AWAKENED 1-4

「あの」

 と、私は適当に選んだ『住人』の一人に声をかける。

 意思疎通さえ取れればセーフ。『その人』は脱・住人。『私』と同じ側。全員がそうだったら不安は杞憂で事態もずいぶん楽になる。

 と、淡く期待した。

 思ってた通りの結果すぎてなんにも驚きがない。『その人』は後ろから来て前に行くだけで私の声にはピクリとも反応しない。

 そう。そういう世界観なんだここは。ううん。それでも試す価値はあったよ。と、無理に納得でもしないとやってらんない。

 じゃ、念のためもう一つ、と私は後ろから来た新たな『その人』に呼びかける。今度は手振りも加えてみる。結果、淡い期待が『案の定』の色に塗り替えられる。誰しも『駅から徒歩五分』のその他大勢の一律の速度を弛ませない。

 彼らには私が見えてない、聞こえてない。

 ああ本当に外側だけ。なんもかも外側だけ。安っぽいゲームだな、くそ。

 笑っちゃう話だ。こんなことが現実に起こるなんて。『SAW』とか『CUBE』みたいなさ、『バトルロワイヤル』とか『GANTZ』みたいなさ、ぶっとんだデスゲームに巻き込まれてる。

 って。ああ。なんでこんなくだらないことは覚えてるんだろ。自転車もわからなかったくせに。自分の名前も知らないくせに。

 映画、好きだったのかな。

 いや。

「だったのかな、なんて言ってる時点でね」と私は自嘲する。

 皮肉っぽい視線を地面に落とす。黒い地面。そこにはマンホール1つさえ見つからない。

 それでも靴裏にはしっかりアスファルトの感触がある。踏みつければ硬い。

 虚構のような現実が広がってる。

 ため息をつく。見上げる。そして見つめる。地平線の先。

「ま、ゲームだと思えば気は楽か」

 しょうがない。行くしかないんだね。ここに立ってたってスタッフロールは流れないんだろうし。エンディングはご自分の目でお確かめください、ってノリだなこれは。

 じゃ、ゾンビさん。ご一緒失礼します、よ、と。

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