第2話 プロローグ:虫歯娘との追いかけっこ(2/4)
「あっ! パパぁああー!!」
銀色逃亡犯は、どうやら廊下の先に大好きなパパを見つけたようだ。
進行方向を見ると、背の高い、シンプルな灰色のスーツを身にまとった麗人がそこに居た。
近くに居ると緊張してしまうくらい美しい顔立ちに、銀髪に紫色の瞳をした三十二歳の美丈夫は、銀色逃亡犯の声を聞いて目を瞬いている。
そんな彼を見て、わたしは安堵のあまり頬を緩め、銀色逃亡犯は、すてててててと廊下を走り抜け、大好きなパパに飛びついた。
飛びつかれた彼は元々執務中の移動だったらしく、両手に書類を抱え、背後に家令を連れていた。
足元にしがみついた銀色逃亡犯に、ふわりと頬を綻ばせた後、持っていた書類を背後に居た家令に預け、軽々と彼女を抱き上げる。
もちろん、彼こそがこの領主邸の主人、リカルド=リキュール伯爵である。
「パパ!!!」
「リカルド!」
「どうしたリーディア、マリア。何かあったのか?」
「パパ、パパ! リーはね、ジュウヨウなお願いがあるの!」
「うん?」
「リーを永遠のねむりにつかせてほしいの!!!」
「ゲッホゴホゴホ」
「ゴホゴホゴホ」
「パパ、ママーッ!?」
無茶ぶりマックスな銀色逃亡犯のおねだりに、思わずリカルドはせき込んでいる。
わたしも巻き添えである。
一体何がどうなったらそうなるのかな!?
「パパ、ママ! 大丈夫!?」
「大丈夫。うん、大丈夫だリーディア。それで、どうしてそうなったんだ?」
「リーの心を守るために、何があっても目が覚めないねむりにつく必要があるの……!!」
「それはつまり死んでるんじゃないかしら!?」
「リーはくるしみをあじわわない存在になるの……」
「それ、一緒に本で読んだやつね!? 先週ね!」
「そ、そうかリーディア。リーディアは、壮大な覚悟を済ませたんだな」
「そうなの! リーはすごいの!」
「ただな、リーディア。その案は却下だ」
「きゃっ……?」
「その案はだめだ」
はうっ!?と衝撃を受けているリーディア。
だから、何故その案が受け入れられると思ったのかな!?
「パパは目を覚ましているリーディアと会いたいから、それはだめだ」
「!! パ、パパ……!」
「リーディアが起きてくれないと、パパは生きていけない。他の案で考えようか」
「わ、わかったの。パパのためなら、仕方がないの」
(上手い……上手いわリカルド、なんていうかこう、心に来るやり方だわ……)
最近気が付いたのだけれども、リカルドは人を誘導するのが上手い。
彼は気が付くと、相手が自発的に誘いに乗ってくれるような、そういう話の流れを作り上げている。
真面目で物静かな彼だから、その手腕は執務や子育てでしか発揮されていないけれども、彼が本気で女性をたぶらかしにかかったら、大変なことになっていた気がする。きっと愛人の数は、計り知れないことになっていただろう。妻の欲目ではなくて、本当に。
(秩序の保たれた、謎の大ハーレム……)とわたしが考え込んでいると、横に居たリカルドはそれとなく廊下を歩き出した。うんうん唸っているリーディアは、そのことを気に留めていない。
わたしは、なんとなくこれからの流れを察しつつ、一緒に歩きながら二人の様子を見守る。
「パパ。パパの魔法で、リーの虫歯は治せないの?」
意外に的を射た発想に、わたしはパッとリカルドの方を見る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます