第22話 高度(?)な心理戦

 情報屋アルゼが仕掛けてきた心理戦。

 俺はそれに真っ向から挑む。


「分かった。では金貨十枚を払う」

「はあ!?」

「足りないか? では倍の二十枚を渡そう」

「ちょっ!?」


 さすがに焦りだすアルゼ。

 一転攻勢とはまさにこのことだ。


 どうやら最初から金貨十枚をもらうつもりなんてなかったようだな。

 その気があれば、目の色を変えて手にするはずだし。


「どうした? 俺はおまえの情報を信用している。その対価を払っているだけだが?」

「だからってやりすぎじゃない!? あんた商人なんでしょ!? もうちょっと人を疑うとかしなよ!?」

「無論だ。君の言うように俺は商人。商人は利益を得るために人を選ぶ。そして選んだ結果がこの金貨二十枚なんだ」

「あう……」


 金貨二十枚は一般的な国民の年収に相当する。

 いざって時のために父上から渡されていた金だが、こんなところで役立つとはな。


 だからこそ、彼女は嘘の情報を俺に与えられない。

 ギャラード商会が総力をかけて潰しにかかる――そういうプレッシャーをアルゼは肌で感じているはずだ。


 俺の手の平に乗せられた金貨二十枚を目の当たりにして、ついにアルゼはギブアップ。


「わ、分かった! うちの負け!」

「負け、というのは?」

「最初の条件を訂正する。今度の情報も銅貨三枚――いや、欺こうとした罰として無料サービスさせてもらうよ」

「気前がいいな」

「ふふっ、あんたに言われたくないよ」


 今度はさっきよりも分かりやすく笑うアルゼ。

 やはり可愛い子には笑顔が似合う。

 物憂げな表情だったり怯えた表情などいらないのだ。


「いい笑顔じゃないか、アルゼ」

「な、何、急に」


 素の表情を見られて恥ずかしかったのか、ちょっと声が裏返っている。


「今までの君の言動は、どこか繕った部分があった。しかし、今の笑いは素の反応――そうだろう?」

「っ!?」

「俺を手玉に取ろうとしたようだが……悪いことは言わない。無駄なマネはやめておけ。相手が悪すぎる」

「……そうね。今ヒシヒシと実感しているわ」

「ならばいい。それより、俺と手を組まないか?」

「く、組むって……?」


 俺からの提案に、アルゼは目を丸くして驚いていた。


「この町で新しく商売を始めるつもりだが、情報屋とはまだ縁がなくてね。君にそのひとり目を頼みたい」 

「う、うちがギャラード商会と!?」

「さっきので君が嘘をつけない誠実な人間だと分かった。俺を本気で騙そうとするなら金貨を黙って受け取っただろう」

「…………」

 

 アルゼは黙ってしまった。

 さすがに急すぎたか?

 もしかしたら、他に契約をしている商会があるのかもしれない。


 ……しまった。

 そこまで考えていなかった。


「お誘いは嬉しいけど、それはできないかな」

「そうか」


 あっさりと断られてしまった。

 やはりどこかと専属契約でも結んでいるのだろうか。

 有能で可愛いし、スタイルもいい。

 大手商会が放っておくはずがないか。


 ……まあ、そこを潰して手に入れるってこともできるが。


「そうそう、まだ情報をあげていなかったね」

「む? そうだったな」

 

 忘れていた。

 この町で商売をしてはいけない理由。

 商人たちにとって聖地とも呼べるこの場所ほど商売に向いている場所はないと思うのだが、一体どんな理由なんだ?


 情報を待っていると――不意に良い匂いがした。


 原因はアルゼが急に顔を近づけてきたから。

 これは……彼女の匂いか。


「ザルフィンには気をつけて」


 耳元でボソッと呟かれ、思わずゾワゾワする。

 こいつ……俺の耳が弱点だと知って奇襲をかけてきたのか!?


「そういうわけだから。じゃあ、また縁があったら会おうね」


 そう言って、アルゼは手を振りながら駆けていった。


「な、なんだか凄い子だったね」

「耳……耳でしたか……」

「うん? 耳? 耳がどうかしたの、ルチーナさん」

「いえ、独り言です」


 コニーはなんのことか分からずに首を傾げているが、ルチーナには俺の弱点がバレてしまったようだ。

 

 それより……ザルフィンって誰?

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