PARADIGM ONE : A+Q+I

内谷 真天

PROLOGUE

 知らなかった。

 何を? 僕は何も知らなかった。

 僕? 僕って? わからない。

 なんて暗い場所なんだ。こんなに暗い場所、僕は知らなかった。

 暗いよ。

『もっと光を』

 これって誰だっけ? わからない。知ってたことが溶けてく。何も知らなかったのに。何が溶けてくの? わからない。どこに溶けてくの? この場所。暗い場所。

 暗いよ。窮屈だ。身動きできない。もっと自由になりたい。

 でもあったかい。なんだかほっとする。静かだ。

 いっかな。このままでも。

 暗い。狭い。

 なんでこんなとこにいるんだっけ。覚えてないや。

 覚えてない? なんだっけそれ。わかんない。

 あったかいからいいや。狭いけど。狭いな。狭いのはちょっとやだな。動けないもんな。静かだな。

 早くここから出たい。出るってなんだっけ。わかんない。

 どうすれば出られるの? 待ってればそのうちか。そうだね。そういうものか。そのうちっていつ?

 気にしなくていっか。寝よう。暗いから。あったかいから。

 守られてんだな僕。

 出たらうるさいしな。寒いしな。ずっとここにいればいいかも。

 ああ。じれったいな。動けないもん。あったかいな。

 待ってればいいや。待ってる時間も過ぎれば一瞬だもん。一瞬? 時間? 待ってればいいや。すごく安心できる場所。

 あったかい。

 温かいな。

 あったかい……あったかい……

 ……ああ、うん。なに?

 そろそろ?

 そうなんだ。そろそろか。うん。そんな気する。

 いよいよ。だね。

 長かったな。長かったっけ。長かったよ。覚えてないけど。あっという間だった。長かったな。

 なんだかいつもとちがうね。

 なにがちがう? 変わんないな。こんなにちがうのに。

 出られるんだ。変わっちゃうんだ。

 ああ。やっとだ。こわいな。

 明るいな。なんだろ。明るいよ。

 これ、懐かしい。

 戻れるんだ。

 もっとだよ。もっと明るくなくちゃ。そんなんじゃ通れない。

 うん。そう。そのくらい。もっとだよ。

 まぶしいな。あんなに暗かったのに。

 出られるんだね。出ていいんだね。やっとだね。

 光。光だ。

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