第53話 バカンスへ
バカンス。
なんと甘美な響きだろう。
しかし、残念ながら夏の長期休校に関しては予定がある。
ギャラード家が所有する山の別荘へ行こうと考えていたのだ。
「学園長、実は夏の長期休校は――」
「宿の近くにある綺麗な砂浜は貸し切り状態なのよ。あなたのお友だちも水着姿になり、時間を忘れて楽しめるでしょうね」
「謹んでご招待をお受けいたします」
――はっ!?
俺としたことが、水着姿というワードにあっさり釣られてしまった。
それにしても……気になったのは学園長の表情が。
俺がバカンスに行くと口にした瞬間、目がキラッと光った気がする。
言葉を発してはいなかったが、あえてセリフをつけるならば「計画通り」だろうか。
心なしか、顔もあくどいものに変化していたような?
「それじゃあ諸々の準備はこちらで済ませておくよ」
「えっ? あっ、はい」
流れで返事をしてしまったが、正直、南の島でのバカンスが楽しみになってきた。
その後、学園長からバカンスに招待する生徒の名前を知りたいということで、とりあえずルチーナ、コニー、クレアの三人の名前をあげておく。
「となると、あなたを含めて五人となるわけね」
「五人? 四人では?」
「わたくしもお忘れでなくて?」
冷静にツッコミを入れたらまさかの咆哮から新規参入の声がかかる。
「ト、トリシア会長もですか?」
「あら、不満ですの?」
「そんなまさか」
まあぶっちゃけ、会長さんの水着姿も拝んではみたい。
たぶんだけど、めちゃくちゃ露出度の高い水着を持ってきそうな気がする。
「招待する南の島というのは、彼女の実家であるハートランド家が所有する島なの」
「わたくしも毎年利用しているんですの」
「なるほど。そういうわけですか」
だとしたら、うちの別荘とはスケールが違うな。
何せハートランド家はこの国を支える御三家のうちの一角。
ゴージャスさで太刀打ちできるところなんかそうそういないだろうからな。
「セキュリティー面も万全ですから、安心なさい。たとえ敵がどんなに強力な魔法を放ってきても、わたくしが握り潰して差し上げますわ」
凄い。
魔法って握力で相殺できるんだ。
……それを可能としてしまう人間は世界でもトリシア会長ぐらいだろうな。
とりあえず、バカンスへの招待を受け取った俺は、予定している同行者たちへ事態を知らせるべく、一旦学園長室をあとにした。
◇◇◇
学生寮へ戻ると、すぐさま談話室へと移動。
ここでコニーとクレアのふたりが一緒に課題へと取り組んでいた。
念のため、ルチーナに彼女たちのそばで待っているよう伝えておいたのだが、おかげで招集する手間が省けてよかった。
「あっ、レーク」
「レーク様!」
俺の姿を視界に捉えると、パタパタと駆け寄ってくるふたり。
まるで主人の帰りを待っていた子犬みたいだ。
そんな彼女たちにバカンスの件を告げると、声を揃えて「行きたいです!」と元気のいい返事が。
「クレアちゃん、今度のお休みの日に水着を買いに行こうよ!」
「そうね。楽しみだなぁ」
こちらの想定以上にテンションが上がっているふたりだが、対照的にルチーナは少し表情が暗くなっているような?
「海は嫌いか?」
「レーク様……」
そう尋ねると、ルチーナは複雑そうな表情を浮かべる。
しばらく沈黙を保っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「ハートランド家が所有するリゾート地ですが……実を言うと、王都で鍛冶職人をしていた頃からあまりいい噂を聞かないのです」
「そうなのか?」
「はい。もっとも、証拠らしい証拠はなく、ハートランド家に恨みを持つ者が広めた根も葉もないデタラメという可能性も十分あり得ます」
大喜びしているふたりに気を遣ったのか、そう付け加えるルチーナ。
「教えてくれてありがとう、ルチーナ。その情報が頭に入っているかいないかで対応は大きく違ってくるからな」
「レーク様……何があっても私が守りますので、どうかご安心を」
そのセリフ、さっきトリシア会長にも言われたんだよな。
まったく……俺の周りは頼りになる女子が多すぎるよ。
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