第45話 調査
クレイは国際情勢にも勉強熱心な人間だ。
おかげで彼からかなりの情報を受け取れた。基礎的なものはこれで充分だろう。
まず、ヴィッツテリア帝国とフォーリートーレム国の仲は悪い。ここ数年は、他種族排除の考えが広まるフォーリトーレムと多種族国家のヴィッツテリアとでは溝は特に広がっているらしい。
最近ではヴィッツテリアからの密輸問題が生じており、国民同士の双方の意識もかなり悪化している。
そのため、今回の邪災において、ヴィッツテリアが協力してくれることはクレイにとってはかなり違和感のあることらしい。
純粋な善意ではなく、何かしらの意図が絡んできていることはまず間違いない。
無論、タダで軍を出動させるなんてことは無いのだから、向こうからすれば何かしらのメリットがあることは前提だ。
大切なのは、そのメリットが何かということだ。
例えば、これを機に両国の関係改善を求める、みたいなことであれば何の問題もないし、ルミレトが言ったように小さな嫌がらせ程度の期待値しかないならそれも別に問題はない。元々仲は悪いし。
だが、直接的に斬り込んでくるようなことがあるのなら、それに備えないといけない。
例えば、今回の出動で何かしらの問題を起こし、それを戦争の火種にする、とかだ。
私からすれば現実的ではない考え方だけど、この世界では国同士の争いはもともと活発だったらしいし、一時的に大規模な争いがなかった時代が今だが、いつ均衡が崩れてもおかしくはない。
そうはいっても流石に国交を結んでいる国同士でいきなり戦争なんて考えにくいとは思うけどね。
という前提情報を取り入れた上で、私はヴィッツテリア帝国の狙いを直接調査することにした。
つっても私如きが調べられることなんて限られているし、そもそもこんな仕事やらなくてもなんの責任も取らされないだろう。
そもそも私はヴィッツテリア帝国がそこまで悪意を振り撒いているとも思えない。わずかな期間ではあるが、ヴィッツテリアの獣人の子とも仲良くなったし、少なくとも彼らにはこの国をどうにかしてやろうなんて考えは見えなかった。
まあ下っ端だから情報が行き届いてないのかもしれないけど、国に対する大規模な軍事的攻撃を企てているのならさすがに下っ端でも何かしら知っているはずだ。
つまり、仮に何かを企んでいるとしたら、数日前私たちの前で演説した将軍たちとその周りの少数。逆に言えば、彼らに怪しい点がなければ問題ないということだ。
……ま、その将軍たちはかなり怪しいんだけどね。
レイズ、ヒース、アスロウ、三人の将軍の名前と顔を照らし合わせて思い出しながら、考える。
………まず、あの中でもっとも危険だと私の感覚器官が述べているのは、紫髪の青年、将軍レイズだ。
クレイからも聞いた話だと、彼は基本的に軍事行動の際に際立って指揮官能力に優れているらしい。私個人から見ても、彼は見た目にそぐわない狡猾獰猛な一面を隠していると思った。今回ヴィッツテリア帝国が何かしらを企んでいるのなら、彼が間違いなく中心となっているだろう。
逆に、残りの二人はそこまで気にしなくても良いと思う。
メガネをかけた陰気な女、将軍ヒース。彼女は将軍という立場ではあるが、基本的には裏方であり、前面に出たり中心的に作戦を練ったりするタイプではないとクレイが言っていた。もちろん、フォーリトーレム民であるクレイが言ったことなど信用性には欠けるが、少なくともそういうふうに思われている立ち位置である以上、レイズよりは警戒度は薄くていい。
勝気で傲慢な女、将軍アスロウ。彼女はあまり戦線に出ず、財政面や設備の調整などをまとめる役であるらしい。なぜ今回出てきたのかは分からないが、まあこれも警戒度は低い。個人的には彼女に対して気になることがあるけど、今はそんなに関係ない。
ということで、探るならレイズの動向か。
向こうが何かを企んでいるのだとしても、建前上今は仲間だ。つまり、彼の動きもそう厳重には隠せないだろう。ましてや将軍という立場なのだから、表立って行動していることはまず間違いない。
まあ、そうは言っても現在のレイズに関する情報の入手源がないことには探りようがないか……。
クレイは流石にそこまで詳しいと思えないし、となると情報を得られそうなのは……。
私は思い切ってリーシュに頼んだ。
「リーシュ……。ちょっとルミレトのところにお使いに行ってきてくれない?あいつなら知ってることも多いだろうし。」
知り合いの中で一番まともな地位を持っているのがこの女だ。この女のことを100%信頼しているわけではないが、こいつの頼みでやってる仕事なんだし、知ってることは教えてくれるだろう。
「ん、いいけど、なんでわたし?」
「いや、私あいつ苦手だから。」
「わたしも嫌いだよ。レイナ殺そうとしてたし。」
「でも、リーシュならルミレトに瞬殺されることはないでしょ?私は対応間違ったら即死だからね。というわけで、まずレイズが今どこでなんの仕事をしているのか、それを知る方法はあるか、直接彼と会える機会、または見れる機会はあるか、を聞いてきて。」
「えー。」
「ね、お願い。帰ったら魔力たくさんあげるから。」
あの女怖くて苦手なんだよなぁ。平気で私を殺そうしてきたってことは、私のことを死んでもどうでもいいくらいの愚物としか思っていないということで、そもそも実力差がありすぎてライオンとウサギくらい差があるし、たぶん。
というわけで、私はリーシュをルミレトの元に潜り込ませた。
レイズを直接追えれば分かることも多いだろうさ、とにかく今はリーシュの帰還を待とう。
ヴィッツテリア帝国軍全体から三人の将軍へ、三人の将軍から青年レイズへ、と注視すべきものの絞り込みはできている。彼が潔白ならそれで話は終わりだ。終わっててあってくれ、と心の中で祈りを捧げ続ける平和主義者の私だった。
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