第34話 父母ノ友。

日曜日の集まりは午後に集まって夕飯を食べて解散の予定にした。

また現れた藍ちゃんはヘトヘトで、「櫂に唯ちゃんの家に行く前にしようよって誘ったら、わりかし本気出されてヘトヘトだよ」と言われて、聞いている方が照れてしまう。


「櫂は暴力を精力に変換してるんだよ。だから止まらないんだよ」

「ふふ。後は唯さんのご飯で発散してるのね」


関原くんは藍ちゃんの話だと、今日もご両親が気を利かせていなくなるタイミングか、2人で外に出かける事があれば、唯さんとセックスをする。


「二日連続…、関原くんは無茶苦茶なのね」

「まあ、誘ったのは私だけどさ…」


藍ちゃんは少し困った顔で、「嬉しいけど、今はなんか微妙なんだ」と言う。


私が「何が?」と聞くと、関原くんのキスの長さや抱きしめる力加減が、藍ちゃん好みのものになっていて、本当に満たされるけど、満足する度に唯さんの顔がチラつくようになってしまっていて、唯さんにはキチンと報告しているので、問題はないが、どこかモヤつくらしい。


「珍しいけど贅沢な悩みよ」

「うん。わかってる。だから今日は2人の時間にしたかったの」

「ならプレゼントをキチンと選びましょう」


私と藍ちゃんは唯さんの通勤のQOLを上げる事を目的に、プレゼントを選ぶ。

藍ちゃんの話だと、通勤は普段着なので、ダブってもいい折り畳み傘やハンドタオル。後は使わないと邪魔になるが、アイスネックリングを選んだ。


「唯ちゃんって赤似合うよね」

「そうね。選び易くて助かったわ」


そんな話をしながら下着売り場に行くと、赤い下着を見て「麗華さん」と藍ちゃんが聞いてくる。


「…赤は唯さんと思って、藍ちゃんはやっぱり青とか緑とかにしましょう」

「うぅ…、可愛い色なのになぁ」


下着も選び終えて、夕飯は始発駅で食べようとした所、電車がトラブルで運行停止していた。


復旧の目処が立たず、バス乗り場とタクシー乗り場は大混雑。食事をするにも、どの店も大混雑。

どうしようかと思っている間にナンパまでやってきて、藍ちゃんが「迎えが来るからいらないよ」と言って断る。

藍ちゃんが「くそっ」と言いながらスマートフォンを取り出すと、「お父さん!電車止まってるから迎えきて!まだ晩酌時間じゃないでしょ?私は帰れても、私と櫂と唯ちゃんを助けてくれる麗華さんが帰れなくて困るの!すぐ来て!櫂!?免許取らせるならお父さんが説得しなよ!」と言って電話を切る。


そしてドヤ顔で、「お父さん呼んだよ。元街の人だから土地勘もあるし、良かったらご飯を奢らせちゃおう!」と言った。



・・・



1時間後、駅を離れて街側の公園で待っていると、高級外車に乗って現れた藍ちゃんのお父さんは、どこか関原くんにも似ている。


「お父さん!ありがとう!」

「いや、大切な娘の頼みだから仕方ねーが、ぜってー櫂に免許取らせて車売る。今後はまずアイツにやらせる」

「じゃあ、櫂が車買ったら車でデートしていい?」

「櫂の車だから好きにしろ。でも車でしてっと警察がくるからな。そんな情けない身元引受人はやんねーぞ」


藍ちゃんはお父さんと軽口を叩いた後で、「お父さん、麗華さん、櫂の同級生で、私の大学の先輩にあたる人で、今回唯ちゃんの事も助けてくれたんだよ」と紹介してくれたので、「はじめまして、高嶺麗華です。私こそ藍ちゃんや関原くんにお世話になってます」と挨拶をする。


「高嶺…?玲子さん?」と呟いた藍ちゃんのお父さんは、「君、隆臣さんと玲子さんの娘さんかい?」と聞いてきた。


突然の父母の名前。

私が頷くと「本当に玲子さんにも隆臣さんにも良く似てる。はじめまして、関原康二、藍の父で、櫂の叔父で、隆臣さんと玲子さんには昔からよくしてもらっていたんだ」と言って自己紹介をしてくれた。



・・・



車の中は盛り上がった。

この会話の中で、高遠輝樹の事も藍ちゃんは知っていると関原康二さんに言った。


「なんだよ。街で出来た藍の友達って、隆臣さんの娘さんだったなら納得だ」

「お父さん、私麗華さんって言ったよ?」

「お前、元々はすごい美人って呼び方しかしなかっただろ?それに俺も名前知らなかったからな。だから俺の娘が藍ってのも教えてないし」


笑った関原康二さんは、関原くんが生まれる時に、うちの父が「うちの子供と同級生だな」と言ったらしいが、「アイツは兄貴の子だから俺には関係ないですよ。別に兄貴やお子さんに教えなくていいですからね?ウチももし甥っ子から高嶺と聞いても知らんぷりしますよ」と答えていた。


「お父さんなんで?」

「なんでってお前、俺はその時には街を離れていて、たまにオヤジとオフクロの顔を見に行ったついでに、行きつけの店に行ったりしたら、たまたま隆臣さん達に会えたから、そんな話をしたんだ。玲子さんのお腹が大きくて、子供の話になったんだよ」


藍ちゃんは成程と納得すると、私を見て「麗華さん!私達の仲は運命だったんだね」とニコニコして言うので、私は照れて赤くなってしまった。


「あ!お父さん!今日は麗華さんと夜ご飯の予定だったのにタイミング逃したから奢ってよね」

「…おま…、まあいいけど、母さんに連絡しとけ」


藍ちゃんがお母さんに電話をしている時、関原康二さんが「麗華ちゃんは食べたいものはあるかい?やっぱり街に帰るなら、高嶺の店に行きたいかな?」と聞いてきた。


返事に困っていると、ルームミラーで目が合った私を見て、関原康二さんが微笑むと「櫂の奴と同じ目をしてるね。街は嫌いかな?」と聞いてきた。

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