第41話 嘘
クレアの説得に乗り出した俺たちはあの書庫の前に立ち――途方に暮れていた。
「応答はなし、か」
何度か呼びかけてみたが、クレアからの返事はなかった。
トリシア会長は扉を開けようと以前のように身体強化魔法を使って挑戦してみるが、やはりびくともしない。
ただ、会長は「これだけは言っておきますわ」と俺たちに伝える。
「フルパワーで挑めば開けられるとは思いますが、その場合、書庫を残して図書館全体が崩壊しますわね」
もはや魔法が使えるゴリラじゃねぇか。
……まあ、それは置いておくとして……どうしたものかな。
策を練り直すため、生徒会室へ戻ろうとした、まさにその時だった。
「おやおや、トリシア生徒会長殿にレーク・ギャラード御一行。もしかして、クレアへ会いに来たのですか?」
わざとらしいセリフとともに登場したのはウォルトンだった。
「ウォルトン先輩、ちょうどいいところに。クレアにここを開けてくれるよう兄であるあなたからも説得をしてくれませんか?」
俺がそう言うと、ウォルトンはゆっくりと首を横へ振った。
「残念ですが、それはできかねますね」
「何ですって?」
あっさりと断られたことで、トリシア会長も不信感を持ったようだ。
一方、ウォルトンは事情を説明していく。
「あの子が幼い頃に誘拐された経験から、他人との接触を極度に怖がっているというのは御存知ですよね?」
「えっ? 誘拐?」
それは初耳だった。
もしかして、クレアと疎遠になったのはそれが原因なのか?
「おや、レークは知らなかったのか?」
「え、えぇ」
「君の父上には話が言っていると思うが……きっと配慮してくれたのだろう。幼い頃から付き合いのある君や信頼できる生徒会長殿なら話せたかもしれないが、学園内ではもう家族である俺以外には怯えてまともに話もできないんだ」
それは嘘だな。
なぜなら、クレアは人を怖がるどころか元気になったコニーと仲良さそうに話し込んでいたからだ。
きっと彼女から俺と会ったと聞かされ、それまでの彼女の学園での過ごし方から俺以外の人間とは言葉を交わしていないと判断してああ言ったのだろう。
……やはり、この男の言葉は信用できない。
誘拐のくだりについてはちょっと調べればすぐに嘘だと分かるので、これについてはあとで確認もしておくが、恐らく事実だろう。
俺とクレアを引き離したがっている。
そんな意図が透けて見えるな。
ウォルトンはさらにこちらの不信感を煽るような発言をする。
「最近になってあの頃のことを思い出したのか、ちょっと精神的に不安定となっているようでして……できれば当分の間、会うのを控えていただきたいのです」
ついに面会拒絶と来たか。
随分と露骨な手を使ってくる。
「……分かりました。戻りましょう、トリシア会長」
「っ! で、ですが――」
「お騒がせしました、ウォルトン先輩」
「いや、こちらこそすまない。あの子が元気になったら、また会ってやってくれ」
「はい。それでは失礼します。いくぞ、コニー、ルチーナ」
「かしこまりました」
「えっ? えっ? レ、レーク様!?」
「お待ちなさいな!」
ルチーナは大人しく俺についてきたが、コニーとトリシア会長は不満があるらしい。
――当たり前だが、素直に従ったわけじゃない。
こちらにはこちらで策ってものがあるのだ。
図書館を出て少し歩いてから、俺はトリシア会長と話をするため足を止めてから振り返る。
「会長……少し質問をしてもよろしいですか?」
「質問? 急になんですの?」
「クレアとコンタクトを取るために必要なんです」
「っ! やはりあっさり引いたのにはそれなりの理由がありましたのね」
「当然じゃないですか」
彼女は我が商会の繁栄においても欠かせない優秀な人材だ。
このまま書庫で眠らせておくにはもったいなさすぎる。
ましてやあんなロクデナシの使いっぱしりみたいな立場で終わっていい子じゃない。
少し学園の決まりを破ることにもなりそうだとトリシア会長へ伝えたら、「わたくしの目の前でやらなければバレませんわ」と実に頼もしい言葉を残してくれた。
「レ、レーク様! 私もお手伝いします!」
「私も何かお力に」
「いや、今回はあまり大人数では動けない。俺が単独で行く。ふたりは成功を祈って待っていてくれ」
コニーとルチーナは協力を申し出てくれたけど、今回に関しては強い誰かと戦うわけではないし、ひとりの方がやりやすい。
さて、そうと決まったら知りたい情報を会長から聞き出してすぐに動くとするか。
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