第24話 研究施設にて

 【Cチーム】は組織が用意していた車から降り、現場へと足を進める。

 車はFBI top secret 002の霧雨きりさめが運転している。今日はギリギリ法定速度を守っていた。


「……ここか」


 見た目は至って普通の製薬会社だ。だが――。


RemembeЯリメンバーが関わってる……か」


 霧雨は呟く。

 警察系組織の人間として【RemembeЯの逮捕や粛清】は構わないが、【RemembeЯの目的の邪魔】に対しては正直あまり乗り気がしないのだ。殺死屋とΣの背景を知たからこそ、尚更だった。


「行くしかなくね?」

「色々思うところはあるけどね……」

「ぼく、がんばれるよ!!」


 【Cチーム】のメンバー――FBI top secret 001の十字石じゅうじせき、FBI top secret 003の黒曜石こくようせき(通称:黒磨こくま)、FBI top secret 007の斎槻いつきが、リーダーである霧雨に声をかけてくる。


 霧雨は微笑んで斎槻いつきの頭を撫で、行こうかと声をかけた。



 ---------------



 霧雨たち【Cチーム】はどこか近未来的な真っ白い建物の中を進んでいく。

 サクサク進んでいるのはセキュリティを難なく突破したわけではなく、そもそもRemembeЯによってセキュリティが壊されていたからだが。


 所々地面には血だまりができ、血痕が落ちている。絶命している人も居た。

 あまり子供にこんな光景は見せたくはないが、死んだ人を辿ったほうが本命に近付ける。霧雨は斎槻の様子に注意しつつ、進んでいくことにした。



 しばらく進んでいくと、足音が聞こえてくる。

 メンバーと目配せをし、いつでも対応できるよう得物を構えた。

 気配を探りながら進むと、こちらに背を向け歩いている奇妙な2人に出くわした。

 男性と女の子は top secret の足音を聞き、振り返る。


「――!!」


 霧雨は思わず目を見開いた。よく見知った姿にそっくりの男がいたからだ。


 霧雨の視線の先にはブラックスーツを着用した男――プラチナブロンドに緑の瞳を持つ、エリックさんにそっくりなアメリカ人が1人。


 そして、斎槻と同い年くらいの白いウサギのフードを被った女の子が居た。

 女の子は銀を思わせるような髪に赤い瞳をしている。

 彼女は濃紺を基調とした軍服のようなゴスロリを着用し、スカートの部分は膝上まである3段のフリルスカート。中央の段だけが青く、上下は白のフリルだった。足元は濃紺の編み上げブーツ。フードを結び留めるリボンだけが赤い。

 ICPO top secret 007の魔女まじょルナと並べたら見た目の雰囲気が合いそうだが、性格は正反対になりそうだった。


 RemembeЯ創始者のFredericフレデリックと、報告に上がっていなかった新参者らしきRISAリサがそこには居た。



「……なんだ、来たのか。君たちとは初対面だよな?――俺はFredericフレデリック。RemembeЯの創始者であり、君たちの上司であるFBIのエリックの双子の弟だ。」


 フレデリックは堂々とした振る舞いで top secret に挨拶をする。

 どうやらこちらを殺す気はないらしい。きっと、RemembeЯはエルダと同じように【Wählenヴェーレン Leuteロイテは基本的には殺さない】という活動スタンスなのだろう。


 霧雨は行動を躊躇する。


 こちらとしてもフレデリックの行いには(声を大きくしては言えないけど、個人的には)賛同できるし、むしろWählenヴェーレン Leuteロイテから見れば正義ヒーローであり救世主メシアでもある。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。……現時点では彼らはテロリストとして指名手配されているが。



「……パパ。行こ?」


 RISAはフレデリックを「パパ」と呼び、手を引っ張って施設の奥へと促す。まだ研究員たちに対する掃討戦が終わっていないのだろう。


 斎槻は同い年くらいの女の子の姿があることに驚く。一瞬目を見開き、話しかける。


「きみもお父さんときているの?」

「……パパときてる」


 斎槻の問いにRISAは返す。

 同じWählenヴェーレン Leuteロイテの子供同士、しかも親とこういった現場に来ている状況だ。

 境遇が似ており、仲良くなるのも自然なこと。そのうえ波長が合ったのだろう。その後もたわいもない子供らしい会話を、ほんわかした感じで言葉を交わし続けていた。



 だが、大人たちは違う。

 霧雨は小さい子供の前で親(Frederic)を傷付けるかどうするかを悩んでいた。

 普通の子供同士だったら是非仲良くさせたいが、相手は指名手配犯の娘。RemembeЯに関わっているとなれば粛清対象だ。即刻引き離すべきだし、さっさと殺しておくべきだろう。

 だが、これ以上斎槻の心を傷付けても良いのだろうか?


 きっと、十字石も黒磨も似たような心境だろう。そのうえ現場が研究施設だということもためらいを生じさせていた。



《娘……居たのか……。居る、のか……》


 エリックの呟きが通信機を通して霧雨たちの耳に入る。


 霧雨たちはエリーのことがあり指令室には通信を繋いでいなかったが、エリックさん個人には通信を繋げていた。

 通信を聞いていたエリックは、通信越しに「パパ呼び」を聞き、驚きつつ戦慄していた。



 ――まさか、双子の弟に先を越されているとは……。



 子供がいるなんて知らないぞ。

 待て。母親は誰なんだ……!?RemembeЯの構成員か!?僕は結婚式に呼ばれてないぞ!?出産祝いも送ってないし、音信不通だったし!?というか僕の立場で祝ってもいいものなのか!?……ん?弟が捕まったら娘はどうなるんだ……!?施設?養子??


 エリックの頭の中ではぐるぐると複雑な思いが駆け巡っていた。

 現在進行形で車を運転しているので、事故らない様に意識を保つので精いっぱいだった。



「……コイツ――RISAリサが勝手に呼んでいるだけだ。血は繋がってはいない」


 フレデリックは呟き、恐らく通信先のエリックが考えているであろうことを否定した。

 だが、RISAへと向けた瞳はどこまでも優しかった。

 フレデリックはRISAの頭をなでる。RISAは目を瞑り、嬉しそうに受け入れていた。

 2人は本当の親子のように見えた。



「……悪いけど、俺たちは君たちの粛清で来たんだよね」


 霧雨はフレデリックに対して発言する。なるべく子供たちには視線を向けない様にしていた。


「君が、その子の親なんだな」

「そうだけど、何か?」

「なら、分かるだろう。俺たちの目的が」


 フレデリックは言葉を切り、霧雨だけでなく十字石、黒磨を視界に捉えて話す。大人の話をする為に、ほのぼのとした会話を続ける子供たちからは視線を逸らしていた。


「今居るこの施設はWählenヴェーレン Leuteロイテの研究施設だ。そして、モルモットになっているのは君たちと同じWählenヴェーレン Leuteロイテ。……それでもまだ、研究員を殺すなと言うのか?」

「それ……は……」

「うちのエルダ始めとした構成員メンバーは殆ど全てが人体実験による被害者だ。親に売られたり、拉致されて、非人道的な扱いを受けていた」

「……」


 霧雨は何も言えない。十字石も黒磨も同様だった。


「少しお喋りをしようじゃないか。その方が君たちにとっても有益だろう。――いわゆる【裏】の情報交換だ。ああ、通信機は切ってくれよな?」


 フレデリックはニヤリと笑った。



 ---------------



「まだ着かないのか……」


 ICPO top secret 002の紅忍くれないしのぶが呟く。


 忍たち【Bチーム】は渋滞にはまっていた。

 乗っている車はICPOの緊急車両。サイレンも鳴らしているのだが道路の混雑が酷く、なかなかうまく進めずにいた。


 車内ではイライラが募る。


「すみません。無理です」


 運転手のエリックはもどかしい気持ちだった。通信が切られたので、現場の状況がわからないのだ。

 しかも安井やすい司令が把握できた人数より、現場に居るRemembeЯは多いはず。部下の命がかかってるのもあり、急いでいるがなかなか前に出れない。下手したら事故って大幅なタイムロスになるときた。


「……走る?」

「ギリやれないことはないが、RemembeЯとの戦闘を考えたら無謀だろ。ここからどんだけ距離あると思ってんだ」

「無理。戦う前に俺が死ぬ……」


 ICPO top secret 003のDr.殺死屋ドクターころしやの言葉に忍がツッコミ、FBI top secret 005の鬼火おにびが音を上げた。


「フレデリックは情報交換と言ってましたし、すぐには殺す気はないはずです。……諦めましょう。そして、無事を祈りましょう」


 ICPO top secret 009のΣシグマの意見でこの場は収められた。



 ---------------



 一方その頃。

 研究施設内ではRemembeЯによる一方的な殺戮が繰り広げられていた。


「きゃははははは!!ぬるいぬるーい!!」


 狂ったように笑いながら、研究員を銃剣で切り裂いていくリゼット。


「大人しく灰になりましょう」


 口から炎を吐き、研究員を燃やしていく、スーツにサングラスをかけた、オールバックの大男。


「ふふ……。自分がしたことが返ってきてるんだから、受け入れなきゃね?」


 美しく微笑みながら、ナイフ投げたり振るうレヴィ。


「邪魔。クズが」


 容赦の無い冷酷な表情で、瞳に一筋の光を宿し双剣を振るうエルダ。



 逃げ惑い、最終的にこの部屋に追い込まれた研究員たちが生き残る可能性は――絶望的だった。

 絶叫し、1人、また1人といとも簡単に死んでいく。

 刺されて絶命できたら幸せだろう。生きたまま燃え、苦しみながら死ぬ者も居た。



「この部屋は終わったな」


 エルダは室内を見回し、仲間に告げた。


「じゃ、最後の扉じゃーん?」

「よし、開けるか」


 室内を【綺麗に】し終えて、エルダたちは最後の部屋に繋がる扉を開く。ここには被検体が捕らえられているはずだ。

 生きているなら救い、選択肢を与える。帰宅するのが願いなら治療して返す。RemembeЯに同行するなら連れて行く。

 ……被検体になっている人間がWählenヴェーレン Leuteロイテである以上、帰宅させないほうが良いとわかり切ってはいる。だが、願いは人それぞれだ。RemembeЯに同行しても追われるだけなので、本人の選択を重視する。



「――は?」



 目の前に広がっていたのは惨状だった。


 人工的にWählenヴェーレン Leuteロイテを作るなら、解析したほうが早い。

 ……きっと、新たな薬の研究の為にこうなったのだろう。

 無数のコードに繋がれ、ボロボロにされた……もはや人とは言えない、そんな【モノ】がそこに居た。



 ---------------



 霧雨たちが話していると、複数の足音が聞こえてくる。

 現れたのはエルダ、レヴィ、リゼットの3名だった。


「終わったのか」

「ああ」


 フレデリックの問いに、暗い顔をしたエルダが返す。


被検体被害者は?」

「――殺した。……もう殺してくれと、頼まれたから……」

「そうか……」


 フレデリックは瞳を伏せる。


「……フェルドは?」

「看取った後、燃やすってさ。……せめてもの慈悲だとよ」


 エルダはやれやれ、といった感じに首を振る。だが、その瞳は被検体の死を悼んでいた。

 フレデリックは【Cチーム】に振り返り、堂々と言葉を紡ぐ。


「じゃ、俺らは帰る。兄さんによろしく」


 Fredericフレデリックの問答は、施設内を【綺麗に】する時間稼ぎのためだった。


「……終わったから帰るって、本気?」

「ああ」


 霧雨の問いに、フレデリックは堂々と返す。だから何だ、と言わんばかりの態度だ。


「……でもね、君達には粛清要請が降りているんだ」


 霧雨は再度武器を構える。

 戦闘態勢だ。他の【Cチーム】の面々も同じように武器を構えた。


「ヒステリーなゴミ上司だけじゃなく、エリックさんも居るし。……建前は通させてもらうよ」

「まぁ、そうなるだろうな――来い。相手してやる」


 霧雨の発言に、フレデリックは余裕の表情で返した。


「――だったら、私の出番じゃん?スタンガンの恨みもあるしぃ?」


 リゼットは黒磨こくまを視界にとらえ、瞳に殺意を宿らせた。

 前に出てきたリゼットに、黒磨の瞳が恨みで暗く染まる。――どうやら、お互い様のようだ。


「へぇ?君のお相手ができるとは光栄だよ。――戦闘時に撃たれかけた以外に、親友を殺されかけた恨みもあるしね」


 黒磨は殺意をたぎらせた。


「え?親友??……それは知らないじゃん?」


 リゼットは黒磨の言葉に唖然とする。最後には心当たりが無い。


「え。……いつ?」

「湾岸倉庫。……警察殺したでしょ」


 訳がわからないと言わんばかりのリゼットの問いに、黒磨は静かに返す。


「――ああ、あの、日本警察としてRemembeЯに対する大々的な攻撃がしたいから、無理やりにでも被害者出して弔い合戦に持ち込もうとしていた、あの一件!?」


 リゼットは声を裏返らせて叫ぶ。まさかの恨まれ方で半ば混乱していた。


「ちょっ、いや、逆恨みもいいとこじゃん!?普通に警察恨んで欲しいじゃん!?むしろ日本の警察上層部を殺しに行って欲しいじゃん!?――本当に本当に、恨みの矛先、こっちじゃないじゃん!?」


 リゼットは猛抗議した。

 恨みの矛先、お門違いだった。


「あら、それなら私もお相手したいわ。……邪魔だったのよ、帰宅に。その分の恨みも込めて――ねぇ、リゼット?」

「当たり前じゃーん、レヴィ姉!!」

「……お前ら……。シャンプー買いに行っただけのはずなのに、本当、何やってんだよ……」


 フレデリックは項垂れた。

 どうやら当日、戦う気はさらさらなかったようだ。だが、追いかけ回されたか何かで潜伏したら、更に警察が集まってきて包囲された感じなのだろう。

 彼らにとっては単なる不運だったらしい。



「……世界的に指名手配されてるからだろ……」


 十字石はドストレートな正論を叩きこんだ。――が。


「あら、嫌だわ。悪いのは世界なのに」

「――!!!?」


 十字石は咄嗟に飛び退き、腰の後ろに隠していたナイフで応戦する。

 レヴィが距離を詰め、持っていたナイフで殺しにかかってきたのだ。



「十字石!?――っ!!!」


 一瞬、黒磨が十字石の様子に気を取られたが、すぐに己の右側に得物を叩きこむ。


「うわ、前より反応早くなってる。……萎えるじゃん……!」

「そりゃ、どう、も!!!」


 右側から迫ってきていたのはリゼット。スナイパーライフルに剣を装着した、銃剣での戦闘だ。

 黒磨は得物の棒で猛攻をいなす。



 ――忍と殺死屋と訓練していて良かった。ギリついていける!!



 黒磨は訓練の成果を確信していた。



「ほら、相手してやるよ。……来い」


 十字石対レヴィ、黒磨対リゼットが霧雨と斎槻の横で繰り広げられる。

 そんな中、エルダはまるで訓練の相手をするかのように、自然体で話しかけてきた。


 霧雨は得物の針をナイフに持ち替え、構える手に力を籠める。忍たちの応援が来るまで、せめて息子だけは絶対に守り切り抜きたい。

 だが、少々違う方向に話が動く。


「――いや、俺が行こう。今の自分がどれほど強くなったか、試してみたい――RISA!」

「……2対2……。条件はぴったり、だね」


 エルダを押しのけ、フレデリックとRISAが前に出る。


「わかった。じゃ、俺はフェルドのとこに行ってくるわ」

「ああ。任せた」


 エルダが立ち去る。


「さぁ、始めようか」


 フレデリックが声をかけ、武器を構える。

 Wählenヴェーレン Leuteロイテではないフレデリックと、Wählenヴェーレン Leuteロイテで強化薬の元被検体であるRISA対Wählenヴェーレン Leuteロイテ親子のドリームマッチが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る