【世界異次元旅行記】ミスターロコモーティヴと亡国のピアニスト

サトウ サコ

プロローグ『憂鬱な天使』

 死者の列の宙高く、世にも恐ろしい天使がひとり。

 閻魔えんまと呼ばれる天使がひとり。

 天使は分厚い本を開く。

 閻魔帳と呼ばれる紫紺の本は、運命書かれる不思議な書。

 死期が書かれる不気味な書。

 異形の天使は死者を見下ろす。

 彼らの人生に想いを馳せる。

 恋人、家族、友人、同僚。

 彼らの隣に誰がいたのか。

 例外許さぬ固い閻魔に、冗談めかす友人はいない。

 口数すくないぶっきらぼうに、微笑みかける同僚はいない。

 神様さえも恐れ戦く、眼光鋭し異形の天使。

 閻魔はいつもひとりぼっち。

 閻魔はいつも望んでる。

 心許せる相手を、話し相手を、友を。

 死者の列は延々続く。

 閻魔は虚しく列を見下ろす。

 死にゆく命に救済を。

 死にゆく魂に癒しを。

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