃やすわけにもいかないし。
「売り物……だったんですが、その出来ですので、なかなか買い手が見つからないんです」
「どうしても手放したい理由があるの?」
シンカの言う通り、クマの言い方だと、早くそれを手放したそうに見える。
「実は、その貰い手が決まった時点で、お店を閉めようと思っていまして」
「え、やめちゃうの? 勿体無い。こんなに繊細で綺麗なもの作れるのに」
シンカは、近くにあった小物入れを手に取って言う。
「コレ作った人は?」
その手に持つ物を指差して聞く。
シンカがこれだけ気に入っているなら、師にいいかもしれない。
「……私です」
え、ぬいぐるみに縫えるの?
あぁ、でも、これだけ滑らかに動ける機械技術があるなら縫うロボットも作れるかも。
「どうやって針を持つの?」
シンカはクマの手をニギニギしながら眺める。
それは俺も気になる。
「針は、手にはめるベルトがあるので」
「へー、見たい見たい! 実際に縫うとこ見せてくれる?」
俺も興味はあるけど、さすがにロボットからは職人魂、取れないしなぁ。
「いいですよ。では、奥に。
すみませんが、連れて行ってもらえますか? 足が悪くて、時間がかかってしまうので」
もう見学する流れになってしまっている。シンカも引かないだろうし、このじゃ断れないな。
見るだけ見るか。
中にロボットが入っているなら重いだろうと思い、俺が持ち上げる。
「ん?」
何この軽さ。
むにむにむに。
あれ? 中身綿だけ?
「あ……あのう。出来ればもう少し丁寧に扱って貰えると……」
クマが困惑気味に見上げるのと同時に、後ろから頭をスパーンと叩かれた。
「あんた、手つきがやらしい!」
「いや、やらしいとかじゃなくて……」
「もういい! 私が抱っこするから」
奪い取られた。
いや、そんなことはどうでも良くて。
どういうことだ?
そう言えば本屋も軽食屋もこの近くだった。
先に調べたいな。
「おい、飯まだだろ。 先に食ってから、落ち着いて見せてもらおうぜ」
「はぁ? 今から?空気読みなさいよ」
いや、お前も俺の意図読み取れよ。
「あ、あの、行ってきてください。お店も今日は午後からお休みなので」
ぬいぐるみの方がよっぽど気が利く。
「悪いな。1時間くらいで戻るから」
文句を言うシンカを引っ張って本屋に向かった。
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