第20話 交易都市ガノス

 屋敷で昼食を取った後、俺たちはガノスへと馬車で移動。

 距離も遠くなく、割とすぐに目的地へとたどり着けた。


「わあ! 凄い!」


 目を輝かせながら辺りを忙しなく見回すコニー。

 まるで大量のおもちゃを同時に与えられた子犬みたいな反応だ。


「昔とあまり変わっていませんね」

「だな。相変わらず人は多いし、どこの店も元気だ」


 店を出すための土地代を納めなくちゃいけないから、ここで商売をやる者たちはみんな必死だ。


 競争率が高いからこそ、安くて上質なものが生まれる。

 セレブを相手にした高級志向の店もなくはないが、そっちは少数派だな。

 大半は民衆受けを狙った一般店舗が乱立しているという印象を受ける……これも昔と変わっていない。


「レーク様! 出店もいっぱいありますよ! あちこちからおいしそうな匂いが漂ってきています! 食べ物が私に食べられたがっています!」


 すっかりガノスに魅了されているな、コニーは。

 空腹のせいか、語彙力がだいぶ低下している。


 この子の場合は色気より食い気って感じだな。

 まあ、すでにそのスタイルの良さで色気は爆発気味だが。


「俺も楽しみではあるが、まずは新しい店舗になる予定の空き物件に行ってみよう」


 ここでは準備が出来次第、俺の店をオープンする予定になっている。

 王立学園に通いながら商会支部の運営……これは骨が折れるな。


 できれば、優秀な参謀役が欲しい。


 ルチーナやコニーは製造部門担当になるが、それと違って商会の運営を補助――いや、最終的には俺に代わってバリバリこなしていってくれる者がいい。


 さすがにこれはすぐに調達できる人材ではないため、当面は俺がやらなくちゃいけないんだよな。


 学園側でやる予定のアレもあるし、これから忙しくなるぞ。


「そういえば、レーク様」

「なんだ、コニー」

「前から学園で計画していたことがあるって言っていましたけど、結局それって何だったんですか?」

「私も気になっていました。差し支えなければ教えていただきたいです」

「ふむ」


 ……そうだな。

 タイミングもいい頃合いだし、話しておくか。


「俺は学園内にも小規模な店舗を作ろうと計画していたんだ」

「が、学園内にお店を!?」

「そのような発想はありませんでしたね」

 

 コニーもルチーナも驚きに目を丸くしている。


 ただ、俺の前世では割と当たり前にあったんだよな。

 いわゆる購買部ってヤツだ。


 正直、ここに関しては利益度外視でやろうと思っている。


 大事な儲けは人口も多く、需要な豊富なこのガノスに任せておけばいい。


 学園内で重要になってくるのは、通っている貴族の御令嬢や子息たちにギャラード商会の優秀さをアピールすることだ。


「ふたりにも協力をしてもらうからな」

「もちろん!」

「お任せください」


 うんうん。

 従順で働き者というお手本のような社畜根性があるコニーとルチーナは偉いな。

 あとで何かご褒美に買ってやろうじゃないか。


 そんな話をしているうちに店舗予定の空き物件に到着したのだが――これがとんでもないボロ家だった。


「な、なんだ……これは……」


 まるで強盗にでも襲われたかのような荒れっぷり。

 直すには相当な時間と金がかかりそうだぞ。

 一体、ここで何があったっていうんだ?


 三人揃って呆然と立ち尽くしていたら、そこに声をかけてきた女がいた。


「あんたたち……もしかしてギャラード商会の関係者?」

「そ、そうだが?」

「ああ、やっぱり? 雁首揃えてボケッとしているからそうじゃないかなぁって思っていたのよ。こんな状況になってさぞ驚いたでしょ?」

 

 ヘラヘラと笑いながら、馴れ馴れしい口調で迫る謎の女。

 あまりにも軽薄な態度にルチーナが警戒心を抱き、俺の前に立って彼女の進路を塞ごうとした――が、俺は腕を伸ばしてそれを制止する。


「一体何者だ、おまえ」

「うち? うちは情報屋のアルゼ」

「情報屋?」


 こういう大きな町にはいるんだよな。

 さまざまな情報を仕入れ、それを売買することで生計を立てる情報屋が。

 大抵はいろんなところにコネがある老獪な人物がやっているのだが……彼女は俺の抱く情報屋のイメージとまったく違うタイプだった。


「ねぇ、うちから情報を買わない? これだけ荒れている真相を教えてあげるよ?」


 情報屋のアルゼ、か。

いまひとつ信用できそうにないが、本当に情報を握っているというなら聞こうじゃないか。

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