It's top secret!
八嶋 黎
第1話 遭遇
現在、
その原因は、目の前に居る外国人の男。
その男に銃を向けられ、発砲された。
弾は後ろの柱に命中したが、銃口は
現在、カフェでのアルバイト中なんだけど。
入店した外国人の男に対して「いらっしゃいませ!
――拝啓 お父様、お母様。
今まで育てていただきありがとうございます。
親不孝者で申し訳ございません。
あと師匠…これ、ちょっと生き延びるのは無理かもしれません。
悲鳴が上がる店内で、
-------
話は遡ること3時間前。
都心部から少し離れた山中。
とある木の上に1組の男女がいた。
傍から見る人がいれば、山に登れそうな格好の男と、明らかに学校帰りの女の組み合わせで、違和感が酷いと思うだろう。
男の方は17、8歳くらいだろうか。
迷彩柄の動きやすそうなズボンを履き、白の長袖の上に黒色のパーカーを着ていた。
足元は黒のトレッキングシューズで、モスグリーンのリュックを近くの枝にひっかけている。
くくれる程度に少し長めの金髪を、後ろで一つにまとめている。
女の方は制服姿。男と同じくらいの年齢に見える。
白の長袖ブラウスに、リボンは暗めの赤チェック柄。
暗めの緑色のブレザーの内側にベージュのベストを着て、リボンと同じ色柄のプリーツスカート。スカートの中にはジャージを履いている。
足元はこげ茶色のローファーで、紺色のスクールバッグを男と同じように近くの枝にひっかけていた。
髪は前髪ぱっつんの肩にギリギリかからないくらいのボブヘアー。
ベージュのような薄めの赤茶色だろうか。何とも言えない不思議な、特徴的な髪色をしている。
そんな二人はあーでもない、こーでもないと言い合っていた。
手元を見ると、両者ともに濃い目のグレーの手袋をはめ、手元の糸を繰っている。
「おし。じゃぁもう一度やってみろ。」
男の声に従い、女は手元の半透明の糸を繰る。
ザンッ!!
――…ゴトト…
糸に繋がっていた木の枝が見事に切り落とされ、地面に落下し、音を立てた。
「出来た!!」
「うん。上手く切れてる。よし、じゃぁ今日はここまで!」
「はい!ありがとうございます、師匠!!」
師匠と呼ばれた男は笑い、自分の使っていた糸を回収する。
女も師匠に倣い、糸を専用のポーチにしまった後、手袋を外してポーチの外ポケットにしまう。
半透明の特殊な糸は切れ味が鋭く、素手で触ったら危険なため、しまうポーチは手袋との収納場所を分けているのだ。不注意で怪我はしたくない。
ちなみにこのポーチと手袋は防刃素材で出来ているため、糸に触れても安心だ。
片付けをしていると、男が話しかけてくる。
「もうここまで来たら、糸について教えることは無いな。」
「やったぁ!ありがとうございます!」
「この後バイトだろ?最近は物騒だから気を付けろよ。あと、バイト先に着いたら連絡入れてくれ。」
師匠はとても過保護な人である。
「いや、バイト行くだけですし。女子向けの可愛いカフェだから大丈夫ですよ。」
またいつものか、と思いながら言葉を返す。が、師匠は慌てて言葉を付け加えてきた。
「いや、危険は常に身近にある。ストーカーとか刃物振り回してしてくる人とかに出会う可能性だってあるし…それに昨日の深夜!【留置されていたアメリカ人のシリアルキラーが脱獄した】ってニュースになっていただろ?」
「…あ。」
そういえば昨日そんなことがニュースの速報で流れていたような。
今日は朝から街中で、やけにパトカーや白バイ、警察官を見かけたことを思い出す。
「…そんなばったり出会うことはないと思いますが…」
「何があるかわからない世の中なんだから、危ない!と感じたら、スマホを向けず、即座に逃げるように!…まぁ色々教えてるし、大概の相手なら逃げ切れるはずだけど。警戒は怠るなよー。」
「承知いたしました、師匠。」
危機感、大事。何かあったら即逃げる。
そう頭にたたき込みながらこげ茶色のウィッグを被り、荷物をまとめ、立ち上がる。
「では、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気を付けて。」
女――私はパルクールの要領で、森の木々を飛び移りながら下山する。
…今日はほとんど授業が無かったため中学時代に使っていたスクールバックにしたが、次回からリュックにしようと思った。パルクールでスクバは山を下りにくい!
山を下り、怪我の防止目的で履いていたジャージを脱ぎ、鞄にしまって駅を目指す。
ちなみにウィッグはこげ茶色のセミロングで、ハーフアップの結び目を左サイドに持ってきて、くるっと輪にするという特徴的な髪形にしている。
地毛の色でいじめられたくないし、教師にも怒られたくはない。地毛の色を気に入ってはいないが大切にはしているため、家と師匠と居る時以外ではウィッグを被っているのだった。
時間通りに来た電車に乗り、都心を目指す。
駅の改札を抜け、10分程度歩くと赤い屋根のメルヘンチックなお店が見えてきた。
表には行列ができている。
”
ここが私のアルバイト先。
有名な童話である『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』をモチーフにした、女性向けのコンセプトカフェだ。
アリスがいる物語の世界観に、お客様が迷い込むというイメージで作られた店内には、テーマパーク並みの趣向が凝らされ、また、それぞれのキャラクターをモチーフにした衣装を着た店員が接客することになっている。
自己紹介をしておこう。
私、
高校一年生。
幼少期にひょんなことから忍者である師匠に出会い、以降忍術や体術、師匠の開発した技の数々を教えて貰っています。
高校生になり、小さいころから大好きだったカフェでアルバイトを始めました!
忙しいけど毎日が充実しています!
ありがたいことにカフェは本日も満席で、急いで準備を済ませ、出勤する。
制服は複数あり、私はアリスのイメージの、水色のエプロンワンピースを着用する。
他にはチェシャ猫や白兎など様々だが、実際着てみてアリスが一番動きやすいと思っていた。
ホールに出て、出来上がっていた本日の紅茶とアリスのいちごタルト、眠りネズミのジャムポットケーキをお客様の席に運んでいく。
――次は…チェシャ猫の色変わりゼリーと、鏡のクッキー、ハートの女王様の欲張りパフェを8番テーブルね。
パフェは高さがあるので、倒さないよう慎重に運んでいると、入店音が響いた。
カララン♪
出入り口に付けてあるベルが鳴る。
空き待ちしていたお客さんだと思い、振り向き、挨拶をする。
「いらっしゃいませ!
ダァン!!
ガシャーン!
…え?
出入り口にいたのは、外国人の男。
今は4月なのにタンクトップを着ていて、四季とのミスマッチが酷い。
もう一度言うが、今は春だ。
男は身長が高く、ガタイも良い。左頬には大きな傷痕があった。
そして――その手には銃が握られていた。
撃たれた弾丸は、私の右後ろにある木製の柱に着弾し、熱に負けたのか柱から少し煙が出ていた。
私は少し左にずれたお陰で弾丸は命中しなかったが、ハートの女王様のパフェが犠牲になった。
クッキーなども床に落ちてお亡くなりになっている。
「…き…きゃああぁあぁぁあぁああ!!!!」
ここまでの、ほんの1秒ほどの出来事で一瞬静まり返った店内だが、客の悲鳴でみな我に返り、それぞれ悲鳴をあげだした。
店長が叫んだ。
「み、皆さん、こちらに…!裏口へ逃げてください!!」
それが気に入らなかったのだろうか。
銃を持った男は連続で客を撃つ。
ダァン!!ダァン!!ダァン!!
スマートフォンを向けていた人は、即座に標的になってしまった。
ダァン!!
「うわぁ!!?」
もちろん私も撃たれ、間一髪でレジの裏に引っ込む。
が、この店では世界観を重視しすぎたためか、従業員スペースの入り口からレジが離れており、ここから出るのは至難の業だ。
そのうえ正面が出入り口なので格好の的になってしまう。
今出ても狙われるし、逃げた方向のお客様が犠牲になってしまうだろう。
ダァン!!ダァン!!ダァン!!…
男は撃つのを止めない。
人だけでなく、随時監視カメラも壊しているようだ。
パニックになる店内がどんどん赤色に染まっていく。
――どうしよう。
1箇所しかない表への出入り口には、ずっと男が立っている。
その上、男は内側から鍵をかけ、表に逃げられないようにしたため、店内にいる人は、狭い裏口から逃げるしかない。
大切な人を守るためだろうか、銃を持つ男を抑え込み、出入り口を突破しようとした勇者もいたが、銃に勝てるわけがなかった。
銃に装填できる弾数が多のだろうか。
複数の予備弾倉を持っていて、空になったら即時装填しているのだろうか。
銃声はまだ止む気配がない。
それに…あの男の顔に見覚えがあることに気付いてしまった。
師匠が気にしていた、昨晩逃げたシリアルキラーだった。
――ニュースで流れていた凶悪犯罪者が、女性向けの可愛すぎるコンセプトカフェにご来店するって何!!?もっといかつい店行けよ!じゃなかった、さっさと警察に捕まれよ!
連続して響く銃声と、逃げる客の悲鳴が響く中。
私は心の中で文句を言い現実逃避をするが、状況は最悪。
あの男がレジ裏に来てしまったら、私は撃たれてあっさり死ぬ。
かろうじてポケットの中には師匠からもらった糸が複数種類入ったあのポーチがあるが、人が逃げている中では振り回せない。糸が逃げる際の邪魔になるし、お客様を傷つけてしまう。
――拝啓 お父様、お母様。今まで育てていただきありがとうございます。親不孝者で申し訳ございません。あと師匠…これ、ちょっと生き延びるのは無理かもしれません。
色々諦め、心の中でセルフで走馬灯を展開する。
だが、ふと思い当たることがある。
――これ、私が死んでも、上手く逃げた場合も最悪なのでは?シリアルキラーだよ?ちょっとひと暴れしてみました!では済まないよね?武器を持っているのなら、逃げ道だって用意しているはず。
報道されていた内容を思い出す。
シリアルキラーは警察に捕まっていたのに、押収された自分の武器や、警察で保管されていた予備の弾倉を大量に持って逃げているのだ。
ここで全弾撃ち尽くせるはずがない。
ちなみに、武器やらを管理していた警察官は、男に殺された。
この逃走劇は未曽有の事件でもあった。
――ならば…あの男は店内が片付いたら裏口に逃げたお客様を追いかけて行くのではなかろうか。
生き延びるために手袋をはめ、糸を使いやすいように出し、ポーチを再びポケットに戻した。準備と逃げ道の算段を考える。
私が、戦うしかなかった。
――師匠、対銃戦とかいつどこでやるんだよ極妻狙ってないしとかずっと思っててごめん。今切実に必要です!!ありがとうございました!!
男が近づいてこないことを祈りながら、銃声が止むタイミングを待つ。
しばらく響く銃声と悲鳴の後。
――銃声が止んだ。
やるなら今だ!!
私は糸を持ち、素早くレジ裏から飛び出して、出入り口から死角になる左手側に逃げる。
驚いた男が発砲する。
後ろを向かず、私はジグザグに走る。
レジを挟み男と向かい合う私から見て左に逃げた理由は、以下の3つ。
1つ、レジの右には壁があって、行き止まりだから。(左にしか出られない)
2つ、左側はお持ち帰り用のコーナーがあり、右側より遮蔽物になるものが多いから。
3つ、外の野次馬に糸を使うところを見られたくなかったから。
幸い、西日を防ぐために出入り口以外の全ての窓はブラインドが下ろされてあり、店内は出入り口のドアからしか見ることができない。
左側は出入り口からは見通しが悪いため、この場所なら撮影される心配はない。
監視カメラが壊されているのもちょうどいい。
ご丁寧に出入口の鍵は男が閉めてくれているから、誰かが入ってくる心配もなかった。
死んでいる人に躓かないよう、注意しながら走り回る。
世界観の維持のために置かれている、ペンキで塗られたバラの木のボードの影に隠れながら、2種類の糸を配置しつつ、2階部分に繋がる階段の手前まで逃げる。
ボードの強度は心もとないが、なんとか被弾せずに済んだ。
男は発砲しながら、ゆっくり追ってくる。
――位置に誘い込めた!!
私は、仕掛けていた糸の1つを思いっきり引っ張った。
「What f*ck!?」(意訳:はぁ!?なんだこれ!!?クソが!!)
――そりゃ、驚くでしょうね!!
男の銃がバラバラになった。
手に握られていなかった部分だけだが、打てなくなればそれでいい。
男の顔にあり得ないと書いてあるが、知ったこっちゃないわ!
師匠特製の切れ味が良いうえに、スイッチ押すと超音波振動で更に色々切れちゃう、手袋なしでは触ることのできない「最凶の糸」の恐ろしさを味わってもらったところで、もう1つ張っていた別の糸を引っ張る。
「せぇ…のぉ!!!」
こっちは力がいるため、声を出してしまったが上手くいった。
こちらの糸は市販されているテグスを強化したもので、とても切れにくく頑丈である。
師匠の糸が現場に残るのは絶対にダメだが、こちらならあまり気にしなくていい。
――複数持っておくと便利だ。ありがとう師匠。
こうして私は店内の――世界観のためとはいえ多少邪魔に感じていた柱に、男を括り付けることに成功したのだった。
糸は結んだ。
相手は逃げられないし、もし逃げたとしても警察が来るまでならば、時間を稼ぐことができるはず。
急いで裏口に向かおうとした、その時だった。
ガシャン!!!
ふいに2階の窓が割れる音がした。
あり得ない。2階のお客様も、裏の非常階段から逃げ終わっているはず。
――まだ残っていたの!?
コツ、コツ、コツ……
だが、足音は意外にゆっくりである。
――違う。……侵入者だ…。
そこで、敵の可能性が高い事に気付く。
シリアルキラーが逃げだしていて、捕まっていない状況から見て、どこかに味方が居て当然だった。
そして、当然、どこかで落ち合う可能性だってあるわけで……。
ひとまず師匠特製の糸を手に持ったまま、足音の位置を気にしながら、吹き抜けの梁の上に急いで跳び、登る。
招かれざる客――もとい侵入者――が降りてきた時には、私は2階の吹き抜けに移動していた。
――本当に、この店が世界観を大事にしすぎていて変なつくりになっていて良かった。
感謝しつつ、侵入者を確認して2階の非常階段に向かおうと思っていたが、想定外すぎて梁から移動することができなかった。
降りてきた男女が、どうみても同年代で。
しかも、コスプレをしていたからだ。
…意味が解らない。
男はくくれる程度の少し長い黒髪を、後ろで一つにまとめている。
長い緑色のストール?マフラー?を首に巻いている。全身黒色でタートルネックのタンクトップ、アームカバー、ズボン、靴を履いていた。
材質は皮に近いのだろうか?スーツのように少し光沢のある、硬めの布素材だ。裾部分は緑色の布で覆われている。
服の所々にストールや裾部分と同色の緑色のベルトが巻かれ、アクセントになっているが見慣れない格好だ。何のアニメのキャラクターだろうか。全く見当がつかない。
女は大きな三日月のモチーフがついた、魔女の帽子を被っていた。魔女帽のリボン部分には大きなフェイクパールが一周し、三日月のモチーフの周りに3枚の白い羽があしらわれている。とがった部分にも同様に三日月と1枚の羽があしらわれていた。
服は魔女服でなくゴスロリだった。
髪型は、金髪のツインテールを巻いている。いわゆる「ツインドリル」。結び目には細めの黒いリボンが両方にくくられている。
こちらも材質は皮に近いのだろうか?スーツのように少し光沢のある、硬めの布素材だ。
基本黒色だが、その上着の布地の裾部分は金色の布で覆われ、袖には金色で十字架がプリントされており、白色のフリルが覗いていた。袖は二股になっている。
また、長袖になっている上着の首まである長めの衿と、パフスリーブのように膨らんだ下側の絞られている場所についているリボンには、赤のチェック柄の布が使われていた。衿の部分の縁取りは黒色で、十字架も黒色になっている。
左胸のポケットには十字架のピンバッジからチェーンが出ており、チェーンの先端は胸ポケット内部にしまわれているようだった。
バックスタイル――腰には黒いリボンが縫い付けられていた。
上着の胴体裾部分の右前には三日月のモチーフの缶バッジが、左前腰の位置には魔法少女のステッキとそれをしまう鞘が付けられていた。
スカートは黒色無地の、大きな2段フリルになっているミニスカート。
少し長めのスパッツがスカートから見えていた。
オーバーニーハイソックスの上部には白のフリルと黒いリボンがあしらわれており、ひざ下までの編み上げブーツの折り返し部分には、衿やパフスリーブ下のリボンと同じ生地が使われていた。
手には魔女の箒を持っている。
こちらも何のキャラクターかはわからない。
明らかに場違いである。
カフェに来店する格好ではないし、犯人を捕まえるような格好でもない。
もう一度言うが、意味が解らない。
だが、それは向こうも同じだったようだ。
「え…何これ。」
「どうなってるんだ…?」
疑問を浮かべる男女に、シリアルキラーもぽかんと呆けている。
そう…この場にいるのは、
4月にタンクトップを着ている、ぐるぐる巻きのシリアルキラー。
コスプレ?をする真っ黒時々緑色な男と、コンセプトがわからないゴスロリの女。
そして、梁の上から動けない、アリスの恰好をしたカフェ店員の合計4名。
カオスであった。
……。
場に短い沈黙が流れた。
最初に動いたのは、コスプレ?をした男だった。
「…なぁ、ルナ…俺ら以外動いていたか?」
男が聞くと、ルナと呼ばれた女は首を横に振りながら答える。
「ううん…誰も動いていないはずなんだけど…司令も何も言っていなかったし」
状況が呑み込めない2名に、シリアルキラーが憎々しげに問いかける。
「お前ら…あの女の仲間か?」
おっと、矛先が私に向いてしまった。――やめろこっちを向くんじゃない!
慌てて梁の陰に身を隠す。
良かった。ひとまず、ばれてないみたい。
だが、完全に逃げ遅れてしまった。
…恐らく1歩でも動いたら見つかるだろう。何それ怖い。助けて師匠。
「あの女…?」
目視できなかったのだろう、男のほうが疑問に満ちた目でシリアルキラーを見つめ直す。
「…まぁいい。また刑務所に戻るだけだ。まさかこんな極東で捕まってしまうとはな。」
反省もせず、そう吐き捨てるさまは極悪人に相応しかった。
その時、男が反応した。
《――
黒真珠と呼ばれた男のインカムに、そう通信が入った。
「了解。」
――インカムか何かで通信してるのかな?
よくわからないが、どうやらコスプレ男女はシリアルキラーの味方ではないことに安堵し、私は梁の上で息をひそめ続ける。
黒真珠と呼ばれた男は通信相手に一言返すと、1枚の紙を取り出した。
男――黒真珠がシリアルキラーに告げる。
「マック・H=B…お前を大量殺人の罪で粛清する。」
取り出した紙は、ICPO(国際刑事警察機構)が発行する粛清許可の令状だ。
「――ICPO!?ま、まて取引だ!!今回の脱獄はゲームの一つでーー」
「ルナ、後ろ向いてろ。」
「はぁい。」
「は!?情報は欲しいだろ!?応じろ!!俺を殺すな取引を――」
《無視して執行なさい。》
「了解。」
往生際が悪すぎるシリアルキラーを無視し、黒真珠は鞭を取り出し、告げる。
「18時29分。対象を粛清する!」
シリアルキラーは、鞭の先端から流れる高圧電流を受け絶叫し、絶命した。
「…粛清完了。」
黒真珠の声が店内に響く。
――目の前で殺人が起こった。
嘘だと思いたかった。
確かに、シリアルキラーも殺していたし、死刑になればいいと思っていた。
だが、彼は「粛清」された。組織の権力によって。
そして、粛清したのは同年代の男の子。確実に大人ではない。
しかもこの現代に、だ。
…いろんな意味で重かった。なんだこれは。
――見ていたとなれば私も殺される…。
逃げなきゃいけないのに、足にうまく力が入らない。
そして――
「あ。」
「!?」
私は梁から足を滑らせ、2人の前に落下するのだった。
ひゅるるるるー。
ドサッ。
「ぅ…痛た……――あ。」
私の喉元には鞭の先端が当てられていた。
――あの、シリアルキラーを殺した鞭だ。
もう、逃げ場はなかった。
黒真珠が口を開く。
「何者だ。……いつから居た。」
私は答える。
「い、生き残りのアルバイト店員です…。えーと、最初からですね…?」
微妙な空気が流れる。
ルナが糸を指差し、口を開く。
「もしかして、これはあなたが…?」
「そうで――」
素直に肯定しようと口を開くと、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
もうすぐ警察が来る。
そこで思い立つ。
今の状況がとてつもなくヤバいことに。
1、バラバラの拳銃!
(師匠特製の糸がばれたらヤバい!)
2、シリアルキラーに巻きつく糸!
(ヤバくはないが、目立ちたくないから知らぬ存ぜぬで通したい!!)
3、あちこちにある弾痕!
(きっと鑑識は優秀だから、いくつかは戦闘してたことがばれる原因になる。まぎれてくれない。どうしよう。)
4、そしてシリアルキラーの死体と、目の前にいるコスプレ男女!!
(コレ、絶対に見てはいけないものでしょうが!?証言不可!どうやって!?)
…いろんな意味でやばい。
追及されても答えられない。
だが2人は私を逃がすつもりはないらしい。
――もしかして、私はここで殺されて、すべての罪を擦り付けられる!?
逃げなければ。でも、どうやって??
そこに通信が入る。
《黒真珠、ルナ。急いで帰還しなさい。あと、見た奴も持って帰ってこい。後でお仕置きよ。》
結局、私はなぜか急に顔色が悪くなった2人に連れられ、着の身着のまま、足早に店を去ることになった。
2階から脱出し、隣の建物に乗り移って、地面へ下り、路地裏へ。
……いや、箒使わないんかい。2人乗りなのかな?
――拝啓 お父様、お母さま。
今、何かの組織の人が運転する車で、どこかに移動しています。
生き残ることは出来ましたが、私はどこかに連れていかれるようです…。
師匠…助けて!!!!
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