第13話 忘れられた影

その日の夜、静謐な月明かりの下で、新田義貞は一人、考え込んでいた。彼の心の中には、未来への希望と共に、かつて愛した人への悲しみが渦巻いていた。則子(橋本環奈)との思い出が、彼の心を重くしている。


悲しい記憶がよみがえり、彼女の優しい笑顔が脳裏に浮かぶ。この世のものではなくなったなら、彼女もこの戦いに加わってくれただろうか。義貞は過去を振り返り、彼女を失った波乱の出来事を思い出した。


ある日、彼らが一緒に過ごした美しい春の日に、一緒に桜を見上げていると、則子の目に無邪気な光が宿っていた。「義貞様、私たちの未来も、こんな風に美しいものであったらいいですね」と呟いた。義貞は彼女の手を優しく握り、その思いを受け入れるかのように「必ず守る」と誓った。


だが、戦の爪痕が彼らの元にもじわじわと迫っていた。則子は義貞の出征を見送った後、不幸にも疫病に倒れ、彼の帰りを待たずしてこの世を去ってしまった。その時の無力感と悔しさは、今でも彼の心に暗い影を落としていた。


「私がもっと早く戻っていれば、則子を救えたかもしれない…」義貞は心の中で自分を責め続けた。彼女の死が、今も彼の心に深い傷を残していた。


空が明るくなると、義貞は決意を新たにした。「網の目のように複雑なこの時代を生き抜くためには、私は過去を乗り越えなければならない。則子のためにも、私たちのためにも。」


その夜の覚悟を、彼は梨花にも話すことにした。彼女は則子に似ている。彼女の姿が、一瞬彼の心を整理させる手助けをしてくれるからだ。


翌日、義貞は梨花を呼び出した。


「梨花さん、私には伝えなければならないことがある。私は、亡き則子のことを…未だに忘れられずにいる。だが、あなたの存在が私の心を少しずつ癒やしてくれるように感じている」と義貞は静かに語り始めた。


梨花は驚いた表情を浮かべた。彼女もまた、則子の存在が重くのしかかることを理解していた。それでも義貞がそうした思いを打ち明けてくれたことには感謝の気持ちがあった。「義貞様、私もあなたの心の重荷を少しでも軽くできたらと思います。私は過去を背負い、生きることができるだけでなく、あなたと共に新しい未来を切り開きたいのです」と彼女は微笑んだ。


二人の会話は、悲しみの影を照らす光のように思え、義貞はこれまで抱えていた痛みが少しずつ和らいでいくのを感じた。彼女の優しさが、彼の心の隙間を埋め始めていた。


「ここから始まる戦いが、そして私たちの未来が、則子と共に歩んできた道の延長であるといい」と義貞は心の底から思った。彼は梨花と共に、未来に目を向ける決意を固め、運命に立ち向かうことを誓った。


その後、彼らは新たな仲間たちと共に、元弘の乱へと突き進むこととなった。失った者たちへの思いを胸に、義貞は進み続けた。彼の心の中には、則子と梨花の存在が、彼を支える大きな力として息づいていた。

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