第131話 呼び鈴
次の日、カノンさんの考え方に触れて俺も少しだけまた変わった気がする。
外に出るだけでも大変なのに、カノンさんは人との繋がりを保とうと頑張っている。
もしその境遇に俺が立った場合、あそこまで強くなれるだろうか……。
やはり誰かと一緒に居られるというのは価値があるし、趣味とかはそれに付随するくらいで丁度良いんだろうなとも思えた。
「それで、神っちの家に行っていいか聞いてくれた?」
授業の合間にある休憩時間に昨日のことを樹里が俺の顔を覗き込んで尋ねてきた。
「ん? あぁ、23時までに帰るなら来てもいいみたいだぞ、その他にも俺以外の住人に不要な接触が無ければ問題は無いらしい」
「つまり友達として遊びに行くのはいいってコトね、じゃあ今日行くねん!」
へ? 今日? もう来るつもりなのか?
「ってことで、あーしは行くけど凛花はどーする?」
「行っていいならアタシも行きたいけど、本当に大丈夫なの?」
「いやまぁ、来るのは別に構わないんだけど、足はどうするつもりだ?」
行きは道上さんの運転で一緒に行くとしても、帰りはどうしようもないぞ?
男の俺が彼女たちを送るなんて出来るはずもないし……。寮は学校からだと結構離れてるし、最寄り駅まで歩くにも辛い距離だ。
「ならスミレンも呼ぶべ」
そんなモロに足になってくれみたいな事を言っても平気なんだろうか……。
「我が家は繁忙期ですが大丈夫でしょう、神埼様関連の事であれば緊急でなくとも家の車を呼ぶことも許して頂けてますし、それに夜であれば融通も利くはずです。もしも対応できる人間が誰もいなくてもタクシーを呼べば解決です」
と、いつの間にか呼び出されたすみれが何かのチケットを取り出して笑顔で言う。
まさかタクシーチケットみたいな物も持ってるのか?
「さっすが! 持つべきものはスミレンだぁ~ねぇ~」
「それは失礼が過ぎるだろ!」
俺と樹里がやり取りしてる横で、凛花さんとすみれが話あっていた。
「本当にいいの? アタシまだバイト代出てないから何も返せないんだけど……」
「えぇ、こうして行動して話をして貰えるだけでも大きいですし、なにより私たちは一蓮托生、もはや同盟を組んでいる盟主同士と言っても差し支えありませんので」
凛花さんが情報を流し、それにすみれが資金提供をする。
そう考えればまだなんとか健全のようにも思えるけど、その中心が俺なんよなぁ……。
前の俺ならそんな価値はないとか、「何を大げさな」と言っていたところだけど、すみれの伯母さんである桜子さんの話だと、俺の価値って俺が思っているよりもずっと高いらしいんだよな。
3人娘は楽しそうにキャイキャイと話し出したのを見て、俺もまぁいいかと思ってしまった。
こういうラブコメみたいなのって、女子同士でドロドロしてたり奪い合ったり威嚇しあったりってのが定番だけど……こうして仲良さそうにしてるなら良い事ではあるか。
俺もそんなのを目の前で見たくもないしな。
そういえばハーレム物の作品ってそこまでドロドロはしないか、その中心人物が俺になってるのには違和感が凄いけど。
「という訳なんですが、昨日の今日でアレなんですけど……寮まで送ってもらうことは出来ますか?」
俺はスマホで道上さんに一応確認を取ることにした。
『はい、今日でしたら私の方も後の予定が緩いので問題はありません。ですが毎度送るとなると出来かねる場面もあると思いますので、そこは了承してください』
「わかりました、ありがとうございます」
了承を貰えたなら特に支障は何も無い。
迎えに来てくれた道上さんの車に乗ってからの3人娘は大人しく会話も少ない、いつぞやのすみれの家の車での空騒ぎは嘘のようだ。
おそらく道上さんを怒らせたらもう車に乗れないと察したのか、それとも単純に迷惑はかけませんよという意思表示だったのか。
俺としては樹里まで大人しいのは以外だったが、そこは女性だからなのかしっかりと余所行きの顔を持っているようだ。いや……俺が思ったよりも大人だったと言うべきか。
特に何かあるわけでもなく寮に到着してから、道上さんは俺のほうを見て告げた。
「部屋の中に監視カメラはありませんが、廊下にはありますから気を付けて下さい」
「気をつけるって何がです?」
「………プライベートまでは何をしても口出しはしません、ですが色々見えてしまったら注意せざるをえませんからね。くれぐれも気をつけてください」
何を言いたいのか察した俺は、ひとつ頷いてその言葉の返答をした。
おそらく、俺の部屋で何をしても許されるんだろうな……、普通はこういう女性関係みたいなスキャンダルみたいなのはマネジメント上では避けるべきだと思われるけど、たぶんこの世界だと認められてるんだろう。
そう考えると、森山さんとかも同じことになっているんだろうか?
道上さんは言葉を濁していたけど、言うべき事は言ったと言わんばかりに俺たちが車から降りたら挨拶もそこそこにすぐに出てしまった。
余裕があるとは言ってくれたけど道上さんも色々多忙っぽいし、こうして毎回送迎してもらうのは迷惑かもしれないな。
いつも通りの寮の受付も、俺がカードを見せた上で客だと伝えれば何事も無く中に入れた。
受付のオバサンは少し驚いたような表情をしていたが、特に何か苦言のようなものもこぼす事は無く淡々と仕事をこなしてくれる。
買出しとかもやってくれているし、この受付の人達には本当に助けられている。
あとは特に変わったこともない、いつも通りエレベーターで俺の部屋がある5階へと向かい、いつも通りに部屋の中に入る。
ただ、今日は少しだけ賑やかだ。
「おっじゃましまーっす」
「あっ! 靴ぐらい揃えなさいよ!」
「お邪魔します、神崎様」
「どうぞ」
賑やかな3人を部屋へと入れた。
それぞれ違う反応を見せているのが少しばかり面白い。
「あーし、男の子の家に入るのはじめてなんだよね!」
「アタシだってそうよ、いいからちょっと落ち着きなさいって」
樹里はテーマパークに来た子供のようにソファーのクッション性を確かめたり、あちらこちらと部屋の間取りを確認している。
まぁ、別に見られて困るものもないし好きにさせて良いか。
「本来であれば、私が色々とくつろげる様に準備をするべきなんでしょうけど……」
「いいから、ここは俺の部屋なんだから気にせずすみれも座ってくれよ。色々飲み物はあるけど何が良い?」
「ありがとうございます、でしたらお茶を頂けますか?」
「あーしは甘いのだったらなんでもいーよ!」
縦横無尽に動き回る樹里を凛花さんがたしなめて、ようやっと落ち着いて三人はソファーに座ってくれた。
この部屋に用意されたソファーはL字型の大きなヤツで、4人で座ってもまだ少し余裕があるくらいだ。
「ありがとうございます」
すみれの元にはお茶を入れたコップを置き、凛花さんもお茶という事で同じくコップで渡す。
そして樹里のリクエストは。
「ねぇ、神っち? なんであーしだけペットボトルのままなん?」
「樹里はその方がいいだろ?」
樹里には良く知らないメーカーの炭酸飲料を渡した。
俺も同じものを飲んだことがあるけど、よくある甘い清涼飲料みたいなやつだ。
コップに入れなかったのは差別じゃなくて俺なりの配慮だ、コップに入れたら炭酸は抜けやすいし、俺個人としては気の抜けた炭酸飲料はあまり好きじゃないし、普段の様子からもおそらく樹里もそうだろうと踏んでいた。
「にしても、急に来たって特に何も準備してないから何もないぞ?」
ゲームでもするか?
でも対戦ゲームならいくつかあるけどなぁ……桃太郎〇鉄や、く〇お君みたいなゲームがあれば4人でも遊べるんだろうけど、あいにくそういうパーティーゲームはまだ入れていない。
ペットボトルからラッパ飲みをする樹里を横に、すみれと凛花さんは落ち着いた感じでお茶を飲んでいる。
この状況に気まずいって事も無いけど、手持ち無沙汰になっているのは間違いない。
それに同じことなら学校の食堂でも出来るし、そっちの方が色々と食べられるから有用まである。
わざわざ俺の部屋まで来てする事じゃない。
って事は、道上さんも言っていたしそういう事なんだろうな、と……。
よくよく観察してみると、すみれは余裕綽々と優雅にコップからお茶を飲んでいるが、凛花さんはどこかソワソワしている感じが滲み出ている。
樹里は変わらずキョロキョロしてるけど、この子はいつも通りだな、うん。
そういえば色々あったから、俺のほうもご無沙汰だったな。
正直余裕も無かったし、彼女だとか言いつつ蔑ろにしてしまった感は拭えないな……そういうのも含めて不満とかあれば発散させた方がいいのだろうかと考えていた時だ。
俺の部屋のインターホンが鳴った。
******************
ここまで読んでくださりありがとうございます!
楽しんでいただけたら幸いであります!!
励みになりますのでフォロー、応援、星、コメントなど気軽にお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます