博士のふしぎな発明集

卯月 幾哉

博士とリアルな猫型ロボット

 ある朝、助手がいつものように研究所に出勤すると、所長である自称天才科学者の博士が、興奮した様子で彼に話しかけてきた。


「助手よ、聞いてくれ。遂に私は猫型ロボットを発明した」


 助手は、それこそ猫のように跳び上がって驚いた。


「えぇーっ!! それって、大丈夫なんですか……? 版権とか」


 博士は不思議そうに首を傾げた。


「何を言っておるのかね。ほら、見たまえ。そこにいるのがそうだ」


 博士が指差した先では、デスクの上で茶トラの猫が大きく背伸びをしていた。助手は目を疑った。


「え! あれですか!? 本物の猫にしか見えませんよ」


 その猫は、毛並みといい、仕草といい、本物の猫そのものだった。

 博士は得意気に頷いた。


「そうだろう。体臭や温度まで本物の猫を忠実に再現したからな。それに、最新の人工知能を搭載しているから、本物の猫よりもずっと賢いぞ」

「すごいですね! でも、それだけ似ていると、本物と区別がつきにくそうですね」


 博士は落ち着き払った様子で、棚の上にあったキャットフードの袋を手に取った。


「まあ、見てなさい。エサを与えれば一目瞭然だ。ロボットの猫は食べないからな」


 と言って、博士がトレイにキャットフードを盛ると、その博士が言うところのロボット猫は、素早く駆け寄って来て、キャットフードをむさぼった。


「……食べてますね」


 博士はそれを見て初めて、慌てた様子を見せた。


「しまった! こっちは本物か。あれぇ? 私が作ったロボットはどこに行ったんだ? こうしちゃおれん。探しに行こう」


 こうと決めたら、すぐに行動する博士だった。真っ直ぐ研究所の入り口に向かいつつ、その様子を黙って見守っていた助手にも声を掛けた。


「君も来なさい。早く捕まえないと、騒ぎになるかもしれない」


 というわけで、助手も一緒に、行方不明の猫型ロボットを探しに行くことになった。

 博士と助手は、研究所の入り口のドアを開けて外に出た。すると、まるでその時を見図らっていたかのように、先ほどのトラ猫もするりとドアから外に出て、どこかに駆けて行ってしまった。


「あ、博士。さっきの猫も出て行っちゃいましたよ」

「放っておきなさい。そっちはただの猫だ」


 そのとき助手は気がついた。その猫が駆けて行った後に、点々と未消化のキャットフードが落ちていることに。


「は、博士!」

「なんだね、騒々しい。それどころじゃないんだぞ」


(了)

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