第43話 クレアの本心
「私……また昔みたいにあなたと過ごしたい……」
「できるさ」
本心から俺は彼女に伝える。
だが、クレアはそれを否定するように首を横へと振った。
「でも無理なの……お兄様が――いいえ。メルツァーロ家がそれを許さないから……」
「なぜだ? なぜ君の家族が俺との仲を制限するんだ?」
「私はお兄様の影だから……お兄様のために魔草薬を作り続けるだけしか価値のない存在だから……」
「っ!?」
……これはひどいな。
彼女の優れた才能を独占し、あまつさえ自らの実力であるかのように振る舞う。そのためには外部との接触を徹底的に排除するため洗脳まがいなことまでしている。
クレアは幼い頃に誘拐されて対人恐怖症となったらしいが……ひょっとすると、それ自体も仕組まれたものだったんじゃないか?
すべては努力もせずに優秀な力を手に入れて周囲からチヤホヤされようとするあの愚兄の策略である可能性も出てきたな。
――ただ、クレアはハッキリと言った。
以前のような関係に戻りたい、と。
それがあのクソ兄貴によって妨害されているというなら、それを排除してやる。
彼女のような優秀な才能を眠らせておくのは大きな損害だ。
商人として、それは見過ごせない。
「……待っていろ、クレア」
「えっ?」
「俺がヤツを止める」
「ダ、ダメだよ! お兄様に目をつけられたら何をされるか!」
恐らく、メルツァーロ家の名前を駆使して何かを仕掛けてくるだろう。
うちの商会との契約を打ち切るとか、その手の話を持ってくるかもしれないな。
だが、そんなものは些末な問題だ。
「構わない。俺にとってはこのままおまえとのつながりを失ってしまう方がよほど耐えられない」
「えっ……?」
「おまえにはいずれ我が商会の力になってもらわなくてはいけないからな」
あの愚兄よりずっと話の分かるクレアが聖院の院長になってくれた方が商談もまとまりやすいだろうし。
「おまえはここで待っているがいい。俺がヤツと――ウォルトンと話をつけて必ず迎えにやってくる。その時が来るまで、おいしいハーブティー用の茶葉でも育てておいてくれ」
「レーク……うん! とびきりおいしいのを用意しておくね!」
クレアはまさに花が咲いたような明るい笑顔を見せてくれた。
やはり彼女はこうでないといけない。
曇った顔をしていては彼女らしくないからな。
◇◇◇
翌日の昼休み。
俺は多くの生徒たちで賑わう学生食堂へやってきていた。
テラス席には今日も多くの女生徒を侍らせたウォルトンが我が物顔でふんぞり返っている。
そんな彼のもとへ真っ直ぐ歩いていく。
「あん? レークか? 一体何の用だ?」
先ほどまで女生徒から「あーん」されてご満悦だったウォルトンの顔つきが一瞬にして険しくなる。
それほどまでに俺はヤツにとって都合の悪い相手らしい。
ならば、さらに都合の悪い男となってやろうじゃないか。
「ウォルトン・メルツァーロ……俺はあなたに決闘を申し込む」
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