号砲
「冴島先輩、これ何だと思いますか?」彼女が手にしているのは、犯行声明として送られてきたファックス。無造作に記された「××××○」という文字列が、何か不気味な意図を隠しているように見えた。
「『××××○』か……。丸バツゲームじゃないし。少なくとも、最後の丸印が奴らの言う『ド派手な一発』だろう。それ以外は、分からん」
記号の意味はさっぱり掴めない。それでも、最後の「○」が何か重要なヒントであることだけは確信していた。だが、他の「×」が示しているものがわからなければ、全体像を把握することはできない。
「つまり、何も手掛かりなしで、どうにかするしかないと?」
山城の言いたいことは分かる。そう、このままでは最初の爆発を防ぐことはできない。それどころか、下手したら最後の一発も止められず、多くの死傷者が出るかもしれない。
「むやみやたらに動くのは賢明じゃないな。次の犯行現場が遠い場合、間に合わない可能性がある」
「それに、この犯行声明、タイムリミットしか書いてありません。つまり――」
「奴らが四つを爆発させたすぐ後に最後のド派手なやつを爆発させるかもしれない。だが、その線はないな」
「え? なぜですか?」山城はきょとんとしている。
「この犯行声明だ。『チャンスを与える』と言っている。これは俺たちを試しているんだ」
冴島の視線はファックスに釘付けになったまま。犯人の意図を見抜こうとしている。そして、その意図は明白だった。犯人は警察を侮っている。
「そして、無能さをさらけ出そうとしていると」
山城の言葉に冴島は無言で頷く。犯人は自分が捕まることを恐れていない。その余裕が、この声明から滲み出ていた。そして、その余裕こそが犯人の狙いだ。犯行を成功させるための準備は、すでに完璧に整っているのだろう。爆弾を仕掛ける技術がある以上、犯人は機械に精通しているはずだ。そして、自分の完璧な計画に自信を持っている。
「『バツ』といえば、MDMA、つまり麻薬の一種しか思い浮かばないな」
山城は眉をひそめる。「そうだとしても、それがどこを指しているかが分かりません」
「あとはバツ四とか」
「先輩、ふざけないでください」と山城が軽く冴島をたしなめる。
「いや、思いついたことを列挙しているだけだ。いわゆるブレインストーミングだ。山城もどんどん言ってくれ」
山城は少し考え込んだ末に、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
「そうですね……。これはバツでななくて『エックス』ではないでしょうか」
「よし、いいぞ」
「エックスが四つ……。『4X』はどうでしょうか?」
「それは、どういう意味だ?」冴島は首をかしげる。初めて聞く言葉だった。
「ストラテジーゲームのサブジャンルの一つです。探検、拡張、開発、殲滅の英単語にはどれにもエックスがついているので、4Xって呼ばれるんです」
冴島はなるほどと思いながらも、これは違うと感じた。犯行声明にゲームのジャンルを持ち込むほど単純な話ではないだろう。それにしても、山城がこんな単語を知っているとは意外だった。普段は何気なく捜査に励む彼女も、実はゲームマニアなのかもしれない。だが、今はそんなことを考えている余裕はない。
その時だった。「江東区の交番で爆発がありました!」と連絡が入ったのは。
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