アメリカの有名作家になった件
Mentama
第1話
昔はよかった。
今より昔の方が良かった。
時々人生が辛いときに、皆が口にする言葉だ。
ブルーノ・マーズよりマイケル・ジャクソンが。
ジェイ-Zより2パックが。
マルーン5よりビーチ・ボーイズが。
レブロン・ジェームズよりマイケル・ジョーダンが。
トム・ブレイディよりジョー・モンタナが。いや、ここはもう超えている。
レオナルド・ディカプリオよりマーロン・ブランドが。
ジョン・シナよりストーンコールド・スティーブ・オースティンが。
皆、"今"より"過去"の方が良かったと言っていた。
特に仕事でよく一緒になる同僚教師、サマンサ・グリーンはほぼ「昔崇拝者」に近かった。
ここにもう一人の同僚教師、ジャック・マロンも加わり、私たち三人は時々近くのダウンタウンにあるパブに集まり、テレビを見ながら酒を飲んでいた。
サマンサはいつも酔いが回ると、内容は違っても結局は「昔は良かった」という、実質同じ話を繰り返していた。
今日も同じだった。
パブに到着すると、まずはウォッカ2杯を喉に流し込むところから始める彼女は、冬が深まる夜、持っていたショットグラスを音が鳴るほど大きく置きながら口を開いた。
「まったく、私たちはもう年をとりすぎた。」
また始まった。
「昔は学校が終わると自転車に乗って町中を駆け巡ったものだ。本当に楽しかった。」
「そうだな。それに週末のキャンプで焼いたマシュマロは最高だった。」
隣にいたジャック・マロンが話に加わった。
彼は黒人で、サマンサは白人だったので、私たちのパーティーはこの時代の重要な人種の多様性を満たしていた。それぞれの事情で結婚せず、年を重ねた今では完全に友達のような関係だった。
「昔はシンガーソングライターになりたかったのに、今は子供たちの前でピアノを弾いているんだ。」
「誰だってそうだろう。小学生の頃の夢はジョーダンだったし。」
「私はマライア・キャリーだったわ。」
『スター・ウォーズ エピソード5』で「I am your father」を初めて聞いた時から、マイケル・ジョーダンがシカゴで6度目の優勝を果たし、自ら王座を降りた瞬間まで、この世代のアメリカ人なら誰もが覚えていそうな話が出てきた。
私はその話を黙って聞きながら、ゆっくりと尋ねた。
「ジャック、君はGOATとしてレブロンではなくジョーダンを支持するんだな。」
「もちろんさ。神だ。レブロンにはロマンがないんだよ。」
今でもNBAファンのジャック・マロンは非常に個人的な意見を言った。
記録はさておき、優勝のためにチームを移ったという事実自体が、彼が感じるGOATの資格がない理由だったらしい。その言葉を聞いて、酔っ払ったサマンサが笑いながら叫んだ。
「あなたたち、今同じ話を何百回も繰り返しているの、知ってる?」
「知ってるさ。でも気になるんだ。今シーズン、レブロンが6度目の優勝を果たしてジョーダンと並んだ。それでもジャック・マロン先生の考えに変わりはないのかってね。」
私は同じように笑いながらジャックを見つめた。
彼は口ひげにビールの泡をつけたまま真剣に言った。
「言っただろう、レブロンにはロマンがないんだよ。」
「そのロマンってやつ。」
「それって何?」
「ジョーダンはブルズで始めてブルズで終えただろう。」
「3度目の復帰でワシントンに行かなかったっけ?」
「それはジョーダンじゃない。」
「じゃあ、ウェルダンか?」
皆、酒に酔っているせいか、普段より口調が荒くなっていた。
その間、私も一緒に笑っていると、サマンサが突然肩を叩いた。
「シン、君の話を聞かせてよ。子供の頃は何が一番好きだった?」
「さて。」
私は軽く唇を突き出した。
「小説かな。」
「小説?」
「ああ、パルプフィクションみたいなものが好きだった。」
「おお、私も好きだったわ。スティーブン・キングの『ミザリー』。正直言えば、映画版で見たんだけどね。それ以外には?他に好きだったものは?」
「D&Dやコミック?ボードゲームも少しやったかも。」
「おお、完全にオタクじゃない。」
ジャックがにやりと笑い、私は軽く受け流した。
「それでも勉強は得意で、バスケ部の連中が小テストに合格できない時は手伝ってやったよ。」
「ぷはは!そうだそうだ、真面目な連中にはよく助けられたもんだ。」
「シン、君は勉強が得意だったんだろう?」
「ああ、得意な方だったよ。」
「私も勉強頑張ったんだけどな。」
「サマンサ、君が?」
ジャックがくすっと笑ってからかうと、サマンサがむっとした。
「何よ、それ。私が金髪の白人女だからって馬鹿にしてるの?」
「いやいや。それなら、なんで今俺たちのテーブルにはフライドチキンがあるんだ?」
「シンがKFCで買ってきたんじゃないか。バーテンダーに2ピース渡して許可もらっただろう。」
「Shin! How dare you...!」
「いや、そういうつもりじゃなくて。韓国ではこうやってチキンとビールを一緒に食べるって言うから買ってきたんだ。本当だよ。実際に美味しいだろう?チキン・アンド・ビア。」
私は軽く手を挙げて自分の純粋さを証明した。
金髪の白人女性は愚かだという偏見がある。
黒人はフライドチキンが好きだという偏見がある。
東洋人は親が勉強をたくさんさせるという偏見がある。
それぞれの偏見をネタにしてブラックユーモアを交わしながら、私たちは酒を飲み続けた。
私はパブの隅に置かれたテレビをちらっと見た。
ちょうどドラマの放送が始まり、私の視線の変化を感じたサマンサとジャックが後ろを振り返った。
『Dead man’s heaven』というタイトルのゾンビアポカリプスドラマだ。
サマンサがウォッカを一口飲んで口を開いた。
「これ、最近人気あるんだよね。」
「そうなの?どんな話?」
「主人公が妻をゾンビに噛まれて、それを治そうとする話。」
「は?治療してどうするんだよ。」
「まぁ、私だって旦那が噛まれたら治してあげないと思う。」
「······結婚もしていない君たちがそんな冗談を言うとはな。」
私が呆れていると、二人はクスクス笑いながらドラマを見始めた。
「主人公の俳優、すごくイケメンなんだよ。」
「新人だって言ってたよね?」
「うん、あの青い目が本当にヤバいよ。」
「······。」
「え?どうしたの、シン。あのドラマ、好きじゃなかったの?」
「うーん、まあ。」
私は曖昧に答えを濁した。
好きとか嫌いとか、そんなことを考える意味があるのだろうかと思った。
なぜなら、あのドラマの原作小説を書いたのは、他でもないこの私だったからだ。
***
ある時、真剣に考えたことがあった。
サマンサやジャックはなぜ過去を懐かしむのだろうか。
私が出した結論は単純だった。現実が厳しいからだ。年を重ねても、それぞれの事情で家庭を持てず、同じ日常を繰り返している彼らは、毎日が新鮮だった子供時代を懐かしむしかないのだろう。
しかし、私は違った。
サマンサやジャックとは違い、私は昔を懐かしむことはなかった。
私には彼らのように懐かしむべき思い出が「もう」存在していなかった。
私の幼少期は不幸から抜け出すためのもがきであり、嫌気が差すほどの貧しさから脱出するための抵抗だった。そして、いくら努力しても逃れられなかった差別を受け入れる過程だった。
韓国人マーケットを経営していた父は強盗の銃撃によって亡くなり、母と私はこのアメリカ社会に文字通り放り出されてしまった。このジャングルのような場所で生き残るために、私たちは何でもした。その過程で、今でも思い出したくない出来事も多々あった。
幼かった私は、ただでさえ苦労している母をさらに苦しめたくなかった。
だから、私は素直で模範的な生徒として過ごした。友達とも深く付き合うことはせず、勉強だけに集中して、できるだけ早く安定した良い職に就くために努力した。当時のアメリカ社会では、東洋人は自分の夢を追いかけられる存在ではなく、私たち家族はなおさらそうだった。
私が夢を見られるのはただ一瞬、小説を読んでいる時だけだった。
ひとり親の母親の良い息子だった私の唯一の逸脱。それがジャンル小説だった。
ソード&ソーサリー、ハードボイルド、ホラー、サイエンスフィクション、その他いろいろ。そんな小説を読んで、辛い日常を一時的に忘れていた。
小説は私にとって逃避だった。自由と夢を感じさせてくれる道具だった。
そして、時が流れて大人になった私は、近所の公立高校の英語教師になり、その頃には家の経済状況もだいぶ良くなった。しかし、反対に人生は空虚だった。職場と家、教会だけを繰り返して行き来する毎日だった。
ある日、ネットで古い中古の小説を販売しているサイトを見つけた。
その中で、高校生の頃に楽しんで読んでいた『ロナン・ザ・バーバリアン』と『ダークフォレスト』を見つけた私は、何かに取り憑かれたように本を買ってしまった。子供の頃、お金がなくて単行本を買えず、隔週で出る雑誌を自分で切って本のように束ねて読んでいた記憶が瞬時に蘇ったのだ。
その時から、私は「昔」の小説を集め始めた。
それだけではない。D&Dのルールブックやボードゲーム、コミックも一緒に買い集めた。それは失われた自分の幼少期への報いだった。そうやって少しずつ私の家の地下室にはコレクションが増え、私は変わった趣味だと思いながらも、小説を買い集めて読み続けた。
「今はそうでもないけどね。」
家に着くと、静寂と冷ややかな空気が漂っていた。
「ふう。」
酔いに任せて歩いた私は、地下室へと降りていった。
私の身長ほどある本棚が五つ。それには小説がぎっしり詰まっていた。
湿気を取るためにかけておいた除湿機の水タンクがどれくらい溜まっているか確認した後、私は古びたソファに身を預けて座った。
「こんなにたくさん集めた小説も、もう読まなくなってしまった。
ある時、この小説が自分のためのものではないと気づいたからだ。
大人になって再び読んだそれらの小説は、あらゆる人種的偏見やクリシェに満ちていた。
筋骨隆々の白人マッチョ、ロナンは邪悪な東洋の呪術師と戦い勝利し、ディテクティブ・ラムシリーズでは中国人の成金が厳しく叱られた。
ホラー小説では東洋文化が非常に偏狭に描かれていた。
私はもう、そんな小説を昔のような純粋な目で見ることはできなくなっていた。
マライア・キャリーに憧れたサマンサ・グリーン。
マイケル・ジョーダンに憧れたジャック・マロン。
しかし、東洋人だった私は誰にも憧れることができなかった。
『せいぜいブルース・リー?それともジョニー・ユン?』
酷い現実だった。
子供の頃、私を不当な現実から一時的に逃れさせてくれた道具が、実際にはその不当さを誰よりも煽っていたことに気づいた。
だから私は自分で小説を書いた。
それは幼い頃の自分を癒す行為であり、自分と同じような人々に手を差し伸べようとするもがきだった。
自分自身が思い描いた自分を作品に反映させた。
満足のいく経験だった。
私は日常では表現できなかった自分、もしくは理想的な人物像を作品の中に描き、非常に大きな満足を感じた。
そして、そうして書いた小説は運良く出版社の目に留まり、本になった。
韓国系アメリカ人を主人公にした私の最初のホラー小説は、インターネットの批評で「古臭い」と酷評され、無惨に失敗した。
それでも執筆をやめることはなく、出版社と交流を続けながら書き続けた。
2作目、3作目、そして執筆に対する愛が深まるほど、成功への欲望も強くなった。
そんな中、ある日編集者がこう言った。
『先生の作品はとても良いのですが、個性が強すぎるんですよね。なんというか、その個性に固執するあまり、重要な部分を見失っている気がします。もう少し多くの人が読める作品を書けば、きっと成功するはずです。』
そう言い残して、編集者は健康上の理由で退職した。
しかし、その言葉が妙に気になり、それ以降、少しずつ自分の色を抑えるようになった。
読者に感銘を与えたり、何かを変えようとする考えも消えた。
私はただ、他の人々が私の小説を買って読み、それによって自分にお金が入ればそれで良いと思うようになった。
その頃、気づいた。
小説家にとってお金は非常に重要な要素だと。
それは人々の評価が換算された結果だからだ。
そうして4作目、5作目、6作目を経て書いたのが『デッドマンズ・ヘブン』だった。
ドラマ化まで進んだほど成功した作品。
そして、シーズン1が放送されて以来、一般から大きな支持を得たこのドラマの主人公は「白人」だった。
大衆性をますます意識し始めた私は『デッドマンズ・ヘブン』では特に主人公の人種を明示しなかった。
名前も、様々な文化圏で通じるようなものにした。
小説としては問題なかったが、作品が売れてドラマ化される際に問題が生じた。
制作会社は白人俳優をキャスティングしようとしたのだ。
当然、私は反発した。
東洋人ではないにしても、白人ではないだろうと。
その意向を伝えたものの、制作会社側は契約内容を盾に私の抗議を無視した。
「作家の意向はできるだけ尊重するが、制作の都合に合わせる」という内容が彼らに強い力を与えた。
そして、私はすべての意欲を失ってしまった。
その時、完全に悟ったのだった。
私がどれだけ足掻いても、巨大なメディア産業は資本の論理で動く。
それに逆らうことはできない。
そして私もまた、お金のためにプライドを売り、その現実を受け入れた。
ドラマ化の影響で作品はさらに大きな成功を収めたが、それがすべてだった。
私は現実と妥協し、子供時代を侮辱する代わりに大金を稼いだ。
『それが何の意味があるんだ。』
もちろん、『デッドマンズ・ヘブン』の成功が、主人公が白人だったからだけではないだろう。
何作も書く中で、読者に自分の作品を読ませる方法を学び、その結果、自然に大衆的な物語が書けるようになった影響もあるだろう。
だが、コンテンツを作る人々は、今も白人の主人公が売れると考えている。
『さもなければ、白人を黒人に置き換えて出すか。』
東洋人は、いなかった。
アイロニーに苦笑しながら、私はゆっくりと目を閉じた。
もはや書く気力も失われ、粉々に砕け散った。
『それでも、もし後で。ひと眠りして、突然やる気が湧いたなら。』
この世に証明してみせたい。
私のような人間でも、スーパーヒーローになれるのだということを。
押し寄せる眠気の中、私はゆっくりと目を閉じた。」
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