師匠の紹介文を都の彫刻家の工房を訪ねてそこの都の親方に手渡して事情を話すと、聖は都の親方と彫刻で勝負をすることになった。聖はもちろんその勝負を受けた。都の親方は年老いてはいたけれど、とても体が丈夫でなによりも聖が初めて見るさまざまな匠の技術を持っていた。聖は自分の腕を全力で振るって、鳳凰の彫り物を彫った。都の親方は玄武の彫り物を彫った。その勝負は工房のみんなのよる挙手による判定で引き分けとなった。都の親方と引き分けたことによって、聖は都の工房でこのまま彫刻家として働かせてもらえることになった。それだけではなくて、都の親方の好意で、都の親方がもっている、空いている古い空き家を使わせてもらえることになった。聖はその都の郊外にある古い空き家にお弟子の白鹿の姫と一緒に暮らし始めた。(その空き家はぼろぼろということもなく、立派な家だった。もしかしたら、少し前まで誰かがこの家にずっと暮らしていたのかもしれない)

 都の工房で働くようになると、都の親方は聖に「みんなはわしの弟子だから、引き分けという結果になったが、勝負はお前さんの勝ちだったよ」と聖のことをじっと見つめて笑いながらそう言った。都でも聖の彫る彫刻は立派だとすぐに評判になった。聖は都でたくさんの初めて見る技術を日々、彫刻を彫りながら学び、自分のものにしていった。そうして、聖の彫刻家としての腕はどんどんと、まさに今も書物の中に名を残して言える古き時代の匠の域にまで上達していった。

 ……、でも、どこにも神様はいない。これほど技術が上達しても、神様は見つからない。どうしてだろう? 自分はまだまだ本当は彫刻のことがなにもわかっていないのではないだろうか? だから、わたしには神様が見えないのではないのだろうか? そんなことを汗だくになって彫刻を彫りながらいつも聖は思っていた。

 そんなある日、聖にとても大きな仕事が舞い込んできた。

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