第7話 私が彼のためにできること
「まずは……」
一つ目。
会うのは必要な回数のみに留め、お茶会はなし。最低限とすること。
結婚することは確定事項なのだし、うちの家族とは上手くやっているのだからそこはきっと覆らないという前提でいいと思う。
今のところ彼は私を好きじゃないけど嫌いではないはずなのだ。
媚薬に冒された私に触れることができたのだから、おそらく結婚さえすれば義務として閨を共にすることは可能。
ならば今よりも心証を悪くしない振る舞いが求められているはず。
さすがに今後のことを考えて必要と思われる夜会などではエスコートをお願いするにしても……贈り物も控えた方が良いかしら。
(そうよね、金銭的に伯爵家の権威をひけらかしていると思われていたかも)
二つ目。
贈り物は必要最低限。
これまでは記念日や必要な夜会などで贈り物を交換する日以外にも私はプレゼントをしていた。
あくまで自分が使える範囲内のお金を遣り繰りして、だけど。
キリアンに似合いそうだなとか、喜んでくれたら嬉しいなってそういう気持ちだったけ
(そういえば一度だけ『伯爵家は裕福ですね。……婚姻後は、今と同程度の暮らしはお約束できませんがそれでも大丈夫ですか』って聞かれたことがあったっけ)
あれも今考えれば、きっと世間知らずを妻に迎えることに対して不安を感じていたんだろうなあ。
書き出してみるとすぐにはまとまらない。
やっぱりこうして考えを整理することは大事だなと改めて思う。
三つ目。
手紙も控える。
私は別に返事を求めていたわけじゃないし、婚約者同士のコミュニケーションの一つとして手紙を……と思っていたけれど、よくよく考えたら彼は平民の騎士として忙しく働いているのだもの。
貴族として一般的なやりとりだって言われても、迷惑よね。
特別意味がある内容ってわけでもなかったし……はあ、私って最悪ね……。
四つ目。
夜会やパーティーでは挨拶回り以外一緒にいない。
いずれ結婚した時のためにアシュリー家と繋がりのある貴族家の方々へキリアンを連れて挨拶に行くのは、基本的に当主であるお父様のお仕事。
私はキリアンの隣で基本的には微笑んでいろと言われていることなので、こればっかりは離れるわけにもいかず面倒をかけるなと思うけれど……。
でもその代わり、挨拶回りさえ終わってしまえば後はキリアンを自由にしてあげよう!
きっとお兄様が友人を紹介しているだろうし、気楽におしゃべりしたいと思うもの。
普段だと私といてくれるけれど、楽しくなさそうだったもの。
私は隣にいられて嬉しかったけれどね!
五つ目。
肉体的接触は夜会のエスコートのみにすること。
(……もしかしたら、それすらもあの夜のせいで気にしているかもしれないものね)
あの夜会での出来事は、私にとっても思い出したくないことだけど……キリアンにとっても衝撃的だったろうなと思うのだ。
媚薬のせいで私もキリアンにはしたなく強請る姿を見せて幻滅されてしまった気がしてならない。
好きでもない女に……というか妹同然の女にそんなことを言われても困っちゃっただろうなと思う。
結婚式までやってしまえば実感も湧いただろうに、本当に私の脇が甘いせいで迷惑をかけたなと反省するばかりだ。
(まあ、あの夜のおかげで私もキリアンとのことをこうやって見直せるようになったのだし、悪いことが転じて良いきっかけになったと思わなくちゃ……)
とりあえずあれこれ考えてみたものの、すぐに実現できそうな内容はこの五つだ。
いつまでも起きているとナナネラが気づいて覗いてくるかもしれないし、今日はこのくらいにしておこうと私はペンを置いたのだった。
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