また君に出会うまで
なゆお
また君に出会うまで
「準備、出来た?」
「うん」
「じゃあ行こう」
「うん」
「手、繋ぐ?」
「…うん」
「エヘヘー」
東北地方のどこかの、県庁所在地であるここは、都会程ではないがかなり栄えている。
空気が美味しいので、1度来て空気を吸ってみてほしい。
隣で手を繋いでいるのは、僕の彼女。
坂田 鈴。
ついでに僕の名前は
佐藤 陽斗。
1番多い苗字ランキング1位と1番多い呼び名ランキングで組み合わさっている。
ソースは親とネットである。
つい1ヶ月前。鈴から「私…上京するんだ」
と告白された時は叫び狂いそうになったのだが、それは僕のキャラじゃないから止めておいた。
「そう、寂しくなるね」
「陽斗は?」
「僕はそんなお金も知恵を無いからな。故郷の為に馬車馬のように働くよ」
「無理に働かないでね。最近、ハラスメントとか労働に対して厳しいんだから」
「分かってる。それこそ鈴は東京へ何をしに?」
「仕事。私、前から言ってたでしょ」
「そういえばなぁ…」
アニメ系の会社と言っていたっけ。
そういえば、鈴は絵が美味かったな。
詳しく見なかったが、何かしら賞を、取ったくらいだからめっちゃくちゃてか、東京の人でもビビるくらい絵上手いのでは無いのだろうか。
ちなみに僕はイラストも好きだけど洋画や風景画なども好きである。
ちなみのちなみに僕はそんなに美術に詳しくない。
1番好きなのは自然という美術である。
「アニメ会社?」
「そうそう。結構有名な」
「どこ?」
「著作権があれだから」
「そういうのも厳しくなったな」
「確かに」
そんな他愛もない話も、もうこれで終わりだと思ってしまうと急に口が重くなった。
なんて言えばいいのか分からない。
「今までありがとう」
とか、
「愛してる」
だの、僕は気が利いた事は言えなかった。
それよりも、
「行かないで」
という、願望だけがあった。
僕達が出会ったのは、三年生の夏。
僕は、かけがえの無い日になった出来事を思い出した。
『
夏休み。
多くの人はそんな休みの日に浮かれている中、僕はいやいや学校へ来ていた。
部室へ行くと、そこにいたのは勉強道具を広げて頭を悩ましている女子生徒だった。
僕は彼女の席の遠くに座った。
まぁ、部室だから対角線ぐらいの所にだが。
僕は本を読み始めて数分後突然、
「ねぇ、ここ答え教えてくれない?」
と彼女が言ってきた。
本に集中していたのと、彼女の気配が一切無く、話されたのでびっくりして、
「うわ!?」
と声が出てしまった。
びっくりするものは嫌いだし、彼女はかなりの至近距離から話しかけてきたので、仕方なかった。
「何でそんなに驚くの」
と不機嫌そうに言われてやっと、喋る事が出来た。
「す、すみません!」
「別にそんな怒ってないからいいよ」
と彼女は許してくれた。
「で、ここなんだけど…」
「あぁ、そこはこの公式を当てはめて…」
「ふむふむ。なるほど、分かったよ!ありがとう!」
「あ、うん」
…。いや、うんって何だよ!
どういたしましてとかだろ!
はぁ、コミュ障には人と話すのは早かったな。
「ねぇ」
また彼女が声をかけてきた。
今度は彼女の席に座りながら
「な、なに?」
「勉強教えてくれない?」
「えっ?」
「さっきの所、結構難しい所だったからさ。君、もしかして頭いいでしょ」
「いや、そんな事ありません」
「じゃあ、学年順位何位なの?」
「102位です」
ちなみに163位中である。
「えっ!?私より低いじゃん!?て、点数は?」
「250です」
ちなみに500点中である。
「えぇっ?そんな事ある?」
「だから止めた方がいい」
「いや、何でさっきの問題は解けたの?」
「と、得意な所なんだよ」
「じゃ、じゃあこれは?」
と言って彼女は問題用紙を見せてきた。
答えを言うと、次の問題を出してくる。
僕は「分からない」と「答えは…」
の2つで答えていた。
「す、凄い…。これ大学入試のやつなのに、ほとんど解けてる…!」
はめられた!
高校のやつかと思ったのに…!
「なのに、テストの点数が低いの?君ならもっととれるよ!」
「…」
どうする?あの事を話すか?
いや、話しても無駄だ。どうせ、昔みたいに…。
「いろいろ事情があるんだよ…」
「それ、あんまり話したくない?」
「…うん」
「じゃあ、聞かないよ」
「えっ?」
「その代わり、勉強教えてよね。」
「うん。ありがとう」
「こちらこそ、教えてくれてありがとう」
「まだ、教えてないじゃん」
「そうだった」
クスッと笑ってそう言った彼女の表情にドキッとしてしまった。
「そういえば、君の名前は?」
「佐藤 陽斗」
「私の名前は、坂田 鈴。よろしくね。陽斗君」
「よろしくお願いします」
「そうそう。陽斗君、それやめてよね」
「それって?」
「時々敬語になるの」
「あぁ、ちょっと難しいそうです」
「です?」
「ご、ごめん。でも、コレで慣れてたから…しばらくは抜けないかも」
「そういう事ならいいよ。でも、いつかきっと敬語を完全に無くしてあげる!」
「お手柔らかに…」
そうして僕の不思議な夏休みが始まった。
翌日。
「そういえば、陽斗君は、何で学校にいるの?」
「…うちの部活、部員少ないだろ?」
僕が今入っている部活は文芸部で、部員は、今ここにいる僕と坂田。他に、部長と、部員が2人程度いる。
「ただでさえ、部員が少ないから夏休みとかも活動しなきゃ廃部になるから」
「他の人達は来ないの?」
「うん。部長は元々やる気が無かったし、他の部員は、1人はスポーツのクラブに行くために入ったし、もう1人は彼女との時間を大切にしたいって言ってたから、僕がやらなきゃって思ったんだ」
「ふーん?じゃあ何で私が来ないかと思ったの?」
「思ったっていうかさ…。女子だったから聞きずらかっただかだよ」
「…童貞?」
「ブフッ!」
余りにも率直な言葉が飛んできたので思わず吹き出してしまった。
「その反応…。本当にそうなんだね」
「へ、変な事言うからだよ!」
「でも、わかり易すぎない?」
「もうこの話は終わりにしよう」
「そうだね。可哀想だし」
「…」
言い返したいが言い返せないのが僕の弱い所だ。
「で、勉強教えてくれるんでしょ!早く教えて!」
「分かりました…」
その日は勉強を教えた
3日目…。
「そういえば陽斗君は夏休み何かしないの?」
「そっくりそのままお返ししますよ」
相変わらず、言葉が尽きないな。
そう思いながら1席空いた席にいる彼女を見る。
「ほら、私勉強で忙しいし」
「友達がいる人は普通遊びに忙しいんですよ」
「そっくりそのままお返しするよ」
お返ししてしまった。しかもかなり攻撃力が高い。
「まぁ、僕は友達いませんし。でも、坂田さんは友達いそうですけど、どうしてなんですか」
「…私はね、大学へ行こうと思ってるんだ」
突然の鈴の告白。その声は何処か震えていた。まるで、不安かのように。
「でも、私はバカだから、落ちるかもしれないの」
「…」
「だから、勉強してる。友達も私を、私の夢を、応援してくれてるの」
部室の窓から、暖かい太陽が僕たちを照らした。
そして、深呼吸してハッキリと言った。
「だから落ちる訳にはいかないんだ」
「…そうだな」
そこからは無だった。
言葉も、音も、時の流れも、
何も、無い。
4日目
「…」
「…」
今日も今日とて虚無だった。
…空気を、壊さないと。
「あの、」
「ん?」
「すみません。昨日は、不躾な事を聞きました」
「…いいんだよ。それに、気にしてないし」
鈴はニッコリとして言った。
どうやら本当に気にしていないようだ。
「気になる事と言えば、私陽斗君に言ったよね。敬語使わないでいいよって」
「あ、あぁ。何ですかね…。クセっていうヤツですよ」
「むー、じゃあ今から敬語と坂方さん呼び禁止!」
「えっ!今から!?」
「そうだよ!慣れて!」
「無理ですー!」
「やらないと𓏸𓏸するよ」
「ヒエッ…」
18日目…。
あれから2週間。
僕は、敬語を止め、坂田さん呼びから鈴呼びになった。
本当に色々あった…。
思い出したくもない。
だが、鈴と遊べるような仲になれた。
休憩と称し、遊園地に行き、映画館に行った。
今日はまた、鈴を遊びに誘った。
「って、ゲームセンターにするの…?」
「そうだ。適度な遊びはストレス発散になるんだよ」
「でも、週3で遊んだよね。絶対にそれ適当に言ってるよね」
「いいんだよ」
「えー」
数十九後
「キャー!楽しい!」
「またか」
彼女はどうやら好きになったものは極度に楽しめるようで、その時にスイッチが入ってしまう。
「まぁ、付き合うか…」
数時間後…。
「いやー、楽しかった楽しかった!」
「それは何より」
「脳汁ドバドバだよ!」
「脳汁って…」
「とにかく楽しかったよ!」
電車に揺られながら彼女は言う。
ガタンゴトンと音がし、プーと音がする。』
「どうやら、行かきゃみたいだね」
電車が来て、
ガタンゴトンと音がし、プーと音がする。
「今までありがとう。陽斗君のお陰で色んな事を知れたよ」
「…」
「やっぱり何も変わらないね」
『
「やっぱり何も変わらないね」
「…何が?」
「私の事を第一に考えてること」
「そう?」
「クマ出来てる事に気が付くし、ストレス発散させてくれるし」
「勘違いだよ」
そう言っている間に電車が止まる
』
「昔から、大切な1歩を踏み出せないこと。女かって思うぐらい」
その一言の間で電車は駅に止まる
彼女の手が離れる
『
彼女は僕の手を繋ぎ、手を引いた。
電車を出て彼女は、言った
』
電車に乗る前彼女は言った。
あの時と一緒の事を
『好きだよ』
「好きだよ」
『…』
「…」
僕は泣いていた。
いつもそうだ。
過去も。今も。多分、これからも。
泣いていい場所でも雰囲気でもないのに。
『なんで泣くのさ』
「だって、だって!」
「そんなに別れが辛いの?」
『そうに決まってるだろ…!』
『嬉しい。私も付き合えて、嬉しいよ。陽斗君みたいに泣きはしないけど』
「うるさい…止めてくれ」
「なんで?流石に別れの時ぐらい笑顔でなきゃ」
『…そうだな』
「またな」
『これからよろしく』
『こちらこそ』
「またね」
後ろで電車が交差する。
どうやら、ここが終わりで、同時に始まりでもあるのだろう。
彼女が去っていく。
僕にとって彼女は日常となっていた。
でもその日常も奪われる。
どれだけ辛いことがおきようと、もっと辛い事が起こるまでそれが大切であり、幸せである事に気が付かない。
人間は失ってから初めてそれの大切さを気がつくのだ。
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