第37話 終わらない戦い
日が上り気温も上がってきた時間帯、私とリーシュはクレイの指示で人手が足りていないという場所で戦闘を行なっていた。
王都から訪れた援軍は、前線で魔物を食い止め続ける部隊と、ヴァルディーデの街近辺で魂玉を捜索する部隊に別れている。
私たちは前者の一員として戦っているのだが、援軍が来る前と比べると相当余裕が出ている。
「リーシュ、そっちお願い!」
「りょーかい。」
私の声と共に、弱った魔物をリーシュが作業のように剣を滑らしていく。
リーシュの剣捌きは全く衰えも見えず、むしろこの前よりもより繊細になっているようにさえ見える。
「悪い!そっちに行った!」
リーシュが魔物を倒したのを確認すると、今度は後方から別の男の声が聞こえてきた。
「大丈夫です!」
私は大きく返事をすると、突進してくる猪型の魔物──リッグヘッドボアーにしては大きい に向かって瞬時に魔法を展開する。
中級炎魔法 《
魔物は急激に上昇した地面の熱に対応する術もなく炎に蒸し焼かれて爆散した。
「無事だったか?」
私が魔核を回収していると、灰髪に黒いコートに身を包ませた剣士ルネクが近づいてくる。
「全然平気ですよ。」
ルネクは私たちと同様、援軍が来た後も最前線で戦い続けている。見た目はかなりチャラそうにしているが、真面目に戦い続けているあたり剣士としてはやはり優秀らしい。案外スタミナタイプなのもなかなか好印象。
「キツくなったら無理せず退けよ。もう死人は懲り懲りだからな。」
「それはもちろん。」
私がリーシュと再び共闘できているというのも大きいが、やはり人数の増加とサポートの豊富さは気持ち的にだいぶ楽だ。もし私がここでぶっ倒れても、たぶん誰か助けてくれる。
私たちの役目は、魂玉を探している部隊が任務を遂行できるまで、ここでリポップしてくる魔物を倒し続けることだ。
単純作業とはいえ、常に集中力を張り続ける必要があるし、時折現れる上位魔物には特に注意して相対さないといけない。
まあ、あの頃に比べればマシさ。
夜には寝れるし、ちゃんと仕事してればウザい上司に怒られることもない。当たり前の話だけど、その当たり前を実行できないブラック企業もあるのだから。
♦︎♦︎♦︎
「レイナ、リーシュ、ここにいる何人かの冒険者を連れて、ここからもう少し西側にある大規模な陣営に向かってくれないか?そこから物資を受け取ってきてほしい。」
私が出ずっぱりで魔物を打ち倒して数時間が経った時のこと、ここらへんの隊長として指揮をとっていたルネクが指令を出した。
「陣営?」
「ああ、毎回街に戻るわけにはいかないからな。中心となるキャンプを作って、そこから各地に物資を調達できる形をとっているんだ。そこまでは魔物もいないだろうし、休憩程度だと思って、な?」
「はあ。まあ良いですけど。」
たぶん、私とリーシュが休まずに戦っているから心配されたのだろう。鍛えてるって言ってもあくまで私たちは10代の冒険者として見られている。実際は私は20代後半だしリーシュは1000歳越えだけど、側から見るとちびっ子が血相を変えながら魔物を狩りまくっている異様な光景のように見えるわけだ。
だからちょっと気を遣ってくれて休ませようとしたってところか。こんな気を遣える上司が前世でも欲しかった。
私たちがいなくても全滅の危機があるというわけでもないし、私は戦ってないと(仕事をしていないと)気が落ち着かないという戦闘狂みたいな理由で魔法を振いまくっているのだから、今回のおつかいは良い休息になるかもしれない。
っていうかさらっと言ったけど、私ってガチで戦い大好きな女みたいに思われてそうなの、普通に嫌だな。こんなこと仕事にしてしまったのが運の尽きか。
「じゃあ、ちょっと行ってきますね。」
そういうわけで、私とリーシュ、それから何人かの冒険者は、森の中心部にあるという陣営に物資の受け取りに向かった。
森の深部から中心部に向かっているのだから、当然魔物の群れは存在しない。実際、小さな魔物が一体現れただけで、特に忌避すべき状況に陥ることもなく私たちは陣営に着いた。
森を切り開いたのか、ぽっかりと穴が空いたように開けた場所になっていて、多くの兵がこの場所を滞在地点としているようだ。見晴らしをよくするためってのはわかるけど、わざわざ木を伐採するとは。
一番大きな仮説本拠地っぽい場所に足を進める。
「すみません。東の第四隊所から来たんですけど……………」
…………………………………
数分後、私たちはきちんと身分を証明して、物資を受け取ることができた。
余談だけど、私はいつの間にか集団のリーダーみたいな扱いになっている。
ルネクの指示で何人かの集団でここを訪れた私たちだが、私とリーシュが常に戦場で戦うバーサーカーだと思われているせいか、他の冒険者たちはやけにこちらに恭しい。
結果、自然と私が前に出て行動を行うようになる。気持ち良いと思うわけではないが、こうやって班長っぽく周りを連れ回すのは新鮮味があってなんかいいな。
みんなも恐れているのか敬っていてくれてるのか、私の指示に従ってくれてる。
まあ私がこういう振る舞いができるのはほとんどリーシュのおかげだ。リーシュがいなければ私は戦力不足で積極的に戦線に出れないし、本来ならば獣人の童として扱われて爪弾きにされる立場なのだから。
緊急事態だから受け入れてもらえているのだろうが、この国では獣人の時点で私の立つ瀬はないが普通なのだ。
私自身も強くはなっているんだろうけど、まだまだ魔力が少ないというディスアドバンテージを覆すには実力が足りない。
帰ったらまた戦わないとな。魔法の経験値はいくらあっても良いのだから。
♦︎♦︎♦︎
陣営で少し他のメンバーを休ませて、みんなで物資を持ってさあ帰ろうと指示を出そうとしていた時だ。
「あの、少し宜しいですか?」
私たちに、いや、私に話しかけくる少女の姿が目に映った。
前髪をフードに包ませることで意図的に目を隠した、私と同い年くらいと思われるその少女はツカツカと私の方に一直線に向かってくる。
「………………………?」
一見すると、どこにでもいるような普通の少女、魔術師の見習いさんかな?って感じのイメージを持たせられる。
少なくとも、この場所にいる時点で敵とかいうわけではないのは間違いないだろう。
だが、この時点で、私は違和感を感じていた。
この少女から真意が見当たらないのだ。
これは私の特技的なものだが、私はその人を一目見れば大体の思惑や感情を読み取れる。表情の有無に関わらずだ。
だが、彼女からは深いところでその感情の起伏が見て取れない。無感情というわけではないと思う。そういう人とも会ったことあるけど、それとは違う感じがするし。
となると考えられる可能性は一つ。
「………なんですか?」
「いえ、この隊のリーダーはどなたですか?」
どこか違和感のある少女の質問の答えをそのまま示すように、私は一歩出て口を開く。
「一応私ですけど。」
「そうですか。私、作戦指揮官補佐のハストリーと申します。今後の作戦についてお知らせしたいことがあるので、少しついてきてもらえますか?」
ハストリーと名乗った女は、おそらく身分証のようなものであろう紙をこちらに見せて、私を誘導するように歩き始めた。
ついてこいってことなんだろう。
「………………無視するのは悪手だよな。」
私は小さくため息をつくと、彼女の後を追った。
ハストリーを追い始める前、リーシュに一言だけ伝言を告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます