第45話 決闘前日

 三日という期限はあっという間に過ぎ去った。


 その間、生徒たちの間では俺とウォルトンの決闘についていろいろと囁かれていたが……どうも尾ひれがついて広まっているらしい。


「レーク・ギャラードはどうもウォルトン・メルツァーロの妹をかけて決闘に挑むらしい」

「妹なんていたのか?」

「なんでも、ヤツとはかつて婚約者関係にあったらしいぞ」

「じゃあ、この学園に入学してきたのもその元婚約者が忘れられないからか?」

「そしてその破談には兄の影が……」


 いろいろと飛躍しすぎていてどこからツッコミを入れていったらいいか分からんな。

 まず俺とクレアは婚約者という間柄ではなかった。


 両親はどうも将来的にそうさせるつもりだったらしいが、メルツァーロ側がやんわりとお断りしてきたらしい。

誘拐事件をきっかけに他者とのかかわりを断とうとしていたらしいクレアの意向を汲んだ形ともとれるが……怪しいものだな。


 あと、そんな噂がまことしやかに囁かれるようになってからコニーの御機嫌がいまいちだった。

 以前送った魔封石の指輪についても左手の薬指に着用するのは控えてくれと伝えていたのだが、最近になってこっそりと付け替えている時がある。


 ルチーナにもそれとなく注意をしてくれるよう頼んでおいたのだが、「承知しました」と死んだ目で答えていた。

 あれは絶対止める気がないな。


 ……まあ、いい。


 すべてはクレアを救いだすため。

 そしていよいよ決闘前日――誓いの儀式の日を迎えた。



  ◇◇◇



 王立フォンバート学園生徒会室。


 決闘を行う生徒はここで互いに誓いを立てるのがしきたりとなっている。


 俺の陣営はコニーとルチーナ。

 向こうは十人以上の女生徒を連れての登場となった。


 ……なんか日に日に数が増してないか?


「随分と大所帯ですわね、ウォルトンさん」

「なんなら生徒会長さんも加わりますか?」

「遠慮しておきますわ」


 御三家の御令嬢相手になんて態度だ。

 彼女たちと対等な立場でいるつもりらしいが、そうやっていられるのも妹であるクレアを監禁し、その知識と技術をまるで己の実力であるかのように使っているからこそ成立しているのだ。


「……哀れだな」

「っ! 何か言ったか、レーク」

「いえ、すいません。ついつい本音が口をつきました」

「なんだと?」


 ウォルトンの眉がピクッと反応を示す。

 実に分かりやすいヤツだ。

 というか、煽り耐性がなさすぎないか?


「妹の威を借りなければ何もできないあなたでは、俺に勝つなど不可能というわけです」

「っ! て、てめぇ!」


 さすがにカチンと来たのか、声を荒げるウォルトン。

 それをトリシア生徒会長に制止されて大人しくなるが、図星を突かれたのは明らかだな。

 周りの女生徒からも反感を買ってしまうも、ここまでは予定通り。


 ヤツが想定以上に煽り耐性が弱いというのも俺にとっては大きな追い風となる。


 その後、改めて互いの条件を提示。


 俺は妹であるクレアを自由にする――と、しているが、この条件だとウォルトンがクレアを拘束していると暗に認めたこととなるため、俺は「クレアの希望を聞き、彼女の望むままの学園生活を送らせる」とした。


 これに対し、ウォルトンは自分を侮辱した俺への退学処分とクレアに二度と近づかないという条件を出してきた。


 貴族の御子息や御令嬢が相手ならば受け入れられない条件だろうが、俺はあくまでも一般人という立場。

 すんなりと学園から許可が下りる。


「明日が楽しみですね、ウォルトン先輩」

「そいつはこっちのセリフだ。吠え面かかせてやるからな。今のうちに荷造りをしておくんだな」

「荷造り? それはむしろあなたの方が必要なのでは?」

「何っ?」

「俺が勝ったら、この学園にはいられなくなるでしょう。クレアが何を望むかは目に見えていますし。そうなればもう学園にはいられなくなりますよ?」

「はっ! てめぇはクレアのことを何も分かっちゃいねぇな。あいつはもう書庫から出ようとはしない。自ら希望してあそこにとどまっているんだ」

「それもすべて明日の決闘で事実が明かされます」


 俺とウォルトンの間で弾け散る火花。


 互いのすべてを賭けた決闘を前に、ボルテージは最高潮に達していた。


 

 ◇◇◇



 一方その頃――同時刻。


 交易都市ガノスにて。


「ただいま、シスター・フィノ」

「おかえりなさい、アルゼさん。首尾はどうですか?」

「もうバッチリ! 用意しておいたメルツァーロ家の資料はルチーナさんに渡せたし、きっと今頃はレーク様の手に届いているんじゃないかな」

「よかったですね。これなら学園での決闘も有利に進められるでしょう」

「あたしなんかの情報がなくてもレーク様なら勝てそうだけどねぇ」

「そうかもしれませんが、レーク様があなたの力を必要してくださったのですから。その期待には応えませんと」

「分かっているって。それより、レーク様の素晴らしさを布教するための冊子が完成したって本当?」

「はい。今度の集会で配ろうと思っています。ギャラード商会ガノス支部の方々も手伝ってくれるそうですよ」


 レークの知らないところで、彼の名は世界に羽ばたこうとしていたのだった。

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