第11話 チーム結成

時刻は15時になった。

早朝から大量粛清ダンスホール、昼にはRemembeЯリメンバーの訪問とエリックさんの拘束というイベントが目白押しだったが、そろそろチームを決めなければならない。

安井司令に3日以内と言われていたが、今日がその最終日――3日目なのだ。


誰に言われることもなくそう思った top secret は、自然とラウンジに集結していた。

ただFBI top secret 007の斎槻いつきは、精神ダメージが大きかったのかまだ出て来れてはいなかった。


ICPO top secret 009のΣシグマ――神崎叶奈かんざきかなもラウンジに居る一人だった。



---------------



遡ること数分前。

突然Σの仮眠室のドアがノックされた。


「……起きてる?話があるんだけど。」


声の主はICPO top secret 003のDr.殺死屋ドクターころしやだった。


「――あ、はい。」


ドアを開けると、隣には師匠であるICPO top secret 002の紅忍くれないしのぶとFBI top secret 005の鬼火おにびも居た。


「チームのお誘いに来たよ。……入るね。」

「お疲れ様。あー……立ち話も何だし、入るな。」

「お疲れ様でーす!」


殺死屋、忍、鬼火の3名が口々に挨拶し、部屋に入ってくる。


「あ、はい。どうぞ……。」


Σは不思議に思いつつも部屋に通すことになった。


「……そういえば、今日が期限でしたね。」

「そうだよ。だから、誘いに来たんだよ。……この4人で良いよね?」


Σの発言に殺死屋が返答する。

本当に誘いに来たようだ。


「鬼火と殺死屋が近距離フロント、俺が近距離兼中距離、Σがアシスト兼中距離ならバランスもとれる。……ルナとは組むことは出来ないが、良いか?」


忍はΣに確認した。


ICPO top secret 007の魔女まじょルナ、Σ、FBI top secret 007の斎槻いつきの3名は実戦での粛清経験がない。

戦闘も女性陣は体力面で、斎槻いつきはそもそも経験不足という怪しい点があるため、戦力として数えるわけにはいかなかった。

そのため保護者といえるICPO top secret 001の黒真珠くろしんじゅしのぶ、FBI top secret 002の霧雨きりさめの3名と組みつつ、戦える2名の仲間を探すことに決めていた。


また、このペア同士でのチームは組むことを辞めた。有事の際に戦えるのが、たった2名になるためだ。

悪い言い方をするならば、お荷物2名を守りながらRemembeЯリメンバーの猛攻から撤退できるわけがない、即死するだろという感じだ。


本来なら忍は入隊時期が同じで信頼できる黒真珠と組みたかったが、諦めざるをえなかった。


「師匠、ありがとうございます。皆さん、どうぞ宜しくお願いします。」


Σもこの現状は容易に想像がついていた。

なので、これからチームを組むメンバーに対して頭を下げた。


「OK!これからよろしくな!Σ!」

「よろしく。……君と組めて嬉しいよ。」

「よし、決まりだな。」


頭を下げたΣに、他の3人がそれぞれ反応を返した。

すると、鬼火が急に話題を振る。


「なーなー。忍ー。……で、いつから付き合ってんの??」

「――は?」


忍は全くもって意味が解らないというような顔をしていた。

その様子を見て鬼火が驚く。


「……え?いや、だって!!弟子だろ!?いつも一緒に居るんだろ!?普通に考えて恋――」

「そんなの1ミリも無いから安心してくれ。」


鬼火の発言に忍がきっぱりと切り捨てる。

家族ぐるみの付き合いはあるが、本当にただの師匠と弟子なのだ。


「……家族みたいな感じだ。最初にし。」

「え、拾った!?」

「……な。」


忍はΣの当時の状況には触れず、事実だけ伝えて話題を逸らした。


ちなみに、鬼火も忍が拾っている。任務の帰りがけに倒れていたのだ。

治療をして元気になった後はお互いに現場が近くなったり重なった時は話したり、軽く手合わせしたりしていた。

時々アメリカ大使館に忍び込み、当時所属していたFBI top secretメンバーと一緒に秘密でトレーニングしたり、エリックさんにバレたときに捕縛するより先に「Japanese NINJYA!?」と興奮されたりと色々あった。

交流が途切れたのは鬼火たちがアメリカへ引き揚げてからだ。



「……忍ってさ、人間拾う趣味あんの??……正直助かったけど。」

「鬼火の場合は、任務の帰りがけに倒れていたからだろうが……。」


話を聞いてΣは驚いた。

忍と鬼火は過去に接点があったらしい。そして、その時に助けていたらしい。師匠、ぶれねぇ……。



「……人間って、拾うものだっけ……??そんなに倒れてることって、ある??」

「……普通は違うかと。師匠の趣味みたいなものですね。……多分。私は救われましたが。」


軽く引きながら呟く殺死屋に、Σは返答した。


殺死屋がΣの過去に突っ込まないということは……恐らく師匠との何らかの話し合いが終わっているのだろう。

Σは自分の事なのに、自分が蚊帳の外のようで寂しく感じた。

聞いてもはぐらかされそうである。……いつか聞ける日は来るのだろうか。



「え、じゃあ、ルナと黒真珠は!?いつも一緒に居るけど。」

「あの2人は兄妹だよ。」

「――え!?カップルじゃない!?マジで!?粛清までさせてなかったのに!?」

「……黒真珠自身に負い目があったから、粛清を肩代わりしていただけだ。これ以上は話さないが……聞きたきゃ自分で聞きに行け。」

「難易度高すぎ!!……まぁ、知らなくていいんだろうけど……。」


鬼火は引き下がることにしたらしい。これ以上何も言わなかった。

話は終わったようだ。



「じゃぁ、行こうか。ラウンジへ。」


殺死屋の提案にメンバーは頷き、部屋を出る。


「おう!これからよろしくな!!殺死屋!」

「なれなれしくしないで。――殺すよ?」


廊下で楽しそうに笑いながら殺死屋に絡んだ鬼火は、殺死屋に殺気をあてられるはめになった。

鬼火は邪険にするわけでもなく、笑いながら物理的に少し距離を取った。



忍はその様子を眺めながら思案する。


当初、殺死屋はICPO top secret 004のDr.殺人鬼ドクターさつじんきと共に黒真珠のチームで引き取る予定だった。

だが、顔が似ている2人は折り合いが悪い――というより殺死屋があの態度だからいつも喧嘩に発展するというのが正しい。

殺人鬼は殺人鬼で、なぜか殺死屋に積極的に絡みに行くから手に負えなかった。

殺死屋は常にあの態度なので、どのチームでも生きてはいけないだろう。

それでも黒真珠が居れば何とかなるし、双方の実力も申し分ないため、まとめて引き抜こうとしていたのだ。


だが、Σと殺死屋の一件があり、話せる範囲で事情を聴いたところ、Σと殺死屋を離さないほうが良いと考え、黒真珠に殺死屋をもらえないかと直談判しに行った。

その結果が今のチームだ。

バランス的にも問題ないだろう。

これで良かったのだと、忍は思うことにした。――たとえ、この後何が起ころうとも。



---------------



時は戻り、ラウンジではチーム編成の話し合いの最終段階が繰り広げられていた。


忍は【Bチーム】のリーダーになるので、入り口で別れて司令室に居る安井やすい司令に報告に行った。

鬼火はラウンジに入ると、FBI メンバーに積極的に絡みに行く。

ターゲットになったのはFBI top secret 006の朝吹あさぶきだった。


「おっすー!そっちはどんな感じ??」


鬼火は後ろから飛びつく。朝吹は受け入れつつも鬼火の頭を叩いた。

鬼火の人懐っこさというか、スキンシップはいつものことだと流しているようだ。


「もう決まるとこだよ。……鬼火は忍と組むんだろ?どーせ。」

「そうだよーん!忍と殺死屋とΣのチームでっす!」

「他は?」

「【Aチーム】は黒真珠がリーダーで、ルナと殺人鬼と人斬ひときざむらいが組むのは知ってる。」


鬼火の回答に、朝吹の近くに居た3人が団結する。


「――てことはやっぱり余りものチームになりそうだな。」

「よろしく。」

「よろしくね~☆」


声の主はFBI top secret 004の一縷いちる、ICPO top secret 006の人喰いカニバリズム、ICPO top secret 008の死神ネルガルだ。


FBI top secret 002の霧雨きりさめがリーダーを務める【Cチーム】は定員オーバーになるとわかっていたのだろう。あそこは斎槻いつきと、FBI top secret 001の十字石じゅうじせき、FBI top secret 002の黒曜石こくようせき黒磨こくま)で組むから。


だが、朝吹たちのチームは決してバランスが悪いとは思わなかった。

近接戦闘が多いが、中距離にも対応可能な奴が多い。

しかも、人喰いカニバリズムの得物は自作の爆弾(花火)だ。

基本脳筋な奴ばかりが集まっていることもあり、有事の際は力技でごり押しパワープレーがしやすいだろう。なかなか意思疎通が楽そうなチームだった。



「リーダーどうする?」

「一番年齢が上そうなネルガルでよくね?」


朝吹の問いに、人喰いカニバリズムが答える。

その答えを受けてネルガルは驚いた。


「え、俺??……マジ??」


戸惑うネルガルに他のメンバーはあっさり告げた。


「それでいいだろ。」

「よろしく。」

「よろしく。」

「えええー……。わかったよ。報告行ってくるー……。」


ネルガルは報告しに指令室へと赴いた。


これで全てのチームが決まったのだった。



---------------



チーム結成報告後、何となくラウンジに集まっていた面々は解散することになった。

ぶっちゃけ、もうやることがないのだ。


各自着替えに仮眠室へと入って行く。



「結成記念にどっか食べに――あ、斎槻いつきがダメか。」

「いや、さっき見たら斎槻いつきが少し落ち着いていたんだ。だから、気分転換に聞いてみるよ。外に連れて行ったほうが良い時もあるからね……。」

「そっか。負担にならないならみんなで行こうか。」


霧雨が率いる【Cチーム】はそんなことを話しながら、ラウンジを後にした。


「あー。確かに、何か食べに行くのもいいかもな。」

「すみません。今日はバイトが……。月末までは許してもらっていますので。」

「あ、そっか。……いてら。」


忍の提案をΣが断り、【Bチーム】のご飯会はなしになった。

他のチームも似たような感じで、ご飯会をするのは霧雨のチームだけのようだった。



---------------



エリックは自宅(社宅)で荷物をまとめていた。

必要なものだけを次々と段ボールに入れ、ガムテープで口を閉じる。

要らないものはゴミに、持って行けないものは別の段ボールへと詰めて色違いのマーカーで印をつけておく。



ダンスホールからの解放後、上司との話し合いで top secret が使っている仮眠室で暮らすことが決定したのだ。

命が助かっただけ御の字だろう。

また、殺死屋が殴っていたのも功を奏したらしい。痛みに耐えた甲斐があったようだ。


本部は今後のRemembeЯリメンバーの捜査ということで、殺死屋が頼んできた関係資料を漁っている頃だろう。

きっと、何か手がかりが見つかるはずだ。必ず見つけて捕まえる。



エリックは段ボールを閉じ、ガムテープで封をする。

手を動かしながら、思考を続ける。



今日中に社宅から出て行かなければならない。

持って行けないものは売るか、借りたレンタル倉庫に置きに行く。

今日1日でやりきることが条件だったので、手を動かし続ける。


エリックは、今はただ生き残ることを考えていた。――FBI top secret の自由のために。



top secret ――Wählenヴェーレン Leuteロイテに対する扱いはいまだに厳しい。

偽善でもいい。エリックはせめて手が届く範囲でも救いたかった。


そのため上司と掛け合い、人間らしい生活を送れるよう整えたのだ。

その甲斐あってか top secret に信用してもらえて今の関係性がある。


最初は酷かった。

そもそもが拉致だったこともあって、組織ごと top secret に目の敵にされていた。

彼らを保護しようと頑張っていたエリックですら top secret に毒を盛られたり、暗殺されかけたりと……かなり色々あった。


初期の十字石、霧雨、黒曜石の3人は従順に従うふりをしつつ、得た知識で関係者を全力で殺しにかかってきていたのだ。……自由になるために。

特に霧雨の得物は針と毒。相当苦しめられた。

エリックは一時期は人間不信にもなったし、冗談抜きに寝れなかった。いつ殺されるかわからない恐怖で。


もちろん既に和解しているし、人間らしい生活を送れるよう整えることで暗殺や逃走を防ぐことができた。任務にもちゃんとあたってもらえている。

こういった経緯があり、FBIはエリックを殺すのに難色を示していたのだった。



ただ、個人的に1つ問題があった。

霧雨が淹れたコーヒーはいまだに飲むのが怖いのだ。

もう毒は盛ってこないが、エリックが【何かした】ときは、今でも死なない程度に【何か】を混ぜてくる。

ちなみに、最近は大量に塩が入っていた。最近はからしではなく塩を入れることにしたらしい。

正解を当てるまで強制的に飲ませられるのは恐怖でしかなかった。……霧雨だけは怒らせてはならない。



エリックは当時の情景を思い出し、身震いする。

今は作業に集中しよう。今日中に荷物をまとめて、レンタル倉庫に置きに行かなければならないのだから。


エリックはため息をつき、段ボールを組み立てて荷造りを再開するのだった。



---------------



鬼火は更衣後、街をぶらついていた。

真っすぐ家に帰る気になれなかったのだ。


飲み物を買ってぼーっとしていると、スマートフォンが鳴る。

兄からだった。

すぐに電話に出る。


「――もしもし?兄ちゃん??」

勇希ゆうき、まだ晩ご飯食べてないよな?》

「え?あ、うん。食べてねーよ。」

《良かった。会社にそこそこ仲がいいヤツがいるんだけど、そいつとご飯行こうと思っていて。話してたらそいつにも弟がいるみたいなんだ。良かったら、この4人でラーメンでも食べに行かね?》

「んえ、別にいいけど……。場所は??」

《18時にXXラーメンで。》

「了解。」


即座に通話が切れる。

鬼火――勇希ゆうきはスマートフォンを通学用のリュックにしまった。ちなみに、現在の恰好は高校の制服(ブレザータイプ)だ。



――兄ちゃん、確か今ものすごく仕事が忙しかったはず。



そんな中でも家族との時間を取ろうとしてくれるのには感謝しかなかった。

……体を壊さないか心配だが。


勇希には両親が居ない。

幼いころに亡くなっているため、兄が親代わりでもあった。



――兄ちゃん、抱え込む癖があるからな。無理してなきゃいいけど。



息を吐き、時計を見る。


「――っと。そろそろ行かないと間に合わねぇかも。急ご。」


勇希はラーメン屋の方に歩き出した。



---------------



ラーメン屋に着くと、店の前に兄と見知らぬ成人男性、学ランを着た男子が居た。

もう来ていたようだ。


「兄貴、お待たせ――!?」


だが、勇希はそれ以上言えない事態になってしまう。


「お、来たな。」

「初めまして。」

「――!?」


待って待って!?どういう偶然だよ!?


「勇希、こいつが成宮。」

成宮慎斗なりみやまことっす。」

「……成宮慎士なりみやしんじです。」


「慎士。さっきも言った通り、こいつがザキミヤさん。」

「宮崎だっつの。んで、こっちが弟の――」

「……宮崎勇希みやざきゆうきです。」


目の前に居たのは、スーツを着た男性と――学ラン姿の朝吹だった。


微妙な空気感の、ちょっとした沈黙が訪れる。


「……??勇希?どうした?」

「慎士?……知り合いか??」


気まずい空気でいると、突然慎士――朝吹に握手の要領で手を掴まれる。



――なぜ……って!!痛ぇ!!!力強っ!!!?



手を何とか振りほどき、逆の手で手を庇う。

握力が強すぎて涙目だ。


「ふっ……勝った。数時間ぶりだな?。」

「……その制服は第二中のだろ??俺のほうが年上だぜ??てか、素はそんなキャラだったのかよ……。」


兄同士は不思議な顔をしつつ、お互いを見やった。


「……えーと、知り合い……なのか??」

「険悪なのか??喧嘩……すんなよ???」

「むしろ仲いい。兄貴、気にすんな。」

「あー、兄ちゃん大丈夫。……ちょっとした絡みイタズラみたいなものだと思うから……。」

「えーっと……仲いい??なら、いいか。……うん。」

「腹減ったんでさっさと入りましょう。」


弟同士の関係性に戸惑う宮崎兄を置いて、成宮兄はさっさと店内に入った。


「ちょっ……相変わらず興味失せるの早えぇよ!!――ああ、もう、2人共行くぞ!!」


残された3人は、成宮兄の後を追った。



---------------



ラーメン屋に入店すると「いらっしゃいませー」とどこからともなく声がかかる。

小走りでやってきた店員を見て、宮崎は固まった。


「いらっしゃいませ!4名様でしょうか。」


現れたのは、Caféカフェ de Aliceアリスの事件の時に居た、あの店員――神崎叶奈かんざきかなだった。叶奈は絶賛アルバイト中だった。


宮崎兄と叶奈の間で微妙な空気が流れる。


「……あ。行方不明になって戻ってきた子。」


成宮兄も気付いたのか、ぼそっと呟いた。


対して弟同士は?を浮かべていた。

兄の仕事関係での繋がりなのだろう。弟たちには関係なかった。



「……4名様、ご案内ー!」


叶奈は気を取り直してお仕事アルバイトに励むことにした。

1つだけ空いていたボックス席に案内し、立ち去る。


だが、そのボックス席の通路を挟んだ真横にはとある4人組が居た。


「美味しーねー。」

「やっぱ、ラーメン良いよなー。」

「ともくん、食べれそう??」

「うん!食べれる!!おいしいよ!!」


勇希と慎士は驚いた。

なんと、霧雨たちが居たのだ。

2人はプライベートを邪魔しないよう、気配を押さえて他人のふりをすることにした。


だが、宮崎兄はあれ?というような顔で、通路を挟んだ真横のボックス席に座る男性の顔を見つめる。

視線を感じたのか、黒磨が宮崎に視線を向け、目を見開いて一瞬固まる。


「――まさか……黒瀬くろせ……??」

「――え……宮崎……??」


まさかの知り合いだった。

そして、他の3人もこっちを向いて一瞬固まる。あ、バレた。


「え、中学以来じゃん!!元気にしてたか!?卒業後はアメリカ行ってたみたいだけど。」

「そっちこそ!元気そうで何よりだよ。その……色々大変なの、知っていたからさ。」

「まぁな……。あ。ちなみにこっちが弟の勇希な。今高校生。」

「あ、黒瀬です。……はじめまして。」

「あ、宮崎勇希です。兄がお世話になっています。……はじめまして。」


突然、同窓会が始まった。

黒瀬(黒磨こくま)と勇希(鬼火)は取ってつけたような「はじめまして」での挨拶となった。


対して他の3名は視線で「あっちに居るの、鬼火と朝吹じゃね?」「本当だ。偶然が凄すぎる。」と語っているようだった。



「え!みなさん、お知り合いだったんですか……!」

「うん、そうみたい。」



ちょうど水を宮崎達にサーブしていた叶奈がその会話に驚いた。

霧雨――清水しみず父は叶奈の言葉にごく自然に返答した。


だが、他のメンバーは違った。


「うわっ!?」

「……いつの間に……。」


宮崎兄と成宮兄が驚く。


「あ、すみません。私、常に気配が薄いんですよ。気にしないでください!」

「そ、そうなのか……?いや、マジでビビった……。」


さらっと謝罪する叶奈に、宮崎兄はビビっていた。


叶奈かなのお姉ちゃん、制服にあってるね。かっこいい!」

「ともくん、ありがとー!」


叶奈はともえ――斎槻いつきに微笑み、宮崎達に向き直る。


「注文が決まっていましたら、お伺いします。」

「あ、じゃあ、大盛りチャーシュー麺と餃子とライス……慎士は??」

「――え、あ、兄貴と同じので。」

「あ、俺は野菜盛り麺と味玉。餃子も。――勇希は?」

「……俺も、兄ちゃんと同じもので。」

「……?」


兄たちは弟たちが微妙な反応をしているのを不思議に思った。

叶奈はそんな空気を無視して注文を復唱する。


「注文は餃子4つ、ライス大盛り2つ、チャーシュー麺2つ、野菜盛り麺2つ、味玉2つですね。――では、失礼します。」


叶奈が立ち去り、慎士は勇希に声を潜めて話し出す。


「――なぁ、。」

「……今、その名前で――」

「あの店員、気付けたか?」

「――いや、無理だった。……十字兄じゅうじにい黒磨兄こくまにいも同じみたいだな。顔色が悪い。」

霧兄きりにい斎槻いつきにゃんは気付かない……か。親しいから疑ってすらいない感じか?」


鬼火は7年、朝吹は5年の間 top secretこの仕事 をしている。

それなのに、一般人のはずの女が近くに居たことに気付けなかった。


「あの店員――何者だ?」


背筋が凍るほど、とても不気味だった。

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