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聖が都で彫刻家として働いているその間、聖の家の家事のお仕事を手伝いながら、白鹿の姫はお師匠さまである聖に彫りかたを教わりながら自分でも彫刻を彫っていた。でも、白鹿の姫の彫る彫刻は、子供の彫る彫刻とあまり変わらない(聖が教えていたから、うまいことはうまいのだけど)とても普通の彫刻だった。でも、それでも白鹿の姫は彫刻を彫ってはとても喜んでそれを自分の部屋に一体ずつ飾っていった。(今は部屋に十体の動物の彫刻が置いてあった)
そして聖が天子様のご依頼を受けることが決まって、なにかを真剣な顔でずっと悩んでいるお師匠さまである聖を見て、白鹿の姫は一つの彫刻を彫ることにした。
その彫刻は桜の花の女神の彫刻だった。その桜の花の女神は白鹿の姫の大好きな女神さまで、その像にはお守りの力があるとされていた。だからその桜の花の像を彫って、お師匠さまにそれをあげて、自分がいないときも、お師匠さまのことをずっと守ってくださいとお願いをして、ようやくかくれてこそこそと彫っていた桜の花の女神の彫刻が完成したので、その像を白鹿の姫はお師匠さまの聖にそっと手渡した。するとお師匠さまは泣いてしまって、白鹿の姫のことをぎゅっと強く抱きしめてくれた。
「お師匠さま。いたいです」と笑いながら白鹿の姫は言った。いつもならお師匠さまは「ごめんなさい」と笑顔で言ってくれるのだけど、(よくお師匠さまは「えい」と言って、白鹿の姫のことをうしろから抱きしめたり、軽く白鹿の姫のほっぺたをいたずらでつねったりした)今日はお師匠さまはなにも言わずにずっとずっと泣いていた。
「お師匠さま。どこにもいかないでください。ずっとわたしのそばにいてください」と白鹿の姫は言った。
「わたしを捨てないでください。わたしを忘れないでください。……、お師匠さま。どうかわたしを、これからもずっとお師匠さまのお弟子でいさせてくださいね」とふふっと笑って白鹿の姫は言った。
……、聖はずっと泣いていた。「よしよし」と今日だけはいつもとは反対にずっと白鹿の姫が泣いている聖の長い黒髪をやさしく、やさしく、ずっといつもお師匠さまがそうしてくれるみたいに、なでていた。
それはとても静かな、明るい、明るい大きな丸い月の出ている秋の月夜のことだった。
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